ビル・マーレイがギャンブル好きの飲んだくれ不良老人を演じ、ゴールデン・グローブ賞で作品賞と主演男優賞にWノミネートされた本作。監督と脚本を手がけたセオドア・メルフィのオフィシャル・インタビューが届いた。
―ヴィンセントおよび本作のテーマについて
この映画はとある男が友人になった少年を通して自身の価値に気づかされる話だ。そしてヴィンセントは理解するんだ。今の自分にも、これまでの人生にも意味があったんだと。悪いこともしたけど、いいこともした。みんなの面倒を見た。妻を愛した。国を守った。戦争に従軍して人々を守った―そんな風に考える。年月を重ねる内に彼の心は厚い殻に覆われてしまった。でも心の奥底では、いい人間なんだよ。それがこの映画で言いたいことだ。「自分は何も成していない、自分の人生は無駄だった」と考えているような、普通の人々を描いた映画なんだ。この映画はそれに異議を唱える。どんな人間にも価値があるんだとね。
―ビル・マーレイについて
どうしてもビル・マーレイに演じて欲しかった。彼がヴィンセント役にぴったりだと思ったんだ。俳優としての彼をとても好きだったしね。彼がイエスと言った時、キャスティングは終わったも同然だった。脚本家や監督がビル・マーレイを望むのと同じくらい、俳優たちもビルと共演したいはずだからね。ビルはそういう人さ。ビルがうなずいたと聞くと、メリッサも脚本を気に入って共演したがった。ナオミやクリス・オダウドも同じだったよ。そうやって、みんなうまく収まったんだ。
―ビル・マーレイとの仕事は?
ビルと一緒に仕事をしていて、彼こそが”聖人”なんだと気がついたよ。今まで出会った中で、最も心の広い人物だと思う。いつでも、誰とでも立ち止まって話をするんだ。街の人々や退役軍人、消防士などと何時間も話をして、写真を撮っていた。この上なく気前のいいスターだよ。まるで”聖人”だ。惜しみなく自分を捧げられる。「そんな時間はないよ」なんて言わない。
写真や握手も断わらない。人と出会う機会も同じだ。面白いかどうかは関係なく、出会いそのものにビルは喜びを感じているんだと思う。それが彼の人間的な魅力だと思うよ。
―ビル・マーレイの才能について
気難しい老人を想像してほしい。ものすごく嫌われているのに、同時に周りからは理解され愛されている役だ。こんな役をこなせる俳優は少ない。ビルよりうまくできる人はほとんどいないはずだよ。
―ジェイデン・リーベラー(子役)について
ジェイデンは飛び抜けた子だ。人間性の面では、小さなビル・マーレイといったところ。スタッフや共演者のことを理解し、どう反応すべきかが分かっている。飾らない演技の仕方を知っている。無理をしないんだ。いつでも落ち着き払って静かにそこにいる。その冷静さは大人もまねできないよ。
―メリッサ・マッカーシーについて
彼女について改めて何か言う必要があるかな?彼女はどんな役柄でもこなせるんだ。確かに彼女はコメディが得意だし、世界的にもそれで知られている。だがドラマティックな演技も驚くほど奥深いんだ。だから本作が見せているのも、メリッサ・マッカーシーという氷山の一角でしかないよ。
―ナオミ・ワッツについて
ナオミが演じるダカというキャラクターは、基本的にこの作品のコメディ要素だ。ロシア出身の売春婦で、口が悪く態度も大きいが、すごく生真面目なんだ。
―ナオミ・ワッツのキャスティングについて
(製作総指揮の)ハーヴェイ・ワインスタインが何度もナオミ・ワッツを薦めてきた。私は最初、ナオミ・ワッツはすばらしいと思うが、この役は彼女向きじゃないだろうと思った。簡単な役じゃない。あの役は、コメディ面でこの映画の中心なんだ、と。すると彼は、自分を信じてくれと何度も繰り返した。そして強引に決めたんだよ。いや、それは冗談だけどね。とにかく信じてくれと何度も言うから、会いに行ったよ。もともと好きな女優だしね。彼女に会って、1時間ほどお茶をした。そのときメリッサに感じたのと同じものを感じたんだ。ナオミ・ワッツには、観客や映画業界の知らない面がたくさんあるんだとね。それに彼女はとても愉快な女性だったんだ。
―クリス・オダウドについて
クリス・オダウドは、その場にいるだけでとにかくすばらしい俳優だよ。今はテレビシリーズに出演していて、この撮影には4日しか割けなかった。赤い目をして撮影現場に来てもらって、12時間とか14時間、ぶっ続けで撮影したよ。あれほど効率良く、見事に役を演じきれるのは、彼以外にいなかっただろう。時間もない上、徹夜だった。みんな思っていたよ。「ああ、クリス・オダウドでよかった、他の俳優だったらどうなっていただろう」とね。言葉では言い尽くせない俳優だよ。
映画『ヴィンセントが教えてくれたこと』は2015年9月4日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ、TOHOシネマズ 新宿ほか全国で公開!
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