白石和彌監督の映画『孤狼の血』で主演を務める役所広司にインタビューを行った。
―ハードボイルな作品です。オファーがあった時のお気持ちをお聞かせください。
役所 原作を読みましたが、映画よりもハードボイルドでかっこよかったです。映画の脚本では白石監督の脚色もあり、大上が愛嬌があるキャラクターになっていました。こういう映画は久しく見てないし、演じていなかったと思って興味がありました。白石監督のこれまでの作品を観ても、非常に勢いのある監督で、初めてお会いした時に「元気のある日本映画を作りたいんです」とおっしゃっていたのを聞いて、ぜひ参加したいと思いました。
―クランクイン前に重点を置いたことは何ですか?
役所 呉弁です。クランクイン前から撮影中もずっと練習していました。言葉からその土地で育った人間というのが染みてくることがありますし、今回、撮影中は呉という街に腰を据えての撮影でしたので、町から聞こえてくる言葉も呉弁も、参考にしたいと思いました。
―どれくらいの期間練習されましたか?
役所 撮影が1か月くらいで、それを含めると2か月くらいは呉弁どっぷりでした。いまだに使ってます(笑)
―役所さん演じる大上章吾はかっこいい役ですよね。
役所 原作だともっとかっこよくて(演じるのは)“照れるな”という感じだったんですけど、脚本は監督の色を加えた大上で、愛すべき、ちょっと身近な感じがしました。
―スクリーンに映る大上は一面的な姿ですが、どのような思いで演じましたか?
役所 根は正義の味方だと思うんですけど(笑)。自分がやっていることは正義なんだということを表現するのではなくて、この男がこの汚れた街を大掃除する一番いい方法を見つけて行動する。実は全て正義のためにやっとるんじゃ!ってことを表現する必要のない脚本の構成でした。見え方としては一面的な男でいいと思いました。
―白石監督とのタッグはいかがでしたか?
役所 自身も「昭和の香りがする」と言われると言ってましたが、若松孝二監督の下で育ったからでしょうね。撮影現場も昭和の監督の雰囲気があります。デジタルになってからは、たくさんの素材をいろんなアングルから撮る監督が多くなっていると思いますが、白石監督は必要なカットを丁寧に撮る監督だと感じました。編集で何とかしようということではなくて、確かなイメージが頭の中にある監督だと思います。そういう監督は少なくなっているように思います。編集の段階でどのようにもできるようにする必要があるのかも知れません。監督の決断と割り切りが早いということは、撮影現場は早く進んでいきます。たくさん撮っても、ほとんどが使わない映像ですからね。
―白石監督と言えば差し込みでの演出が多いと伺っています。現地での演出で記憶に残っているものはありますか?
役所 現場でいきなり言われたのは、痰をはくシーンですね。3か所くらいあったんですけど、“カー、ペッ”ってやってくださいって言われて。最初は「えー!」って思いました(笑)白石監督が師事していた若松孝二監督へのオマージュだったようです。映像の中で“カー、ペッ”ってやるのは初めてでした。昭和のアウトローを出すにはよかったのかもしれないですね。
―どの場面も印象的ですが、特にこの場面はかなり粘ったというシーンはありますか?
役所 豚小屋のシーンはセリフ的にも長かったですし、そのシーンは粘ってやっていた気がします。
―この作品に出演する前と出演した後の心境の変化はありますか?新たに得られたことは?
役所 若いころはこのような映画はよく単館系でやっていて、よく観てました。パッタリなくなってからの時間が結構長かったように思います。予算的にも厳しい中で、こういう熱くて激しい映画を作っていた時代がありました。そのころの日本映画は貧乏でも豊かな感じがしました。いろんなタイプの映画があって、おもしろかった時代だったんだなぁと思います。これから『孤狼の血』のようなテイストの映画が作られていくか分かりませんが、大手映画会社では東映さんにしかできないお家芸だと思いますので、もっと増えていくと日本映画も面白くなるんじゃないでしょうか?暴力的なものを嫌いな人も多いかもしれませんが、男が映画を観て、出てくるときに一瞬でも肩で風切って男になって出てくるような、そんな映画がもう少し増えてもいいなと思います。
―深作欣二監督の『仁義なき戦い』なども含めて、今回東映のこのような作品の看板を背負うことへの思いや、東映映画の思い出はありますか?
役所 深作監督の『仁義なき戦い』シリーズは青春時代に観たことがありますし、あの頃はこのような映画が多かったです。戦争映画では国や家族を守ることはありますが、男が女を友を命がけで守るということは、このようなアウトローな世界でもりますし、その生きざまはドラマとしては描きやすいと思います。あの時代は豊かだと言いましたが、予算的には全然豊かではないんですけど、いろんな映画作家によるバラエティに富んだ作品が多かった。映画が流行を作った時代があったと思います。そういう意味では映画界ががんばってオリジナルを作らなきゃいけないんじゃないかと思います。
―大上さんの過去編があってもおもしろいですね。
役所 過去編だと若返らなきゃいけないからな・・・(笑)
―大上という人物は、根は正義だということを見せない。ある意味で演じきった男だと思います。俳優というお仕事に通じるものはありますか?
役所 俳優も根が見えないほうがいいと思います。“どういう人なんだろう”とお客さんが想像してくれる方がより面白いのではないでしょうか?私生活がどんな人だかも分からない方が役者は得だと思います。
―役所さんはそのことについて意識をしていますか?
役所 勿論得体の知れない役者でいたいなとは思っています。顔も見たことない、どんな芝居するかわからない新人俳優の新鮮さには僕は到底かないませんからねぇ~。
―役所さんは多彩な作品に出演されていますが、俳優としてのおもしろさはどこにありますか?
役所 台詞の部分で言うと、日常生活では絶対言えないセリフを堂々と役を借りて語れるということです。それは役者の仕事の一つの醍醐味です。あとは撮影現場に行ってスタッフとキャストと作っていくときに、自分が想像もしなかったような気持ちや解釈がフッと閃く瞬間がおもしろいと思います。
―暴力は私も苦手ですが、暴力の奥にあるものが描かれています。女性にはどのように見ていただきたいですか?
役所 バカだね、男はと(笑)でもかわいいなという感じで観ていただくと受け入れてもらえるんじゃないかと思います。バカなことをするんですよ、男は。
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【取材・写真・文/編集部】
暴力団対策法成立以前の昭和63年の広島を舞台に、所轄署に配属された男が暴力団との癒着を噂される刑事とともに事件の捜査を行う。常軌を逸した操作を行う刑事、さらに事件を発端に対立する暴力団組同士の抗争が激化し―。原作は、今もっとも注目されるミステリー作家の一人である柚月裕子。監督は、『凶悪』『日本で一番悪い奴ら』の白石和彌。主演を役所広司、さらに松坂桃李、真木よう子、石橋蓮司、江口洋介、滝藤賢一、田口トモロヲと超豪華なキャスト陣が集結する。
1956年生まれ。日本を代表する俳優として、数多くのテレビドラマや映画に主演する。1995年、『KAMIKAZE TAXI』で毎日映画コンクール男優主演賞を受賞。翌年の『Shall we ダンス?』『眠る男』『シャブ極道』では、国内の主演男優賞を独占。また、『CURE』『うなぎ』(1997)、『ユリイカ』『赤い橋の下のぬるい水』(2001)など、国際映画祭への出品作も多く、数々の賞を受賞している。スペインのシッチェス・カタロニア国際映画祭(2014)では、『渇き。』で日本人初の最優秀男優賞を受賞。2009年、主演の『ガマの油』で初監督を務める。2012年に紫綬褒章を受章。映画の近作としては『関ヶ原』『三度目の殺人』『オー・ルーシー』などがある。
映画『孤狼の血』は2018年5月12日(土)より公開!
監督:白石和彌
原作:柚月裕子「孤狼の血」(KADOKAWA)
出演:役所広司、松坂桃李、真木よう子、音尾琢真、駿河太郎、中村倫也、阿部純子/中村獅童、竹野内豊/滝藤賢一、矢島健一、田口トモロヲ、ピエール瀧、石橋蓮司・江口洋介
配給:東映
©2018 「孤狼の血」製作委員会