どこにでも当たり前のようにあるハカリの基準となる<キログラム原器>とともに見つける幸せの基準を描いた映画『1001グラム ハカリしれない愛のこと』のベント・ハーメル監督にインタビューを行った。
―映画で描きたかったことは何ですか?
人間と人間の関係、人と人との距離、孤独、主人公に限っていけば非常に社交性にかけていたり、夫との離婚や父を失った悲しみ、悼む気持ちが描かれている。科学界について探求していくのは楽しい作業だった。定義をしている人も普通の生活を歩んでいる人間なんです。簡単に彼らと我々を分けることは出来ないし、実際にパリの国際度量衡局で撮影を行っているんです。僕自身もあまりよく知らなかったこの世界のことを学ぶため、それから製作費的にセットを組んだりロケ場所を探したりが難しいのはわかっていたので、撮れるといいなと何度も足を運んだんですけれども、非常にいろんなことを知ることが出来ておもしろかったです。こういったところで働いている人々は本当に人をハカリまくっているんじゃないかなんて思っていたんですけど、やっぱりちょっと特質なタイプの人が多かったし、それぞれが物事を見る意味みたいなものも違っていた。映画のストーリーを彼らと話したり、実はある国は本当にキログラム原器を無くしたという噂を聞いて、本当なんですかと恐る恐る聞いたら本当なんですと言っていた。定義をする人たちもそういう失敗をする。自分のストーリーは早い段階で交じり合った。結局人間の話。役者さんも人間であったり、みんな違って、そこからの仕事として演技を学んでいる。同じように科学者も人間。いろんな方が、恐怖を感じる人間。子どもたちもそう。どうしてどうしてというときに白黒を求める。どこかで基準を計る物差しを求める。この世界をひとつの枠にして人はなぜそれを求めるかを映画にした。同時におもしろいのは、定数は7つあったけど、最後がキログラム。定義をするのが難しいから。人間はなるべく正確に定義したいと思っているから、定義できないというのはフラストレーションがある。繰り返し突き詰めようとしている。毎年毎年、来年にしようと延期されている。
―監督が書く脚本は重みのあるセリフがあるが、監督の生活からにじみ出ている言葉ですか?
恵まれた人生を送ってきていると思うけど、みなさんと同じように人生体験をしてきているし、そういったといころがにじみ出てきていると思う。今おっしゃった言葉は、ノルウェーの詩人の言葉。新聞の記事で見た。クレジットは載せてるし盗用したわけじゃないです(笑)
―ノルウェーは青で表現されて、パリは温かいオレンジで使われているが意識しているのですか?
色使いは綿密に計画している。25年来仕事をしている撮影監督とムードを最初から計画をしていった。どんなにフレーミング、絵が画角的に撮れたとしても、やっぱりストーリーを支えるものでなければ何の意味も持たない。我々にとって大切だったのは、主人公の心の変化あるいは内なる旅というものを表現しているかどうかということだった。当然、街並みとして北にあるノルウェーを寒色、パリは暖かい暖色になる、というのもあった。それよりも彼女の心をいかに表現できているかというのが大事だった。彼女はずっとYESというのを抗っている。自分が生きるうえで指標になる物差しにしがみついて生きている。最終的にパリにいるときにYESといえる。恋愛にもYESと言えればいいんだけどという監督の思い。画作りには努力もしていて、(撮影で使用した)ノルウェーの研究所は半分は北側は赤で、南側は青という色彩設計がされていた。北側の廊下で撮影するときは柱を青く塗らせていただいたりしている。
―ノルウェーが冷たい感じで描かれていたが実際はどうですか?
実際きたらどうなのか?いやいや違うよ(笑)そうじゃないとうれしい。
―役者への演出は?
素晴らしい役者であると同時に超プロフェッショナルなんですけど、すごくオープン。いろんな考えを、これっていうのではなくて、オープンにいろいろ考えてくれる、それがアーネ。最初に僕らが決めたことっていうのが、彼女が人生にYESと言うがそこに持っていくまで抑えていこうという判断だった。やっぱり観客の方も彼女の変化をもっと劇的に見たいだろうからスマイルを小出しにしていくほうが娯楽性は出たのかもしれないけれども、僕らの判断としては最後にまで抑制していって、最後に朗らかになっていく、ほぐれていく彼女を見せるということで彼女も自分の解釈したキャラクターがそうだって共感してくれた。本当に最後の最後まで笑顔のマリエは見ることができなかった。もうひとつ、パリでも普通の男子。配給会社はもっとイケメン的な身長の高いダークな感じがいいんじゃないとか言ったけど、普通であることが大事だった。だからこそマリエは話を聞くことが出来て、そのことが染み入るそういう存在になれた。監督としては彼女の孤独だったり、人生にYESと言うことを抵抗してしまうところというのを長く見せるというのを、娯楽性にかけてしまうというリスクをはらんでいたが、それが僕の作りたい映画だったし、アーネも同感だった。今まで知らなかったのが、彼女がいくつかの言葉を話せるということ。フランス語できると思っていなかったので、最初英語で脚本を書いていたけどフランス語で出来てよりいいものになった。今回自分にとって初の女性が主人公と言う作品ではあるけど、彼女の持っている孤独みたいなものがとても人間的なものだと思うし、そういう風に見せたつもりです。逆に言えば女性独特の孤独を感じているわけではない。性別は関係がない。おもしろいのは主人公が男だったら、孤独という設定だったらすんなり入るが、女性だったら友だちが多いし、伝えたい人がすぐ近くにいる環境が多いかもしれないけど、あまり聞かれなかったりもする。こういったこともアーネもやりたいとわかってくれた。セリフではなく表現していくというのも同感している。
映画『1001グラム ハカリしれない愛のこと』は10月31日(土)よりBunkamura ル・シネマほか全国で公開!
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