映画『海辺の生と死』でメガホンを取る越川道夫監督に単独インタビューを行った。
島尾敏雄さんと島尾ミホさんの小説を20代から一人の読者として大切に読んできて、『海辺の生と死』の特に「その夜」はいい映画になるんじゃないかなとずいぶん昔からぼんやりと考えていました。でも最初になんで読んだのかは覚えてないです。若いころは何でも読んだりするので、その中で何か自分にとって考えるきっかけになったから読んだと思うんですけど・・・。ずっと本棚の取りやすいところにおいてあった本なのですが、まさか本当にやることになるとは、自分でも思ってなかったので、この映画を撮ることになって一番驚いているのは自分だと思います。この原作に限りませんが、いい本はいつの時代に読んでもいろんな読み解き方ができるものだと思います。今書かれている小説がそうでないとも限らない。若いときにいい映画になるなと思ったものも、50歳になってから映画を作ろうとすると、そこにはおのずと違う視点がありました。この本はそれくらい力がある原作なんじゃないかなと思います。
―本作はリアルな描写が見どころだと思います。劇中では、キャラクターがしゃべっているところにも虫の鳴き声がよく聞こえますね。
僕にとって大事なのは言葉よりも身体です。発話って身体構造の一部であってすべてではない。身体がなかったら言葉って出てこない。子どもは、最初は言葉を持ってない。でも、いつからか言葉が大事になってくる。大人になった僕らでさえ、身体がなければ言葉は出てこないので、身体は大事だと思っています。だから、本読みはあまり好きではありません。セリフの言い方にばかりを気にすると身体がお留守になってしまうからです。それに人は自分を取り巻くものからも影響を受けて発話します。今日みたいに暑い日と、厳寒のときは違う。森の中で話をするのと砂丘で話をするのと、東京の渋谷で話をするのは話し方が違う。それらに影響を受けながら発話して生きていると思う。この映画で虫や様々な音が入っているというのは、彼らはそういう場所で生きているということを示しています。それは島に行って実感したことです。島尾伸三さん(島尾敏雄・ミホ夫妻の長男)が、島で子供の頃に遊んでいると蝉の声で相手の声が聞こえなくなることがよくあったとおっしゃっていたけれど、実際にすごいんですよ。内地にいると聞いたこともない蝉の声がいくつかする。3種類くらい、もっといるのかもしれない。そういうことと人が生きているということは無関係ではないと思っています。トエはそこで生まれてそこで生きている。それが描かれなければならないと思いました。そのようなことを映画で表現したいと思いました。
―今回満島ひかりさんにしかできないとオファーしていますね。オファーしたタイミングはいつ頃ですか?
脚本を作る前、最初からです。出来上がったら、満島さんにも読んでもらって意見をもらって書き直していく。僕は奄美の生まれでも住んだこともない。でも島のことを書かなきゃいけない。どうしたら島になるのかということは大事だった。だけど、僕には体感としては分からない部分がある。満島さんからも「島のこと書けるの?」って言われたことがある。まあそう思うよね。だから書いたものが、満島さんや(沖縄出身の)津嘉山さんであったり、島尾伸三さんにどう受け取られるのかは心配でした。映画を撮った後でさえ、島になっているのかは島の人に見てもらわなきゃ分からない。僕は自分が観たものや感じたものを裏切りたくないと思ってがんばりますけど、それが本当に島になっているかは僕には判断がつかない。島の人たちが観て、これが島になっていたと思えば、何かはできていたと思える。それが脚本を書く段階からそのすべての工程に関して僕にとっては大きな要素でした。
―永山絢斗さんへのオファーはいつ頃ですか?
脚本を書いた後です。読んでもらってからやってもらえるかを判断していただいた。この役を演じるのは、ナイーブなだけに見えてもダメだなと思っていた。あまりにも弱く見えてもいけない。永山さんには、真っすぐな強さと奥に秘めたナイーブさがありました。かなり初期の段階から永山さんの名前はあって、お願いをしたところかなり早く決まりました。
―この映画を撮ってよかったなと思うポイントはありますか?
僕は島に影響されていると思います。この映画を撮ることによってはっきりしたことがいくつもあります。僕にとって大事な島だし、本当にやってよかったと思います。そのあと『月子』(8/26公開)ともう一本映画を撮っていますが、それは島の映画ではないのですが、やはり影響が色濃くあります。意識しなくてもそうなっちゃう、それだけ影響されているんだなと思う。どこにいても人と虫や鳥などが、どのように一緒の場所にいるのかということを考えています。もともと考えるのが好きではあるけど、それまでよりも考えるようになりました。その中で人間がどのような生き物として生きているのかをよく考えるようになりました。
映画『海辺の生と死』は2017年7月29日(土)よりテアトル新宿ほか全国で公開!
監督・脚本:越川道夫
出演:満島ひかり、永山絢斗、井之脇海、川瀬陽太、津嘉山正種
配給:フルモテルモ/スターサンズ
©2017島尾ミホ/島尾敏雄/株式会社ユマニテ