『グッドモーニングショー』君塚良一監督 単独インタビュー

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INTERVIEW

「踊る大捜査線」の脚本家・君塚良一が贈るオリジナルコメディ映画『グッドモーニングショー』でメガホンを取る君塚良一監督に単独インタビューを行った。

―なぜワイドショーをテーマにしたのですか?
 僕は、今は映画の脚本書いたり、監督をしたりしていますけど、もともとコント作家から入って、ずっと放送作家をやっていたんです。ここ十年くらいはTVとはほとんど関わってないんだけど、TVを何十年もやっていて、TVっておもしろいし、特殊だし、変わっていて不思議なメディアだなというのは実感してたんです。少し離れて映画の世界に来るようになって客観的に見ていると、さらに不思議になって、視聴者との関係もちょっとわからなくなってきた。いい作品もあるけれど、何をやりたくて作っているかもわからない作品もあって、元々そうだったのか今がそうなのか、僕は中にいたから分からなかっただけなのかも分からなくて、これは一度自分にとってのTVというメディアを総括するという意味で取材し直して、勉強し直そうと思って始めたんです。そうすると、やっぱりTVって“これがTVだ”というのがないんです。なんだか分からないメディアだなと。基本的なものがないっていう感じがした。悪く言えば何でもありだし、でも視聴者とはすごく密接に繋がっていて、視聴者が求めるものは何かとか、視聴者が求めるものを、今の言葉で言えば忖度して、“みなさんはこれを望んでいるでしょう?”と思って作る。とにかくよく分からなかった。分からないことだらけ。今もそうやって混とんとしていて、カオスなんですよね。それをあえて映画で描いてみようと思ったんです。そこで働く人も、作っている人たちも含めておもしろかったです。

―情報番組の経験はありますか?また、久しぶりのTVの現場はいかがでしたか?
 一回だけ放送作家のころ、朝の情報番組の構成をやりました。二十代の終わりの頃です。その時は結構やりたい放題で、今みたいにコンプライアンスはなかったんで、やってみて結果的に数字が悪かったのですぐに終わったんですけど、現場は久々でしたね。ただ僕は(その当時は)放送作家で入っていますから、深夜に終電でスタッフルームに入って、ニュースとか来た情報をまとめて、順番を決めて、台本を作ったくらいですから、そこでワイドショーとは何かとか、ワイドショーの数字を上げるためにどうすればいいかとかそういうところまでは関わってないです。

―作品の中で見どころの一つがリアルな描写ですよね。スタッフ役の方々は一人ひとり指導されたのですか?
 それぞれに経歴や、正社員なのか契約社員なのか、何をやっているかを含めて指導して、何となくざわついた雰囲気という演出にはしなかったです。あなたはこの仕事だからここにいて、次はここにいくだろうと。なんとなくわさわさするのだけはやめてもらって、それぞれの仕事をやってもらった。グルメならグルメの担当の実際の朝の番組のディレクターをずっと撮ったビデオを見てもらって、それぞれが何をすべきなのか、全部設定を決めて、その中ですべきことをしてもらった結果がああいう風になったということです。この手の群像劇って僕は好きなんですけど、細かくひとつひとつやっていかないとムードだけだとなかなかうまくいかないですね。たくさんの登場人物がいて、それぞれに必ず何か役目があるんですよ。 “らしくやる”のではなくて、役目を与えて、その役目を演じたら結果的に走り回ったというわけです。だからリアルにできたし、僕の好きなドキュメンタリータッチの絵になったと思います。

―実際の現場で撮影しているようにリアルだったでしたね。
 普段見ているTV番組の後ろ側から見たときに何が映っているのかというところを見て欲しかったんです。それが僕が好きなお仕事ドラマのひとつで、絶対見られない反対側です。あれだけ右往左往している人がいるんだということ。実際に映っているは綺麗なアナウンサーの方とかがいて、整然とあたかもリハーサルでもしたかのように進行していくけど、裏側では実はドタバタしている。

―途中でアナウンサーが抜けたときの演出などが細かくて、こんなこともやるんだと思いました。
 あれもモデルがいます。人と違うことをして、それをのカメラで撮るのが好きなスタイルです。

―リアルな描写が多い反面、犯人を追ってキャスターが出ていくというのは現実よりは非現実的に感じました。
 外へ出たいということもあり、また最終的には中井貴一さんといういろいろなものを抱えて悩む男を映したかった。裏側が見れたりするのも魅力的だけど、やはり映画は最終的に人を描かないといけない。組織から飛び出した主人公が、若者と出会うことで何があるか。最終的に二人のお芝居にしたかった。このストーリーを思いついたときに、実際のアナウンサーに「あなたなら行きますか?」と聞いたら、本音で言えば“おいしいと思って行く”って言っていました(笑)実際には危ないから行かせてくれないですけどね。でも、モチベーションもあるし、ひっかかってるものがあるんじゃないかな。独占インタビューもそうですけど、彼らも競争ですから。

―時間軸を追っているのでリアルタイムのように感じました。
 TVメディアの物語を作ろうとしたときに、朝の番組にすべてが詰まっている気がしたんです。生放送だし、ニュースもあるし、天気予報も芸能もスポーツもある。視聴率でしのぎを削っている部分もある。だったらそれを3日間の話とかではなくて、ぎゅっと詰めようと思った。同時にディレクターたちに聞いてみたら、“できれば番組内で解決まで行ってほしい”というのが本音だとということもあった。彼らが事件を解決したわけではないけど、2時間の中で事件が収まるかというよりも、番組内に収まるかと平然と思っている。僕から見ると喜劇だけど、視聴率とかを優先しているのがおもしろいのでぎゅっと絞ろうと思った。実際にはリアルタイムではなですけどね。とにかくあっという間の1時間40分にしたかった。編集の人にも暴力的な早さと言っていたんですよ。

―途中で報道番組が絡んできますが、情報番組と報道番組の考え方の違いに驚きました。
 これももちろん取材をしています。報道番組の方からはいろいろ言われました。台本を読んだだけで「私たちをいじめないでくれ」って(笑)どっちにしても悪役になっちゃうんですよね。あるチームが頑張ることで表面上は協力体制は当たり前だけど、本音の中では“事実と原因が報道だ”という人と、“わかりやすく伝えましょう”という情報の方と、そこは相いれないですよね。

―報道番組の関係者が入ってくるのは何かのエピソードに基づいていますか?
 実際に情報番組の中でとてつもなく大きな事件があったというのはないですけど、あの状況になったらどうなるかと考えたら、引き取りたくなるわけです。どっちがいいとか、どっちが悪いとかじゃないですよね。物事を伝えたいという根源は一緒ですけど、方法論が全然違う方々ですからね。

―TV番組をおもしろくするための現場の様子を、さらに映画としておもしろく映したポイントはありますか?
 僕は監督としては喜劇は初めてでした。どのように撮っていいのか不安でしたが、少なくてもおもしろそうに撮るのだけはやめとうと思った。全員が真剣です。真剣にやっているんだけど、外部から見たらおかしいというコメディを狙ったので、絶対に面白くなるぞ、とか笑わすぞというのはなく、まじめに撮っていた。どうしていいかわからないときはいろいろなパターンを撮りました。コメディにしないパターンや、思い切りやってみるパターンとか。それを編集の担当者に見てもらう。海外の映画祭で審査員はこの映画をブラックコメディと受け取るんですよね。モノの見方だと思います。「踊る!大捜査線」も受け取り方によってはブラックコメディだと思うんです。あんなひどい署長が市民を守っているのかと。喜劇じゃん、ここまできたらと。だから喜劇と受け取るか、ブラックコメディと受け取るかですね。喜劇的なところで言うと、中井さんと濱田君は、濱田君をプロデューサーがキャスティングしてくれた段階で、これはどう考えてもよくなると確信としてありました。ここは真剣に二人だけでやってもらって、その真剣な様子を傍から見るとおもしろいだけで、二人は真剣勝負をしていましたよね。

―中井さんの演技はもちろん素晴らしいですが、その反面笑いが取れるシーンも多いですね。役柄についての話し合いはどの程度されましたか?
 話し合いはもちろんしましたが、おもしろいもので、主役の俳優さんと監督の関係って、出てくださいという段階で僕の望みを俳優さんはわかるのです。“なぜ僕なのか”って。そこから役のイメージを作っていくんだと思います。“なんとなくあなたに決まったのでやってください”と言うんだったら別だけど、そういうことはありえないので。中井さんは“武士として誇りを持つ男”というのもやらせたら日本で一番だと思うんですけど、同時にちょっと適当で自信がなくて、自分をさらけ出してしまうくらい怯えたりすることができるのも中井さんなんです。これは台本とともにオファーしたので、そっちなんだなと思ってくれた。基本のラインはまじめだけど、コメディ映画はそういうものではないというのか分かっているから、中井さんの中で意図的にオーバーアクトしているんです。僕はそんなに求めてはいなかったんだけど、お客さんへのサービスでオーバーアクトでやるんですよね。それは中井さんが持っている力や才能であって、僕の力ではないです。いざ、自分にとっての災難があったときに強い芝居をしてくれたのでありがたかったですね。

―主役級の出演者が多くいらっしゃいますよね。最近活躍していらっしゃる林遣都さんの出演シーンも多くありますが、モデルはいましたか?
 彼の設定はもともと報道部の記者だったんです。それで震災の取材に行って心のダメージを受けてしまって、しばらくワイドショーで少しゆっくりしなさいと言われている役です。だから、彼の中では報道部への思いもある。報道部の時はワイドショーを馬鹿にしてたんですよね。劇中でもありますよね、「なんで芸能が先なんだ」と。報道部の態度への思いもあって、実に複雑な役でした。あるときはワイドショーを冷めた目で見て、ある時は報道部を冷めた目で見て、でも彼の結論は「これが視聴者が見たいんだよ!」っていう本音なんです。実はあれは台本にはなかったんです。やってるうちに叫んじゃったんです。役にハマるというより、役を自分に引き寄せて、林遣都というディレクターを演じた。最初は「分からない」って言っていたんだけど、最後にはアドリブで叫んじゃった。とてもいいカットだったし、林君だからこそやってくれた。僕は台本なんか信じるなっていう人で、そういうところを分かってくれて、この監督は自由に動き回っていいんだな、拾ってくれるんだなと分かってくれる人。この映画の後の「火花」にしても、彼の感性ですよね。もう一回やりたいタイプの役者さんです。もちろんほかの皆さんもよかったです。初めての方が多かったので。俳優さんは、僕の持論でいうと、演出をして追い込んでいくというより、持っているものを自然にやってもらって、テクニックを見せる一歩手前の芝居が好きなんです。だからほとんどテイク1をOKしちゃう。

―劇中でも対立したときのきっかけが林さんのセリフでもありますよね。
 彼は楽しんでやっているよね。感性のままに、口から出ちゃったものをさらけ出している。すごくまじめで、悩みながら現場に来て、現場では雰囲気や空気の中で感性のままに動いたり走ったりする人ですね。

―初めてご覧になる方にメッセージをお願いします。
 映画の原点に返って、ドキドキして、ハラハラして笑えるというエンターテインメントに徹しています。テーマはあるけれど、強い人間の闇とかを打ち出すということはしていないです。見終わった後に、いつも見ているTVってこうだったのかとか、なんで毎日見ているんだろうと考えてもらえたらうれしいです。とにかく楽しんでもらいたいです。

『グッドモーニングショー』Blu-ray 豪華版


DATA
映画『グッドモーニングショー』Blu-ray&DVD発売中!
■Blu-ray 豪華版 5,500円(税抜)
■DVD 通常版 3,800円(税抜)

監督:君塚良一
出演:中井貴一、長澤まさみ、志田未来、池内博之、林遣都、梶原善、木南晴夏、大東駿介、濱田岳、吉田羊、松重豊、時任三郎
発売元:フジテレビジョン 販売元:東宝
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