人気漫画家・押切蓮介の最強トラウマ漫画を実写映画化した『ミスミソウ』でメガホンを取る内藤瑛亮監督に単独インタビューを行った。
―クランクインの1か月前にオファーがあったとお伺いしました。あまり時間のない中で、受けるという決め手となったのは何ですか?
内藤瑛亮監督 原作自体は以前から読んでいました。Twitter上で「『ミスミソウ』を実写化するなら内藤監督がいいんじゃないか」と、そんなにたくさんではないんですけど、何人かつぶやかれてるのを見てみて、興味を持って読んだのですが、“おれが(監督する)”というのも分かるなと思っていたんです。プロデューサーは別の監督で企画を進めているのは聞いていたので、「おれじゃないんだ」というのは思いました(笑)でも、自分がやりたい原作がすでに映画化の話が進められていることはよくあるので、それは仕方がないなと思っていました。それからしばらくして、田坂(公章)プロデューサーに「今晩会いたい。家の近くまで行きますので飲みましょう」と言われて飲みに行きました。でも、なかなか言わなかったんですよね。他の監督の「あの企画がつぶれたらしい」「あの現場がやばかったらしい」などの話で盛り上がって(笑)その流れで、田坂さんが「『ミスミソウ』の監督が降板することになりまして、撮影が1か月後なんです。それを内藤君に頼もうと思っていて」と言われて、固まりましたね。オファー自体は喜ばしいことだけど、準備期間が1ヶ月しかないと、“撮れるかな”という不安が大きかったです。その時に主演の山田杏奈さんは決まっていて、オーディション映像を見たら素晴らしくて、被写体として撮ってみたいと思えるもので、その時に理屈抜きで“撮ってみたい”と思ったのが大きかったです。その気持ちに素直に従おうと思って、泥船だなと思いながらも乗り込みました(笑)
―内藤監督の『ライチ光クラブ』(15)などもそうですが、映像が美しく、残酷なシーンも際立つし、それだけじゃなくて感動もする。今回『ミスミソウ』も、雪のシーンなどで美しい映像を撮っていらっしゃいますが、それが監督の才能でもありますよね。
監督 ことさら綺麗な絵を撮ろうと意識している訳ではないです。激しい暴力の背景にある、人間の感情とか、彼らが抱えている問題とか家庭環境は切ないものがあります。そういうものを反映すると、結果的にああいうビジュアルになる。ただ単に暴力があるわけではなくて、そこに至る抱えているものがあるとそういうビジュアルで撮らざるを得ないと思っています。
―野咲春花を演じる山田さんの衣裳が気になっています。赤が効果的ですよね。大谷凜香さんが演じる妙子を白でまとめて、大塚れなさんが演じる流美を黄色の衣裳で合わせている。本人たちを表していらっしゃいますよね。
監督 それぞれのテーマカラーを決めて、変化していくように衣装部へお願いしました。紺や黄色がテーマカラーの人物を、ある時点から白にしていく、とか。その白い衣装がどのように染まっていくかで彼らのドラマを見せたかった。春花の赤は最初に決めましたね。真っ白な雪国の世界で、赤系の強い色の服を着た人がいる。しかも、最初から赤じゃなくて徐々に赤になっていく。最初はマフラーだけだったのが全身に広がっていく。内面の変化を服の色で表したかったんです。
―インパクトがありましたね。
監督 妙子は都会に憧れているので、背伸びしているオシャレ感を意識しました。金髪も都会的な色ではなく、田舎の子が頑張って自分で染めた感じにしました。田舎と都会に対するそれぞれの心情の距離感で服や髪型を選んでいきましたね。
―山田さんは堂々とした演技が魅力的でした。
監督 なんで撮りたいと思ったのは感覚的なものだったんですけど、撮影現場では何を考えてるか分からない、でも何を考えてるか知りたい、それが俳優の持っている力なのかなと思います。パッと見て何を考えているかが丸わかりな人は、俳優としてそんなに魅力的じゃないです。引き寄せるものがありつつ、何を考えているかをお客さんが想像していく余白が大事かなんと思いました。山田さんはたまに無の顔になることがあって、春花のキャラクターにつながると感じました。彼女の演じるキャラクターの人間性がはぎとられていくような、それが無の表情にはまるものがあって、その表情を活かしていこうと思いました。あとはすごく寒い中で雪まみれ、血まみれになっていたのでしんどかったと思います。後で聞いたら「早く終わればいいと思っていた」と言っていて、そりゃそうだよねと思いました(笑)
―雪は本当の雪をそのまま使ったのですか?
監督 準備が1か月しかなかったのは、雪が解けちゃうから、2か月後じゃ無理ですということでした。新潟などで撮ってたんですけど、雪国での撮影は初めてで、こんなにしんどいとは思わなかったですね。
―寒いですよね。
監督 雪の中を歩くので体力を使って、なかなか撮影場所にたどり着かない。車がどんどん通るような場所ではできないような芝居ばかりでしたので、奥まで行かなきゃいけなくて、移動がまず大変でした。同じロケ地で雪が解けた後にも撮影しているんですけど、雪があるときはめちゃくちゃ遠い印象だったのに、実際は近くて移動が簡単になって、トリックアートみたいな感覚でした。
―雪が降ってるシーンが多かったです。
監督 リアルに降った日もあったんですけど、基本的にはスノーマシンで降らしてCGで足しています。リアルな雪だと画面で分かりづらいので、スノーマシンとCGのほうがすっと画的にははまったりもしますね。
―流美役の大塚さんの演技がすごかった。
監督 彼女はオーディションで、出会いました。流美という役は複雑な感情を持っていて、思ってることの逆をやったり言ってる人で、さらに物語を引っ張っていく部分もあるので、それを演じきれる役者というのは凄くハードルが高かったです。500人くらいオーディションしましたが、大塚さん以外任せられる人はいなかったです。実際の彼女は都会っ子で趣味はダンスという子で、しゃべると今風で「扱い方が雑ですよ、監督~!」みたいな感じでした。でも演じるとすごかった。
―殴られる演技がリアルですよね。
監督 彼女のリアクションは完璧でした。殴られたフリをするんですけど、怖いから早めによけちゃったりするんですよね。でも、彼女はばっちりでした。フレーム単位で確認しても、当たったタイミングで首を振っていた。アクション部も感動して褒めてましたね。
―本当に当たってはないですよね?
監督 それはないですね。危険な撮影が多いので、怪我や事故のないよう慎重に取り組みました。事故ではないんですけど、久賀秀利役の遠藤(健慎)君が崖から落ちなきゃいけないシーンで、どうしても崖から落ちれなくて、崖の手前で転んだり、崖の途中で止まったり、「どうしてできないんだ」って自分にキレはじめました。(笑)血まみれで走って落ちるので、リテイクするたびに血のついた雪を除去して、新しい白い雪を上にのせて直さなきゃいけなかったで、現場を復旧するスタッフも大変だったんですけど。彼は彼で不器用ながら頑張っていました。
―原作に忠実にガッツリ特殊メイクで描かれていました。
監督 見せないほうがオシャレだという考え方もあると思うんですけど、僕は映画なんだから見せればいいでしょって考えてます。ここからこうしたらこれくらいの血が出るんだね、というように、スタッフとの試行錯誤が楽しかったです。描写は原作がそのまま見せるスタイルだったので、そこは守りたいと思ったし、そのほうがおもしろいと思いました。プロデューサーもR18+になってもいいので、好きなようにやってくれと言ってくれたので、のびのびと描写ができました。
―原作が好きな方は見ごたえがある作品に仕上がっていますね。
監督 単純な復讐劇ではないところが原作の見どころだと思っていて、普通の復讐劇はカタルシスを与えるものですけど、この作品はカタルシスがありません。敢えて加害者の心情にコミットしていくのがすごいところだと思います。
―一方で原作と違うシーンもありますね。
監督 僕が参加した時には脚本ができていて、あのような結末になっていました。僕は感動を覚えてすごくいいと思いました。(脚本の)唯野(未歩子)さんはさすがだなと思いました。聞いたときは「この暴力漫画を唯野さんが?」と意外過ぎて驚きましたが、女性たちの繊細な感情の動き方も唯野さんだから描けたと思います。この終わり方がこの物語にとって正しいと思いました。復讐して果たしても救われないし、生かされてしまったことでより重いものを背負わされるところが、観ている人にも刺さるんじゃないかと思いました。
―最後に本作を楽しみにしている方へ、メッセージをお願いします。
監督 原作はトラウマ漫画と言われて、“やばいところ”がクローズアップされがちですが、それがいい面でもありますが、繊細な感情の動きが描かれていることが素晴らしい作品だと思います。映画もそこを表現しようと思っていて、暴力の背景にあるものを表現しようと思いました。彼らが単純に暴力で他人を傷つけているわけではなくて、自傷行為に近いと思っていて、愛してほしい人に愛してもらえないがために傷つけてしまう。傷つけることで報われることはなく、結果的に自分自身を傷つけることになってしまう。そういう切なさを観て欲しいなと思います。
「ハイスコアガール」「でろでろ」などで知られる人気漫画家・押切蓮介の代表作にして伝説のコミック「ミスミソウ 完全版」を実写映画化した本作。逃げ場のない小さな社会で起こりうる嫉妬、虐待、絶望など人間の負のエネルギーが溜め込まれるばかり。雪が舞う雪景色に佇む主人公が見つめる先とは・・・。東京から田舎に転校してきて、壮絶なイジメを受けている主人公・野咲春花役には、本作で初主演を果たした山田杏奈。今、最も勢いのある女優として注目を集めている若手女優の一人である山田の透明感溢れる清純なイメージとは裏腹に、心をえぐられるような熱演に注目だ。
映画『ミスミソウ』は2018年4月7日(土)より新宿バルト9ほか全国で順次公開!
監督:内藤瑛亮
原作:押切蓮介 「ミスミソウ 完全版」(双葉社刊)
出演:山田杏奈、清水尋也、大谷凜香/大塚れな、中田青渚、紺野彩夏、櫻愛里紗、遠藤健慎、大友一生、遠藤真人、森田亜紀/戸田昌宏、片岡礼子/寺田農
配給:ティ・ジョイ
©押切蓮介/双葉社 ©2017「ミスミソウ」製作委員会