映画『まともな男』のミシャ・レビンスキー監督にインタビューを行った。レビンスキー監督は、ドイツを代表する監督の一人で2008年、初めての長編映画『Der Freund』はスイス映画賞では作品賞に輝き、アカデミー賞にも出品された。また、本作では2016年スイス映画賞において、最優秀脚本賞を受賞している。
こういった問題が起こった時に、どこまで嘘をついていいのか、境界線がどこにあるのかということだと思います。ポイントを超えてしまったら向き合うところがあり、それがどこなのかは人によって違います。自分は警察に行ったという人もいただろうし、やり過ごす人もいると思う。そこがポイントだと思います。
―アイデアはどこから出てきましたか?
正直なところ分からないです。常にいろんなアイデアを持っていて考え事をしている時間が多いです。でも、映画を撮っている間は映画にフォーカスしているので忘れてしまったりします。ただこのテーマに関してはずっと頭の中にあって、たびたび戻ってきて、考え始めたりしていました。一番、強烈だったのは自転車に乗っているときに思いついたけど、なぜかはわからないし、きっかけがあったわけではありません。リサーチをして分かったのは、同じような事件があった時に実際に警察に届け出るのは5%くらいで、95%はなかったことになっているということです。ほとんどは抱え込んでるわけではなく、親や親戚に話してはいて、95%は(人を巻き込み)共犯者にすることにびっくりしました。
—最後はなぜあのような形にしたのですか?
観た人はトーマスが何かしらの処罰を(モラルの面で)受けるべきだと感じます。だけど、トーマス自身は誰にも言えないという罪を抱えていかなくてはなりません。そういったことを観た人が長く考えてくれます。また、たくさんの人がラストに議論をもたらしました。私のところにも、なんで警察が出てこないんだと苦情が寄せられましたが、まさしく議論がされることが正しいと思いました。
—監督が主人公の立場だったらどうしますか?
私のモラルからいえば、もう少し早い段階で行動していたと思います。れっきとした犯罪で自分が解決できる範疇を超えているので、その子にとって嫌な思いはさせてしまうけどすぐに警察に行くと思います。でも、誰にも言わないでといわれたら、それが自分の行動にどれだけ影響するかわかりませんが、モラルの面ではそうすると思います。また、文化的な要素も大きいかもしれないです。日本の評価では(主人公の気持ちが)わかるとよく聞いたのですが、ドイツで上映したときは自分ではこんなことは絶対にないと距離を感じたので、わかるという評価は日本が初めてでした。それは、日本の礼儀を重んじる文化かもしれないし、調和を乱したくない、問題を起こしたくない、それを恐れているという文化的な要素もあるのかなと思います。
―日本人だからこそ見てほしいポイントはどこですか?
日本の文化がよくわからないのですが、面白いかもしれないのは何が日本の文化に似ていて何が違うのか、違いを楽しむのは面白いかもしれないです。ドイツではよくこの映画はドラマなのかトラジックなものなのか、コメディなのか、どこにカテゴライズされるのか議論されていました。なので日本感覚でいったらどこなのか気になります。
—なぜ雪山を舞台にしようと思ったのですか?
スイスでは余暇を過ごすには一般的な場所であるという事と、映画では休暇を過ごすことがキーでした。閉ざされた場所であることが大事で、両親にいつでも(携帯電話で)アクセスできるのではなく、圏外だったりすることを演出したかったからです。
—撮影時のエピソードや現場の雰囲気はどうでしたか?
一番難しかったのは天気で、スイス史上一番雪が少ない年で、どこに雪があるか探しました(笑)50mくらい標高が下がると緑で、雪が雪が足りない・・・ということが困難でした。(現場の)雰囲気はとても良くて、トーマスを演じた役者が一日目からクルー全員覚えてくれて、楽しくなるように雰囲気を作ってくれました。いい演技をするだけではなく、片づけを手伝ってくれたり、機材を積んでくれたりした。楽しくいい雰囲気を作ってくれたことが素晴らしかったです。
【写真・文/編集部】
「よく脚本の練られた、スイス発の複雑な作品」―クルトゥーアラジオRBB、「日常が狂気に変わる瞬間」―シネ・ヨーロッパ、「最高の映画だ!」―ブリッツなど話題の本作は、“スイス”といえば思わず浮かぶだろう壮麗な雪山を舞台に繰り広げられる“悲劇につぐ悲劇”の物語。中年会社員トーマス、倦怠期が続く妻、反抗期の娘、上司の娘ザラの4人でスキー旅行に出かけることから物語は始まる。気乗りしない4人が迎えた初日の夜、ザラが行方不明に―。トーマスが見つけたのは、街角で悲痛に暮れ、「レイプされた」と衝撃の告白をするザラ。トーマスは事態の収拾するため小さなさなウソを重ねていく―。
映画『まともな男』は2017年11月18日(土)より新宿K's cinemaほか全国で公開!
監督・脚本:ミヒャ・レビンスキー
出演:デーヴィト・シュトリーゾフ、マレン・エッゲルト、アニーナ・ヴァルト、ロッテ・ベッカー、ステファヌ・メーダー、マックス・フバッヒャー、ビート・マルティ、オリアナ・シュラーゲ、テレーゼ・アフォルター
配給:カルチュアルライフ
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