ブラジル発・少年少女のオシャレで可愛らしい胸キュン青春映画『彼の見つめる先に』でメガホンを取るダニエル・ヒベイロ監督に単独インタビューを行った。
監督 それを聞けて嬉しいです。まず“性の目覚め”ということを考えたときに、それは人間の中から来るのか、それとも外的な影響から来るのかというところがありました。あと同性愛の人は、選択して同性愛を選んでいるという人もいるけど、主人公を盲目にすることで、男性女性を視覚的に見たことがない主人公がそれでも男性を選んでいるということを描いてみたいと思いました。
―メインのキャラクターが3人とも魅力的です。モデルはいますか?
監督 特に誰かということはないんですけど、僕自身が10代の時にずっと女の子の親友がいました。そして、僕が転校生の男の子と恋人同士になったということは下書きにはなっていると思いますが、それ以外に特に誰か特定の人ということはないです。
―キャラクターがとてもリアルに描かれていますね。
監督 僕自身は盲目ではないので、そういった点では自分とは違う部分もいっぱいあります。ただ、個人の経験は違っていても普遍的なもの、例えば初恋の感情、初めて誰かを好きになる、あと相手も自分のことを好きなのかなと探る不安なものは共感できるもので、みんなが持っていると思います。その共通項を用いたということはあります。
―レオナルド役のジュレルメ・ロボは盲目の役を演じています。難しい役どころですが、特別なアドバイスはされましたか?
監督 彼はそういったものが備わっており、非常に直感的な役者です。なのでキャスティングの時点で何も用意はしていないのに、盲目の人の役と言ったら、そのような演技ができた。それが彼がキャスティングされた理由です。彼に決めてからは盲目の人を支援する施設で、例えば点字のタイプライターを打つ練習をしたり、一緒に歩く同伴者がどう案内をするか、どう歩くかを実際にトレーニングとして受けました。
―三人をキャスティングする上で、魅力な点はそれぞれどこでしたか?
監督 レオ役のジュレルメに関しては、やはり自然に盲目の役ができたということ、15歳くらいの俳優でそれができる子を見つけるのは難しいだろうなと思っていたら彼がいた。それが一番ですね。次にジョヴァンナ役のテス(・アモリン)。彼女はおもしろい子なんです。非常にキャラクターに合って、求めている個性にぴったりでした。ジュレルメに会わせると、ずっと友達だったように息がぴったりだったんです。それがとても大事なことだったので、この二人はいいなと思った。なかなかガブリエル役が見つからなくて、結局演じたファビオ(・アウディ)は俳優ではなくて、友人の紹介で映画学校で当時勉強していたんです。演技経験もないんだけど、この二人に会わせたら、そこに三人目として来るよそ者のようなはにかんでいる姿がぴったりだと思ってキャスティングしました。
―三人ともとてもきれいな目をしていらっしゃいますね。
監督 この映画は語らずして伝えなければいけないことが多いので、目の演技は重要でした。ジョヴァンナ役のテスは、彼女の目を見れば何を考えているかすぐに分かります。ファビオに関してはすごくミステリアス。彼自身もミステリアスだし、レオのことを好きなのかどうかも分からないところを目で翻弄されるところがあった。ジュレルメに関しては彼の目の演技がすべてを語っています。
―難しい状況に置かれてはいますが、悲観せずに将来に期待を持てる物語です。意識した点はありますか?
監督 この映画を作る上で普遍性を大事にしたいということを念頭に置いていました。確かに、悲劇的なストーリーになりがちです。同性愛者で全盲で、そういった人が恋に落ちる。ただ、たまたま恋に落ちた人がそういった人だったというふうに思いたいと思っています。そこから逆にこういう設定だと悲劇になるのかなと思いがちな意識に問いかけをしたかったのです。全盲や同性愛者の人は、この映画のように生活をしているわけです。大変なことはありますが、誰の生活でも大変なことはあります。そういったことをあえて投げかけたいと思いました。この映画を観た盲目の方の反応がとてもよかったんです。このように自立することもできるんだと、すごく勇気をもらったという声はありました。
―この映画を観て印象的だったのが、映像がとてもカラフルで鮮やかだと思いました。観ていて心地いい気分にさせてくれましたが、こだわりはありましたか?
監督 美術監督と撮影監督と僕で、統一された映画の見え方を考えていました。まず非常にポジティブな明るい、ある意味で軽いムードを出しました。色もパステル調で、原色は避けました。そして照明もソフトにして、そういったムードを前面に出すことを保ちました。
―色がとても鮮やかで青春を感じますね。おしゃれな感じがとても素敵です。
監督 この映画は若い人を念頭に作っているのですが、30~40代まで幅広く受け入れらえていて、“初恋”などを思い出させる年代を問わずアピールできていることに後で気づきました。
―音楽も心地よい曲が並んでいますが、選曲は監督ご自身も手掛けたのですか?
監督 ベル・アンド・セバスチャンは脚本を書いている段階から絶対に使いたいと思っていました。あとクラシックも何曲か、入ってきています。ただほかの楽曲は偶然で、編集の担当が当てて曲を入れているのですが、それが合っていたのでそのまま起用しました。ベル・アンド・セバスチャンとクラシックという構図にブラジルのポップスなどがうまく重なり、この映画の世界観を表現できていました。
―ベルリン国際映画祭やSKIPシティ国際Dシネマ映画祭で上映されましたが、そのときの印象的な反応はありますか?
監督 海外では大きな笑い声も聞こえましたが、日本ではお客さんがとても静かでした。ただ、お客さんの受け取り方は同じだったようで、普遍的に誰にでもアピールできることを目指したので、同じ受け取り方をして、同じような会話を理解してくれていた。普遍的な映画を作ることに成功したと思いました。
―今回日本で劇場公開されることに対してもお気持ちをお聞かせください。
監督 日本で公開が決まってとてもうれしいです。映画館で観てもらう経験は、テレビなどとは違い、映画に集中できる時間を確保でき、そのために時間を割いてくれる人がいることで、それを考えるだけで嬉しいです。映画祭は、ある意味でお客さんが映画好きだったり映画への理解度が深く、いい反応は期待できるという部分がありますが、劇場は誰が来るか分からないし、偶然見る人もいるかもしれない。普段映画に接しない人に見てもらえることが自分の中では期待が大きいです。
君との出会いが、世界を変えた―。人を好きになる気持ち、自我の目覚め。大人の入り口に立つティーンエイジャーの揺れ動く感情をベル・アンド・セバスチャンの名曲「トゥー・マッチ・ラヴ」に乗せて綴った、ひと夏の物語である本作。ベルリン国際映画祭でFIPRESCI(国際批評家連盟賞)とテディ賞に輝き、日本ではSKIPシティ国際Dシネマ映画祭2014で脚本賞を受賞、さらに第87回アカデミー賞外国語映画賞ブラジル代表作品にも選ばれるなど、世界中で絶賛されたブラジル発の爽やかな青春映画が日本に上陸する。
映画『彼の見つめる先に』は2018年3月10日(土)より新宿シネマカリテほか全国で順次公開!
監督・脚本:ダニエル・ヒベイロ
出演:ジュレルメ・ロボ、ファビオ・アウディ、テス・アモリン、ルシア・ホマノ、エウシー・デ・ソウザ、セウマ・エグレイ
配給:デジタルSKIPステーション/アーク・フィルムズ
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