『真白の恋』佐藤みゆき 単独インタビュー

INTERVIEW

美しい港町富山県射水市を舞台に、軽度の知的障がいのある主人公、真白(ましろ)の初恋をオリジナル脚本で描いた『真白の恋』に主演の佐藤みゆきに単独インタビューを行った。

―撮影の感想をお願いします。
 撮影が2年前のことになるのですが、宿泊体験施設として貸し出している一軒家で、11日間でギュッと撮っていた作品なので、夢のような時間でした。周りの方にはよく、(撮影当時の年齢である)30歳まで生きてきたご褒美のような11日間だったと言っていました。20代前半から後半にかけてずっと演劇をメインに、年7~11本のペースで、何かの役である期間ばかりでしたが映像も積極的にやろうとなったときに、必然的に舞台の本数を減らしていったので、それがとても辛く感じもした時期だった事を覚えています。そんなタイミングで、実際に劇中の真白の部屋で泊まり込んで撮影し、寝る間もなく役として生きていることができ、富山の土地の美しさや周りの人のあたたかさの中で、キャストやスタッフが親戚のように近づいていく、という体験は、人生の宝物のような時間でした。

―11日間の泊まり込み、それはとても濃密ですよね。
 私はスケジュール的に市内のホテルに戻る方が寝れなくなるので、支度部屋も一軒家にありましたし、メイクもスタイリストもそこの部屋の一角にありました。休憩中も、劇中と同じ居間でコタツに入って、「寒い、寒い」と言っているのを、お父さん・お母さんが「まったく真白はもう」と笑ってきたり、お兄ちゃんはずっとジャージでいて「ちゃんと着替えてるの?(笑)」と声をかけたりとなかなか面白かったですね。あまりに居心地がいいところだったので、スタッフさんや本来ホテルに戻るべき岩井堂さんも隣に居たりしましたね(笑)

―軽度の知的障がいを持つ主人公という難しい役柄を演じるにあたり、どんなことを考えてらっしゃいましたか?
 脚本を担当された北川さんの弟さんが軽度の知的障がいをお持ちで、弟さんがモデルになっている部分があると伺っていました。(真白は)皮肉っぽいことや、つっけんどんなことを言うのですが、そこにユーモラスなセンスがあるのは弟さんがモデルらしいので、圧倒的に「この脚本を信じて演じる」とした上で、でも弟さんにお会いするわけにはいかないし、ならばどうしよう、と思った時になるべくたくさんの(同じような境遇の)方に会ってお話を聞こうと思いました。彼らが図工のセットを詰める作業をしていたりする作業所に一日お邪魔して、一緒に作業をさせて頂いたり、ご飯を食べたり、職員さんのお話を伺い、彼らとお話したりと取材をさせて頂きました。そうした中でなんとなくわかった一時的な結論としては、職員さんがよく仰っていた「障がいは個性」ということなんですね。いわゆる「知的障がいがない」と言われる人たちでも、個性はたくさんあるじゃないですか。それと変わらないから、認めて、理解して、付き合っていくことが大事というだけの話なのだと。みんな違うし、だけどみんなあまり変わらない。自分が思った通りに脚本に書いてあるまま演じればいいのかなと思って、撮影に入る前はそのような心づもりでした。あとは、周りの皆さんが(私の演技を)「真白」にしてくださいました。実は真白のお部屋のシーンは撮影の1日目に最初から最後まで全部撮っているんですよ。スケジュールを見た時は本当にやるの?と思いましたけど、あれを初日に撮れたことで、その後の予定がどれだけ順撮りじゃなくても、地図になってくれたというか。また、監督からは最初何も演出がなく不安ではあったのですが、よくよく後から聞いてみたら「みんなが作り込んできてくれた役が完璧だったので、あとはそれがぶれないように、僕はぶれた時にだけなにか言うようにしようと思ったんです」と仰っていて。監督の演出は「それはやりすぎです」とか「それは真白さんじゃないです」といった微調整でした。あとは、主演は相手役にリアクションしていくものだと思うので、周りの方からの投げかけに素直に応えようと思っていました。

―主人公「真白」に強く感情移入したシーンはありますか?
 全てを否定された時、お母さんに強く問い詰めるシーンですね。私は絶対あんな風に言えないですけど、対象がお母さんでないにしろ「どうして私はこうなんだろう」とか思うことは人間付き合いをしていてもそうですし、このお仕事をしていても思うことはあるので、その場面では、いつも思うけど口に出せないことを真白さんの体と役を借りて出せたな、とは思っています。あそこは15回くらい撮ってるんですよね。1カメなんで。大変でした(笑)みんな大変だったと思います。みんな15回“ガチ入り芝居”をやってますからね。

―キャラクターの中で、この人が好きだったという人物は居ますか?
 1日目に、岩井堂さん演じる雪菜さんが、(役柄や雰囲気を)一緒に作っていってくれた感じだったんですよ。だからいちばん心の距離が近いのも雪菜さんだと思いますし、真白さんにとって雪菜さんが居なかったら結構辛い。あんなにのびのびとはしていられない気がするので、雪菜さんですかね。あと、(劇中に登場する)カメラ屋のおじさん・・・は、富山の一般の方で、今やプロデューサーとして富山の宣伝活動を一手に引き受けておりますけど、広告制作のお仕事をしている普通の方なんですよ。よく「俳優さんじゃないの!?」って驚かれるんですが。坂本監督の映画で主役と絡むちょい役を狙い続ける、と仰ってました(笑)

―この映画で主人公2人をつなぐキーワードとして「写真」がありますが、佐藤さんは普段写真を撮りますか?
 ずっとやりたかったんです、外国に行く時は使い捨てのレンズ付きフィルムを持っていって現像するというのはやっていたのですが、20歳のときに買ってもらったデジカメが壊れてしまってからは携帯で撮るということにしていました。でも劇中で両親が真白のカメラに写った写真を見るシーンで出てくるのは本当に私が撮っていたものです。監督から「あそこのシーンで使いたいから、これを貸しておくので撮影中に撮っておいてください」と言われていて。その貸してもらったカメラを「欲しいなあ欲しいなあ」と言っていたら監督が本当に下さって、今はそれを使っています。

―この撮影で印象に残っているロケ地や思い出があれば教えてください。
 ロケ地の辺りは港から川で漁船が入ってきて・・・という川の街なんですね。その辺で早朝に撮っているときに、出かけていく若者たちの漁船が、「何撮ってんのー?」「何ていう女優さんなのー?」と聞いてきて、「佐藤みゆきですー!」「がんばってねー!」「はい!」というやりとりがありました。港へ出ていった若者たちが帰ってきてもまだ撮影をしていたら、「イワシあるけど食べるー?」と声をかけてくれて、「行くっ!」って言って刺身なんかを頂きながら、お話を聞かせてもらって、なんて若い人たちが元気であったかい街だなと思いました。(同じ富山がロケ地の映画)『人生の約束』よりも私たちが撮影していたのが少し早かったので、映画の撮影をしていることが新鮮だったのかたくさん応援の声を頂きました。

―最後に本作を楽しみにしている方々にメッセージをお願いいたします。
 富山のみなさんが自慢する立山をはじめとする景色が本当に美しく、その中で撮ったあたたかい作品になりました。本当に、小さなお子様からおじいさんおばあさんまで、誰でも何かしら共感ができる、心のどこかを震わせる作品になったと思うので、ふらっと観にきて頂いて、感想を聞かせて頂ければ嬉しいです。

【取材・写真・文/坂東樹】

DATA
映画『真白の恋』は2017年2月11日(土)より富山県先行公開、2月25日(土)よりアップリンク渋谷ほか全国で順次公開!
監督:坂本欣弘
原作・脚本:北川亜矢子
出演:佐藤みゆき、岩井堂聖子、福地祐介、長谷川初範
配給:エレファントハウス
©sagan pictures

PAGETOP
© CINEMA Life!