映画『ニワトリ★スター』で映画初出演を果たした紗羅マリーにインタビューを行った。
―監督とは元々お知り合いだったのですか?
紗羅マリー 一度だけ会ったことがありましたけど、10分程度会ったくらいです。
―そこからお声がけがあったのですか?
紗羅 5年か6年が経って、いきなり私のSNS上で連絡が来て、「こういうことを進めていて、月海という役に紗羅を使いたいけどどうかな?」と。その後、電話で話してから「やります」とお返事しました。
―二つ返事で決めた?
紗羅 そうです。役柄的にとてもディープなものなので、「一応事務所の確認はするけど大丈夫だと思います」と(笑)
―作品の内容は盛り込まれていましたか?
紗羅 そうです。元々電子書籍で出していた原作を紙にしていただいて読みました。いいと言ったんですが、「一度読んで欲しい」と言われて、読んでから「やります」と伝えました。
―紗羅さんはモデルなどで活躍していらっしゃいますが、いつか女優になるというイメージはありましたか?
紗羅 若いころは事務所に、「演技とテレビは向いてないんでやりたくないです」って伝えていたんです(笑)ただ、子供を産んで30歳になったころに、勝手に自分でボーダーラインをつけていたことがつまらなくなってきて、知らない自分も見てみたいなと思っていた時にちょうどお話が来ました。なんで向いてないと自分で決めていたのか分からないんですけど、そんな感じでいきなり広げちゃいました。
―全くやったことをないことを始める恐怖はなかったですか?
紗羅 恐怖はもちろんありましたが、それが楽しいと思いました。ありきたりな毎日もつまらないし、割と刺激が好きなタイプなので「いいのみっけた」みたいな感じですかね(笑)
―実際に演じてみて、女優というお仕事はいかがでしたか?
紗羅 すごい難しいというか、難しいのか正解も不正解も分からないです。それで合っているかもわからないまま進んでいくのが怖かったんですけど、自分を見直すというか向き合わなきゃいけないんだなと思いました。とても楽しかったです。
―編集で映像にも衝撃があったと思います。ご自身の姿をスクリーンで観ていかがでしたか?
紗羅 まだ冷静に観れていないです。ダメなところばかり観てしまって、まだ全然冷静に観れていなくて・・・。出ている俳優さんの方たちも、ご自身の歴史があって、演技も上手な方ばかりなので、大丈夫かな、浮いていないかなという感じで観ていました。あと10回は見ないと無理です。
―実際に完成したものを観て思っていたのと違う場面はありましたか?
紗羅 楽人と草人のいる世界は危なく恐ろしいものです。そこを見せないでいてくれたのは楽人だし、私も現場で見ないようにしていました。見てしまってどう変わってしまうのかが怖くて、孤立していました。でも、楽人が私に見せないようにしてくれていた部分を、映像で観たときに、なおさら楽人の愛を感じました。楽人に対して、「こんなにつらいことがあったんだねー」みたいな感じがして、感覚が月海に戻っていました。
―映像で初めてこうだったんだと知った部分が多いですか?
紗羅 台本はもちろん通して何回か読んでいたんですけど、そんなに深くは読まないようにしていたので、映像で初めて知る部分はあったので、それは楽人に感謝です。
―原作を初めて読んだときの感想はいかがでしたか?
紗羅 監督らしいなと思いました。もちろん会ったことは10分くらいしかなかったんですけど、活動していることなどは見ていたので、監督らしい重い世界観と、病的なものだったり。でも、監督はすごい繊細な方で、すごいかわいい方なんですよ。見た目は怖そうだし、実際怖いんですけど、その中にあるかわいさがこの映画の中に詰まっている。“らしいな”って感じがしました。
―監督との距離感はいかがでしたか?
紗羅 監督が笑っているときは近づいていきましたけど、笑っていないときはササッと離れたり、顔を見てましたね(笑)
―撮影前にワークショップがあったと聞きましたが、どのようなものだったのですか?
紗羅 私と成田君と監督の3人で部屋に入って、ほかは誰もいない状態で、監督は遠くで座って見ていました。私と成田君で向き合って手をつないで、お互いの目を見ながら、今までの人生を全部話せと言われました。人に言っていないことも、隠していることも、言えないことも、良いことも悪いことも、全部今二人で分け合えと言われた。だから隠し事はなし。自分の一番汚いところを見せろと。初めて会った人と手をつないで目を見ながら2時間近くお互い自分の人生を話してという内容でした。
―抵抗はなかったですか?
紗羅 やらなきゃいけないという空気を監督が出していたので、やるしかないなと思いました。もちろん映画の内容が、演じる側も精神的に背負っていかなければいけないものがあるので、そのワークショップでお互いの負担を分け合うというか、なにがどんな状態になっても、一番ひどい状態を二人が知ってるから大丈夫という心強さがあったので乗り切れたということもありました。
―紗羅さんのすべてを成田さんが知っていて、成田さんのすべてを紗羅さんが知っているということですね。
紗羅 そうです。親にも言わないことを(笑)ちょっと不思議な関係ですよね。生まれたときから知っているような。三人で墓場まで持っていく(笑)
―それは撮影では役に立ちましたか?
紗羅 そうですね、絶対に揺るがない安心感というか、後ろから支えられている感覚支えられているというか、大丈夫だと分かる感覚、おなかの中にいる感覚でした。ひどい場面を撮っているんだけど、安心感はありました。
―ご自身が母親であることは、この役を演じる上で影響はありましたか?
紗羅 もちろんありました。子供を産んでいなかったら分からない感覚もあっただろうし、私自身子供がいる時といない時では人間性が全く違うので、こんな風に感じるとも思っていなかったり、そういうものを役の中で活かすことができたらいいなと思いました。自分の息子でさえ、どうしても真正面から向き合えない時ってあるんです。どれだけ愛していても。そういうもののお互いの心苦しさとか、愛しているし、幸せな日常を送っているけど、この1ミリだけはどうしても分かり合えない部分があったり、産んでみないとわからない。そういうものが入っていたらいいなと思います。
―大事な部分ですよね。
紗羅 なんで私を選んだのかを監督とちゃんと話したことないんですけど。「目の奥に病んだものがみえた」と言われましたね(笑)「え?嬉しくないんですけど」って話はしましたけど。
―実際演じてみて、2人の愛の物語をどう感じましたか?
紗羅 もともと愛という言葉は好きじゃなくて、自由自在に形を変えるので。その場その場で使える簡単な言葉だなと思ってしまうんですけど。生まれてから死ぬまでの間、一つの変わらない形の愛というものを貫き通すという男の人にこの映画で初めて出会えたので、それは映画だけの私じゃなくて、日常的な私にもとても影響がありました。“いるんだな”と思いました。形を変えないのって一番難しいと思う。だったら好き嫌いで分けちゃったほうが分かるし、愛って曖昧だなと思います。それがストレートにまっすぐ飛んでいく人っているんだと思うと、すごく楽になりました。
―難しい役どころではありますが、演じる上で大切にしていたことはありますか?
紗羅 月海という人間にどっぷりハマるときはハマって、自分の生活に戻るときはちゃんと区切りをつけようというのは心がけていました。撮っている1か月半の間、どっぷりつかってしまうのもいいなと思ったんですけど、自分にも子供がいるので、母親に戻らなきゃいけないし、どっぷりハマった状態で子供に会ったら子供のもこの世界に入れてしまうことになると思ったので、本当に気を付けていました。区切りをつけるために香りを使っていました。月海ってどんな匂いなんだろうと思いました。私自身、香水がすごく好きなので、いつもつけているんですけど、“月海はどんな匂いなんだろう”と思ったときに、一人で子供を育てていて、お金がなくて、夜の仕事をしていて、だからそんなに高いものは買えない。かといってお客にいい顔できるようなタイプじゃないから、貢物もないし(笑)ということは、彼女が行ける買えるお店はドン・キホーテだと思って、ドン・キホーテにブランドコーナーがあるんですけど、そこに売っている香水だと子供に臭いから、香水と同じ香りのボディクリームを買って、それを塗ることで月海になって、それを取ると紗羅マリーになって母親になるというのをやっていました。
―ご自身で考えてやったんですか?
紗羅 そうです。
―そのほかにやったことはありますか?
紗羅 完全に月海になる。今よりも6㎏痩せていました。ダイエットして。食べなかったです。
―ものすごい細かったですよね。
紗羅 細かったですよね(笑)
―監督からリクエストがあったのですか?
紗羅 もちろん薬物中毒の役なので痩せて欲しいというのはあって、やるかやらないかの時点でダイエットを始めたので、割とすぐ痩せたんですけど、途中で監督からストップがかかりました。「これ以上は痩せるな」って。「もうちょっといける・・・」って言ったけど、「やめろ」って言われました。
―そのおかげもあってリアルな描写になっていますよね。どのようにリアルさを高めていきましたか?
紗羅 もちろん薬物中毒でもないし、周りにもいないので、インターネットで調べたり、勉強しました。勉強していくうちに、いつもぼけーってするようになっちゃって。ちょうど歯医者に通っていたんですけど、全く麻酔が効かなくて、先生に「こんなに麻酔が効かないのは薬中くらいだ」って言われました(笑)今はもう完全に大丈夫です。
―難しかったところはどこですか?
紗羅 薬物で浴室で暴れるシーンが難しかったです。薬をやりたいけどやっちゃいけない、子供を傷つけてしまった、でも吸いたい、吸っちゃいけないという感情がごっちゃになっていました。プチンッて切れたときに人間ってどうなるんだろうという感情が難しかったです。
―演技中はブレーキを外していましたか?
紗羅 80%は勝手に、あとの20%はどこかで考えていました。やりすぎてしまうと嘘になってしまうし、でもやらなすぎると伝わらないしと考えていました。
―成田さんの存在は大きかったですか?
紗羅 お話しするようにお互いしていました。他愛もない話だったり、公園での撮影で待っている間に二人でブランコで遊んだり。喫茶店で一人で食べるのが嫌だから来てもらったり。ちょうど私が一気に食べなければいけない時に、成田君が痩せなきゃいけないタイミングで、これは面白いなと思って「喫茶店行こう!」って言いました。それができるくらいお互い頼るところは頼って、支えるところは支える関係でした。楽というか甘えさせていただきました。
―成田さんとは役についてのお話はされましたか?
紗羅 あまりなかったですね。近くにはいるけど、始めに全部会話しちゃってるからあまりしゃべることもなくて(笑)実家に帰ってわざわざ親と話さないのと同じような感じです。一番自然な空気でした。
―監督の思いどおりでしたね。
紗羅 転がされてましたね(笑)
―思い出深いエピソードはありましたか?
紗羅 撮影に入る前に、みんなでキャバレーに飲みに行って、みんなで酔っぱらったのがすごい楽しかったです。サラっていう人が働いていて、館内放送で「サラさん、何番席へ」って流れて、「はい!」っていう遊びをしていました(笑)
―クランクイン前から良いチームワークだったのですね。
紗羅 監督が考えてやってくれたことだと思うんですけど、それまでは東京で子育てをしていて、そこからいきなり入れないだろうと思ったのか、2日間だけ、場当たりやりたいって言われて、泊りで2日間行ったんです。でも、ほとんどただコミュニケーションを取って、楽しく飲んでという日でした。そこでちょっと気持ちを作れました。
東京の片隅にある奇妙なアパート「ギザギザアパート」で自堕落な共同生活を送る草太と楽人は、大麻の密売で生活している。目標もなく生きてきた二人は、次第に予測不能な事態に巻き込まれていく。くたびれた大麻の売人役を井浦新、全身タトゥーの赤髪モヒカン色欲狂いの若者役を成田凌、DVを受けるシャブ中毒のシングルマザー役を映画初出演となる紗羅マリーと全員が新境地のバイオレンスラブファンタジー。さらに津田寛治、奥田瑛二、LiLiCoらが共演。監督は、本作が初監督作品となる、かなた狼。
映画『ニワトリ★スター』は2018年3月17日(土)よりヒューマントラストシネマ渋谷、3月24日(土)よりシネ・リーブル梅田、シネマート心斎橋ほか全国で順次公開!
監督:かなた狼
出演:井浦新、成田凌、紗羅マリー、阿部亮平、LiLiCo、津田寛治、奥田瑛二、山田スミ子、海原はるか・かなた、裵・ジョンミョン、ペロンヤス、名倉央、DAY(Titanium)、佐藤太一郎、水橋研二、尚玄、辰巳蒼生、村上新悟、石橋穂乃香、シャック、マグナム弾吉、中澤梓佐
配給:マジックアワー
©Gentle Underground Monkeys