会社を解雇され、新しい職場に順応しようと苦闘する熟年男を通じて、個人の尊厳と社会のシステムの矛盾を描いた映画『ティエリー・トグルドーの憂鬱』で主演を務めるヴァンサン・ランドンにインタビューを行った。ヴァンサン・ランドンは本作でカンヌ国際映画祭主演男優賞を受賞している。
ヴァンサン・ランドン 映画以外の人生についてもそうですが、私はティエリーになりたいと思ったのです。この人が好きですし、実際に会ってみたいと思いました。この役を演じることはいかに彼に近づくかです。それは彼の価値観に近づくことでもあります。
―本作では、フランスの社会問題や歪を描いています。日本にも主人公ティエリーと同じような方はたくさんいて、心に響く作品です。
ヴァンサン・ランドン 本当に残念なことですが、ティエリーはどの国にも、すべての分野にティエリーがいるのです。強者が作った法に対抗しようとするのは大変なことです。しかしながら、そこで「NO」ということは自由であることを表していて、どんなに大きな代償を払ってでも、自由を獲得しようとすることは私の戦いでもあります。
―フランスでは100万人が鑑賞したというヒットになりましたが、自由を得るために戦うことがヒットの要因だと思いますか?
ヴァンサン・ランドン なぜこの映画がヒットしたかは私にも分からないのですが、おそらくこのティエリーは現代のヒーローなのだと思います。以前のヒーローはカウボーイだったり、法を作ったりする人だったかもしれません。今の時代のヒーローは圧力や不正などを堂々と拒否し、「NO」と言えるのが現代のヒーローと言える人だと思います。この映画を観て、多くの人たちがティエリーのように生きたいと考えたことがヒットした理由の一つだったかもしれません。
―現代に生きる象徴のような人物を演じましたが、参考にしたものはありますか?
ヴァンサン・ランドン 演技をするうえで参考にするものを探す必要はありませんでした。ただ周りを見るだけでよかったのです。フランスには多くの失業者がいます。困難な生活を送っている人は例えばカフェに行けばいますし、映画館に行けばいます。どこにでも職を求めて困難な生活を送っている人はいます。彼らはやがて自信を失って、希望を失っていきます。こうした人たちは本当にどこにでもいるのです。
―ティエリーの若く希望に満ちた時代を想像しましたか?
ヴァンサン・ランドン 演じるにあたり、その人がどういった生活を送っていたかは考えませんでした。彼がどのように仕事に臨んでいるのか、どのようなものを扱うのか、これを演じることが成功すれば役作りは成功と言えます。主人公が持っている哲学などは後についてくるものです。
―動きは自身で考えるものですか?監督とのコミュニケーションで生まれるものですか?
ヴァンサン・ランドン 私自身です。
―本作では失業率の高さを描いていますが、テロ対策が優先されて、失業対策は後回しにされていることはありませんか?
ヴァンサン・ランドン 私自身はふたつの問題は関係ないと思います。問題はとても複雑です。問題は何が一番いいかではなく、どうすれば最悪を避けられるかです。
―会社の名前を聞くのも嫌だとティエリーは言いますが、ティエリー自身はどう思っていると思いますか?
ヴァンサン・ランドン 彼は戦うことが嫌だというわけではなく、何年もストや闘争を続けてきたわけですから、そろそろ一歩前に進もうじゃないかと思っていたわけです。彼自身は養わなければならない家族もいますし、ずっと組合闘争を続けるわけにはいかない。新しい何かを始めて戦いに臨もうとしているところだと思います。
―今回俳優ではない人との共演で刺激になったことや大変だったことはありますか?
ヴァンサン・ランドン 大変なことは何もなく、刺激的なことしかありませんでした。とても新鮮でした。彼らは物語といいハーモニーを醸し出していた。
―本作に出演して俳優として学べたことや刺激になったことはありますか?
ヴァンサン・ランドン いろいろな役をやってきて、昔の私から変化があったかもしれませんが、それを言葉にして表現することはできません。
映画『ティエリー・トグルドーの憂鬱』は2016年8月27日(土)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国で公開!
監督:ステファヌ・ブリゼ
出演:ヴァンサン・ランドン
配給:熱帯美術館
2015年/フランス/93分
© 2015 NORD-OUEST FILMS - ARTE FRANCE CINEMA.