両親の離婚で同い年のキョウダイとなった小学生が、あの手この手で両親を離婚させようと奮闘する家族を描いた『鉄の子』に主演の田畑智子にインタビューを行った。
―映画祭のオープニング上映が前提で作られた作品ですが、そのような企画についてどう思いますか?
あまりそういうことを思って作品に臨んだということがないです。この作品の台本を読んで、やよいさんという女性に対して興味を抱いて、ぜひ演じてみたいと思いました。
―映画祭で上映されるということで何か特別な思いはありましたか?
いつも自分のできる全てのパワーを使って臨むので、みんなが思い入れを持った作品をそういった形で上映させてもらうっていうのは、すごくいい形で映画が撮れたんじゃないかなと思います。
―本作は監督の過去のエピソードからインスピレーションを得ていますが、原作がないものに対してと原作があるものに対しての演じ方の違いはありますか?
あまり差がないです。役者さんによっては原作を読んでから入られると思うんですけど、私はそれをしない人なので、今回も「監督のお母さんはどんな感じなんですか?」とか「この人どうだったんですか?」とかは聞かないで、自然に、この人の人生を演じればいいんだなと思いました。原作がマンガとかだとイメージが付いてると思うんですけど、そのイメージに流されたくないというのはすごくあるので「私が演じると、こうなんだよ」という演じ方をします。あまり重く考えないようにしてます。
―(陸太郎を演じる)大志くんがシャイだったと聞いていますが、短い撮影期間でどのように接しましたか?
私も経験があって、大先輩の役者さんと親子をやらないといけないときに大先輩だって分かっていて緊張していたのを、その方がリハーサルのときに一回抱きしめさせてくれって言われて、すごく緊張がほぐれたことがあった。それから私も作品に入るとき、たとえば私の旦那さんの役だったり、親友の役だったり、もちろん子どもの役だったりすると、ちょっと触れさせてくださいって言うのをカメラが回っているところ以外でやったりします。そういうことを常に頭において、大志くんのそばにいるようにして、一緒にご飯を食べたりとかは心がけていました。特に血のつながった親子の関係なので、距離を取ったりということをしないで、普段から朝「おはよう」から「お疲れさま」まで、カメラが回っていないところのコミュニケーションが画面に反映されると私は思ってるので心がけていました。
―観ていると本当の親子のような微妙な距離感がありますね。
特にこの親子はそうですよね。子ども同士で遊んでるときとか、ボールを蹴ったり投げたりしているときに、観ているだけでも彼らは「いてくれるんだ」っていう安心感があると思うんですよね。笑顔で接するようにしています。
―大志くんは映画デビューなので特に大切ですね。
最初会ったときも緊張でカチカチだったのでどうしようと思いましたけど、日を重ねていくうちにちょっとずつ打ち解けてきてくれて、ちょうどいい距離感がありました。ベタベタな親子の役ではないので。見守ってくれてるし、見守ってあげてるっていう程よい距離感でやれたんじゃないかなと思います。
―逆に自分が見られていると感じることはありましたか?
大人の顔色をうかがう子だなと思いました。人の言うこともよく聞くし、ただ負けず嫌いで無口で、やるときはやるぞって子だなと撮影が進む段階で観ていて感じました。最初は触れられるのもいやだって子だったので、そこを強引に!(笑)
―子どもたちと一緒に画面に映っているシーンは意外に少ないのですが、それ以外のシーンで現場に足を運んだりはしましたか?
いました。控え室に戻らないで現場にいるようにしてました。それはジョンくん(西野紺役の裴ジョンミョン)も一緒です。極力戻らないようにしました。見守っているぞという。
―初めに台本を読んだときに結末を知ってどう思いましたか?
もったいないなと思いました。ハッピーエンドという形ではない終わり方ですけど、もうちょっとうまくコミュニケーションを取っていれば、その難しさをどのように演じたらいいんだろうという悩みが大きかったかな。映画の中では、途中のこうなってこうなりましたっていう説明が飛び飛びになっていたので、そこを考える時間は結構あって、ここはきっとこういうことがあったからこうなったんだろうなっていう考え方をしたり、裏でこうなってるんだろうなっていうことを考えさせる台本だったかなってすごく思います。
―映画の中では多くを語らず、その間を観客が想像するシーンが多いですが、演じる側として間は想像しましたか?
想像してました。ジョンくんとも、夫婦になって最初のうちは家族だんらんのシーンがあったけど、すれ違いがあって崩れていっちゃう。いきなり喧嘩になったり帰りが遅くなったりするので、きっと何回か、あったはずなんですよね。そこが描かれてないので、どう出せばいいんだろうっていう微妙な演じ方や、ここでは我慢して演じてとかは、ジョンくんと「ここはこうだよね」「そうですね」みたいな話はしました。
―子役のふたりともそういう話はしましたか?
しなかった(笑)そこはしなかったですね。現場で家族のシーンがあると気になって本当に見守る感じでしたね。監督がどういう演出をしているのかはこっちにも影響があるので、そういう風に演出しているんだったら、こっちはこういう風に受けたほうがいいのかなって考えました。ほとんど決めようと思ってやっていなくて、自然にその場で生まれたことで、それがごくごく自然に映像に映ればいいなって思っていました。監督とも何シーンかだけ話し合いしましたけど、あとは自然にスムーズに撮影に臨めました。
―監督とあまり話をしなくても意図を読めましたか?
監督は「とりあえずやってみようか」という方で、もしダメだったら「こういう感じでやってみよう」という方なので、それじゃダメとはあまり言わない。大人にはですけど(笑)私はすごくやりやすかったです。ただ、最後のシーンは悩んで話し合いをしました。
―監督は長編二作目ですが、今までの監督との違いはありますか?
人それぞれなんですけど、監督の中で思い入れのある作品だと思ってるんで、その期待にこたえられたのかっていうのが不安でした。「田畑さんは大丈夫です」と言われたのでよかったかなと思いましたけど(笑)
―ポスタービジュアルにもなっているこの写真を撮影したときの思い出はありますか?
これはスチールのカメラさんが「ちょっと撮ってみよう」と言って撮りました。撮影の合間に「撮ろう」と言ったので、まさかポスターになるとは思っていなかった(笑)でも、口紅と鉄はキーポイントではあるので、これを持って撮ろうと。
―ポスターを見てから作品を見ると全然イメージが違うと思いました。
だからこれにしたんでしょうね(笑)真理子ちゃんの最後のセリフがすごく感動的で、あの一言でこの子がどれだけ気持ちが揺れていったのがすごくよく分かる。
―真理子ちゃんが口紅をいじるシーンは、田畑さんが二人きりで演じるシーンで最初の方だと思いますが、撮影の合間にお話はしましたか?
しました。本当はどういう色がすきなのとか(笑)もう化粧品には興味があるから「田畑さんは何を塗ってるの?」とか、そういう話をしました。
―母と娘という役ですが、母と娘としてのお話ですか?それともガールズトークのような話ですか?
ここではガールズトークだったかな。私の姪っ子もこのくらいの年ですけど、ガールズトークです。まさに、こっちの色をつけて欲しいとか言いますからね。女の子は興味を持ち出す年ですし、紺ちゃん(劇中でのやよいの夫・西野紺)がいつごろ離婚したのかは書かれていないから分からないですけど、そうやって近くで化粧品を見るのは初めてなんじゃないかなと思います。
―劇中で“しいたけがない国”など「いろんな国に行けるトンネル」として子どもたちが語りますが、田畑さんが行ってみたい国はありますか?
高校生の時代に戻りたい(笑)今思うと高校が一番楽しかったかなと思います。部活やったりとか、友達と帰りにどこかでご飯食べたりとか、そういうことをやってみたい。昔に戻れる国(笑)今の状態で戻ってみたい。それかデビュー作のときに戻りたい(笑)今のままで。そうしたらもうちょっと怒られなかったかなと思います。
―エンディング曲「大人になったら」の歌詞の中で「大人になったらわかるのかい」とありますが、大人になったらこの世の全てが分かると思いますか?
分かりません、というかいつになったら大人と呼べるんだろうと思っています。一応二十歳ということになっていますけど、いつになったら大人になれるんだろうって自分自身思っています。大人ってなんだろうって思っています。分からないことだらけです。
―最後に映画をこれから見る方にメッセージをお願いします
この世界にはいろいろな家族の形があると思うのですが、この四人の家族の形を見ていただいて、改めて子ども対子ども、対夫などのいろいろな関係の絆を見直して、考えてもらえればいいなと思います。子どもたちの成長ぶりを見ていただきたいなと思います。
映画『鉄の子』は2016年2月13日(土)より角川シネマ新宿、MOVIX川口ほか全国で順次公開!
監督:福山功起
出演:田畑智子、佐藤大志、舞優、裵ジョンミョン、スギちゃん
配給:KADOKAWA
2015年/日本/74分
(C)2015 埼玉県/SKIPシティ 彩の国ビジュアルプラザ