映画『名もなき野良犬の輪舞』でメガホンを取るビョン・ソンヒョン監督にインタビューを行った。
―ビョン・ソンヒョン監督にとって本作が長編3作目となります。これまでとは異なるジャンルへの挑戦となりますが、そのきっかけを教えてください。
監督 前作はロマンティック・コメディだったんですけど、今回は線が強いものを作りたいと思い、素材よりも先に、ノワールのジャンルで作ろうと先に考えました。
―監督ご自身が持ち込んだ企画ですか?
監督 自分自身がノワールを撮りたかったのです。むしろ私と契約した会社は「ノワールじゃなきゃダメかな?」と言ったほどでした。
―大規模な撮影もあり予算もかかっていると思います。今回商業映画としては2本目ですが、資金面での苦労はありませんでしたか?
監督 前作がロマンティック・コメディだったので、ロマンティック・コメディを撮った監督がノワールを撮るのにあたって、懐疑的な目もあったようです。しかし、自分の好みは、どちらかというとノワールに近くて、ロマンティックコメディのほうが不慣れな分野でした。実際に次回作がノワールに決まってからは投資を集めるのは難しくなかったのですが、ジャンルを決めるにあたっての反対があったので、その時のほうが大変でした。
―監督はお話しているととても穏やかな印象を受けるので、ノワールが好きというのは意外でした。
監督 個人的には好きです。優しそうとおっしゃっていただきましたが、自分のことをよく知っている韓国人が聞いたら大笑いすると思いますよ(笑)
―劇中には観ていて痛々しいほどのリアルな描写もありました。
監督 もちろん殴るシーンなどはリアルさを感じると思いますが、それよりもコミック的な描写に注力をしました。例えば人を投げ飛ばす場面でも、実際はあそこまで飛ばないと思いますし、一度で倒してしまうような場面も同じです。日本の学園ものの漫画が好きで、特に「ビー・バップ・ハイスクール」に出てくるような描写を「こういう表現をしたい」とアクション監督に見せました。最初は「これはやりすぎなんじゃないか?」と言っていましたが、いざ映像になったものを見たら「この映画とはよく合うね」と言ってくれました。
―コミカルなシーンは当初から予定されていたものですか?
監督 シナリオの段階から決めていました。コメディは大好きですし、どちらかというと大笑いするようなものよりも、見ていてクスッと笑ってしまうものが好きなので、それをところどころに入れ込みたいなと考えていました。
―劇中では、人間関係で特に“兄弟”という概念が心に残りました。日本にはなかなかない概念ですね。
監督 韓国では、義理で結ばれている関係はよく出てくるものです。この作品では、それをもう一段階進めて描きたいと思いました。二人の男性が出てきますが、相手に対して初めて抱くような感情を描く。だから兄弟のようなものを感じていただけたと思います。
―ジェホ役のソル・ギョングさんとヒョンス役のイム・シワンさんは素晴らしい関係性を感じました。キャスティングにおいて、二人は当初からあったものですか?
監督 僕はシナリオを書く段階で特定の俳優さんを念頭に置くタイプではありません。実際にはシーンごとに俳優さんのイメージが変わります。あるシーンでは韓国人の俳優、あるシーンではハリウッドの俳優などが思い浮かびます。今回もシナリオが完成した段階で、誰に演じてもらうかを考えました。今回お二人がいいと思いましたが、気になったのは年齢差が大きいことでした。実際に二人で演じてもらううえで、父と子に見えないように気を付けて演じていただきました。
―二人はどのように決めたのですか?
監督 まずソル・ギョングさんは僕のオーディションを受けてもらうような存在ではないので、そういった起用の仕方は無理だと思います。お二人ともやってもらいたいと思って、信頼してシナリオを渡しました。お二人ともシナリオをおもしろいと感じていただいて、一度ミーティングをして、一緒にやりましょうということになりました。
―年齢差を感じることなく、自然な関係性を築けていましたね。
監督 私はソル・ギョングさんが年上なので“先輩”と呼んでいます。イム・シワンさんも年が離れているのでおそらく普通だったら“先輩”と呼ぶところだと思いますが、僕は役柄上、“兄貴”と呼んでほしいとお願いしました。最初は「難しいかもしれない・・・」と言っていましたが、いつのころからか自然と“兄貴”と呼んでいて、撮影現場でもふざけあったりして仲良く過ごしていました。実際に、お二人は性格が全く違う性格ではあるんですけど、おもしろいことにソル・ギョングさんはベテランですが子どもっぽいところがあり、イム・シワンさんは若いけれど、落ち着いていて大人っぽいところがある方です。
―お二人と現場で交わした言葉で印象的な言葉はありますか?
監督 ヒョンス(イム・シワン)とジェホ(ソル・ギョング)の出会いのシーンで、最初に僕はシワンさんに「緊張した姿でいて欲しい」と言いました。ただ実際に撮影に入ったらシワンさんが軽く微笑むんです。それがすごくよかったんです。自分のディレクションとは違ったんですけど、すごく印象深かったです。
―カメラワークも特徴的でしたね。映像の見せ方などの意識はしていましたか?
監督 絵コンテの段階からそのような計画を立てていました。撮影の時はずっとカメラマンと一緒にいて、次はどう撮ろうかと話をしていました。準備の段階から、もうちょっと近くで撮って欲しいなどのお願いもしました。
―最後に本作を楽しみにしている方へメッセージをお願いします。
監督 まずはこの映画を楽しく観ていただきたいです。そして、日本でこの映画を上映してもらえると聞いてもちろんうれしかったし、邦題は韓国のタイトルよりも気に入っています。映画のポスターも気に入っています。韓国ではファンの集まりができていました。この映画は単なるポップコーンムービーとして観るのではなくて、観た後に考えられるような映画になってくれればいいなと思っています。
【取材・写真・文/編集部】
信頼を求める男と、誰も信じられない男は、時には家族のようであり、兄弟のような固い絆で結ばれていた。しかし、ある真実が露見することで、その絆は加速度的に哀しみと憎悪を帯びていく―。80年代の香港映画やヨーロッパ映画のような古典的でスタイリッシュな映像はこれまでの韓国ノワールとは一線を画すハードボイルド映画として、昨年のカンヌでの上映を皮切りに、第54回大鐘賞映画祭、第37回韓国映画評論家協会賞、第38回青龍映画賞など主要な韓国の映画賞を席巻。ソル・ギョングの演技が高い評価を得て数々の主演賞を獲得するなど、最高傑作といっても過言ではない作品となっている。共演のイム・シワンはいつもの好青年の印象とは真逆な暴力的な男に挑戦して話題を呼んだ。
映画『名もなき野良犬の輪舞』は2018年5月5日(土)より新宿武蔵野館ほか全国で順次公開中!
監督:ビョン・ソンヒョン
出演:ソル・ギョング、チョン・ヘジン、キム・ヒウォン、イ・ギョンヨン
配給:ツイン
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