『心に吹く風』ユン・ソクホ監督 単独インタビュー

INTERVIEW

北海道を舞台に描かれる“風と光に彩られた大人の純愛ラブストーリー”『心に吹く風』でメガホンを取ったユン・ソクホ監督に単独インタビューを行った。

ユン・ソクホ監督は、ドラマ「冬のソナタ」(2002)をはじめ、「秋の童話」(2000)などピュアでロマンティックな感性を生かしたテレビドラマを手掛けてきた韓国の巨匠。ドラマ一筋でキャリアを重ねてきたユン・ソクホ監督が「死ぬまでにぜひ、やってみたかった」という長編映画に初めて挑んだ。

―タイトルにもある通り、風が印象的な作品だと感じました。風が吹くのは“偶然”だと思いますが、風を待って撮影されたのですか?
 そうですね、ほとんど実際に自然の現象を待って撮りました。天気がとても大事だったので、現場で思った映像が取れなくて、戻ってまたトライしてということもありました。

―北海道はとても広いですが、撮影された範囲はどれくらいですか?
 ほとんどを富良野と美瑛で撮りました。移動時間は長くて40分~1時間だったので、それほど大変ではありませんでした。

―本作では、北海道がまるで日本ではなく、ほかの国のように映っていると感じました。それは意識していたことですか?
 そうですね、北海道の自然の風景がとても素敵だというのはみなさんもうご存知で、これまでにも映画やドラマで背景になってきたと思います。同じ風景を私が撮ったらどういう風に見えるのか、出来れば一味違う形で映っていたらいいなというのはありました。私にとっては異国で、自分が住んでいる国ではないというのはあるんですけど、どのように映っているのかなという期待はあります。

―今回、ユン・ソクホ監督にとって初めての映画作品を日本で撮ることに対しての想いなどはありますか?
 今回の映画は“偶然”がテーマの映画ですが、偶然とは人と人の間でも起こっていることで、企画を担当した深田(誠剛)さんとの出会いも偶然でした。偶然出会って、さらに思いもしなかった「日本で映画を撮ってみるのはいかがですか?」と言われたことも偶然だと思います。しかも、ドラマではなく映画なのでジャンルも違いますよね。慣れている韓国のシステムではなく日本のシステムで映画を撮ったらどうなるんだろうっていう思いもあったので、すべてが偶然でした。

―オファーを受けた経緯をもう少し詳しく教えていただけますか?
 7~8年前に韓国で深田さんと偶然食事の席でお会いして、紹介されました。それがきっかけで一緒に映画を企画したことがあったのですが、その時は私がドラマなどで忙しくて企画がストップしました。7年ぶりくらいに提案をいただいて「低予算で作家主義の映画を撮っているんだけど一緒にいかがですか?」というお話をいただきました。作家主義ならより楽しそうだなと思って引き受けました。

―まさに“偶然”が重なったわけですね。
 ええ、そうです。

―劇中では、初恋の人と北海道で出会うという物語が描かれていますが、映画に撮って恋愛という要素は重要ですか?
 自然に起きる偶然と、人間の世界で起きる偶然を描きたかったのですが、映画にはストーリーが必要なので、偶然の話の中に恋愛が入っています。自然と人間のかかわり方というものを、人間も自然の一部であると描きたかった。今回のタイトルの『心に吹く風』は、心は人間、風は自然現象で、人間と自然は同じ立場であるというつながりを描きたかったのです。

―監督がおっしゃったとおり、この映画は風が主人公と言っても過言ではないですよね。
 これまで自然はあくまで背景に過ぎなかったと思うんですけど、今回主人公の職業をビデオアーティストという設定にしたことで自然が映画の中にグッと入ってきた。自然を映している映像を通して、葉っぱの動きだったり、ウィンドチャイムの輝き方だったり、壁に落ちる雨粒だったり、自然も演技をしていると見ることが出来ると思います。

―キャストのお話をさせていただきます。眞島秀和さんは第一線で活躍されている俳優ですが、真田麻垂美さんは16年ぶりの演技となりました。お二人の共演についてはどうでしたか?
 眞島さんも真田さんも私からしたら初めて会った方なので何の先入観もなかったです。大活躍している俳優さんと久しぶりの女優さんということはなく、イメージに合ったから一緒にやろうということになったので、何の先入観もない分、期待もできたのかなと思います。

―お二人の関係がわずか2日間の話ではなく、ずっと長く続いているように感じました。
 今回は主人公がほぼ2人だけの映画です。作家主義で監督がやりたいことをやればいいということだったので、自分がやりたいままにやってみようと思い、いつもであれば、映画とは、ドラマとはという構成が必要となり、緊張感のために三角関係だったり、途中でおもしろくするためにコミカルなものを入れたりということが必要ですが、この二人の間だけの話として成り立つように作りたいと思って脚本を書きました。二人だけで伝えたいことがたくさんあり、二人で十分ということになったので、意図したわけではないんですけどそう映ったのかもしれません。

―今回日本人キャストへの演出を行いましたが難しかった点はありますか?
 一番残念だったのは、私は日本語が話せないので、韓国のようにたくさん話をしながら演出出来ませんでした。そういった点で少し心残りはあります。演技的な面を見ても、韓国と日本の違いは確かにあると思います。韓国では感情表現において、最高と最低を表現しますが、日本だと内面に秘めた演技を行うというように表現の仕方が違うと思います。撮影をしていくうちに日本の撮影の仕方に慣れていきました。韓国の場合は、現場に入る前に結構打ち解けていて、仲良くなってから現場に入ります。「こうしたらいいと思う」というのを現場で話して、作ることが多いんですけど、今回はお二人の特徴なのか、もしかしたら日本の俳優さんの特徴なのか分からないのですが、監督にどんどん意見を言うよりも、個人個人で用意してきたものを淡泊に演じていました。“こうなればよかったのに”という心残りは全くなくて、“ここが違うんだな”ということを知れました。自分も知らないうちに慣れていて、新しいやり方で撮影したので自分も予想しない、違った感じの作品ができたんじゃないかなと思い、とても気に入っています。

―今回は北海道での撮影でしたが、日本のほかの地域で撮影してみたい場所はありますか?
 京都で一度撮影したいと思っています。春の姿と秋の姿がとても美しかったのと、とても伝統的な場所だったので印象に残っています。

―何度かいらっしゃったのですか?
 4~5回くらい春と秋に行きました。

―映画の中で気になったのですが、眞島さんが乗っていらっしゃる車は監督が選んだのですか?
 はい、そうです。

―素敵な車ですね。
 形もかっこいいんですけど、映画のテーマの“偶然”にマッチしていると思いました。ロケハン中に偶然私の目に留まって使いました。このアメ車がどういう経緯が重なって北海道の地にきたのか。今回の映画にとてもマッチして、どういうストーリーを持った車なんだろうと思わせる車でした。映画の中で使っている倉庫も私が偶然発見しました。車も廃車寸前で、ケアをしてないからさびていたり、そういった部分が残っているのが映画のトーンにも合っていたんじゃないかなと思います。

ユン・ソクホ監督

TRAILER

DATA
映画『心に吹く風』は2017年6月17日(土)より新宿武蔵野館ほか全国で順次公開!
監督・脚本:ユン・ソクホ
出演:眞島秀和、真田麻垂美、長谷川朝晴、菅原大吉、駒井蓮、鈴木仁
配給:松竹ブロードキャスティング、アーク・フィルムズ
©松竹ブロードキャスティング

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