映画『四月の永い夢』で主演で主演を務める朝倉あきと、メガホンを取る中川龍太郎監督にインタビューを行った。
―声がテーマとお聞きしましたが、監督からキャスティングの理由を聞いた時の心境をお聞かせください。
朝倉 その理由は現場ではなく今回この取材の中でちゃんと聞いたので、他の方については声でキャスティングしたともお聞きしたように記憶をしているのですが、あまり自分のことに関しては意識がなくて、改めて今回取材の中でお聞きしたので大丈夫だったかな、ちゃんと応えられていたのかなと思いました。
―最初から特に声を意識していたわけではなかったということですか?
朝倉 そうですね。一番重要な要素ではないと、この作品を読んだ時に思ったので。
―演じる上で気を付けていたのはどのような点でしたか?
朝倉 一番初めに監督にトーンを落として話してくれと言われたことを記憶していましたので、それは意識をおいていたように思います。
―監督は初めから声を意識してトーンを落とすように演技指導をしたのですか?
中川監督 そうですね。朝倉さんは素晴らしい俳優さんなので、オーバーに感情表現をしなくてもにじみ出るものがすごく魅力的に出るだろうなと思いました。表情や声の感じで小手先の演技をするというよりも、持っている人間の素材のたたずまいをとらえる映画にしたかった。声は自分の体のなかから出てくるものだから、結構その人間の心の在り方が出ると思うんですね。そういうなかでこの朝倉さんの声とたたずまいを撮りたいなと思いました。
―ご自身と役柄の共通点はありますか?
朝倉 何か自分が思っていることや考えていることをあんまり表に出したくないと思っているんですが、台本を読んでいて彼女もそういう人だと感じ、似ているかなと思いました。
―監督から見て朝倉さんと役の共通点はどこですか?
中川監督 朝倉さんの人との距離感の取り方とか、新しい人と会った時の言葉遣いの感じとか、そういうところが素敵だなと思って、人との距離感や言葉遣いを初海さんというキャラクターに投影したかったというところがすごくありました。それはたたずまいも含めてのものだと思うんです。
―楓と初海のやり取りがすごく自然でしたが、楓役の川崎さんは朝倉さんと同い年ですが、演技について話し合いはありましたか?
中川監督 全然話してなかったですよね?
朝倉 私はあんまり考えなかったですね。ほとんど受け手のような感じだったので、川崎さんがほとんど空気を作ってくれていたように思います。
―監督から見てお二人のやり取りはいかがでしたか?
中川監督 もともと最初に脚本を書いた時から、朝倉さんと川崎さんの声のハーモニーはイメージにありました。人間の年齢感はしゃべり方で変わると思うんですね。だから、朝倉さんと川崎さんは同い年だけどそこは初めから心配していなかった。川崎さんは普段はああいった話し方ではなく、だいぶ落ち着いた品のある話し方をされるんですが。
朝倉 本当に!役は徹底して演じられていましたけどご本人はナチュラルな穏やかな人。
中川監督 ナチュラルはぴったりな言葉ですね。二人のやり取りを見てみたかったというところはスタートにありましたね。最初は教師と生徒の役ではなく、姉妹の設定にしたりして。
―桜や菜の花がすごく綺麗に描かれていましたが、ご自身で完成した映画を観た感想をお願いします。
朝倉 現場でも桜のシーンであったりとか、富山の自然のシーンであったりとか、撮影した場所は本当に素敵な場所だと感じていましたが、やっぱり映像で見るとより際立って見えました。またそれが単に綺麗なだけではなく初海の気持ちを際立たせているような効果も感じられて、さすがだなと思いました。
中川監督 あぜ道をひとしきり泣いて、目を覚まして朝もやのかかったまだ青い道を、朝倉さん演じる初海というキャラクターが歩いている。あのシーンも映画を作るときに撮りたかったシーンの一つで、自分の中で大事にしたいシーンです。ただ歩いているだけなんですけれど、あそこは自分としては特別なものでした。あとは桜と菜の花のシーンです。は朝倉さんの撮影が可能だった時間だけ、本当にそこだけ晴れて、それ以外のところはずっと雨だったんですよね。これで撮れなかったら次は仙台に行こうかとか考えたりしていたので、撮り終わった後に風が吹いて桜が散って菜の花がざわざわっとしているのを見て、朝倉さんを主人公として撮ることを選択してよかったなとその時非常に思いました。
朝倉 本当ですか?ありがとうございます。
―ラジオがキーになっていると感じましたが監督のこだわった点はありますか?
中川監督 自分自身が昔からラジオが好きというのもありますが、同じものを聞いている人がいっぱいいるんだろうなと感じることが大切だと思っています。学生時代僕が好きだった同級生がとあるラジオ番組が好きで、僕も聞いているときに「ああ彼女も聞いてるのかな」とか。そういうのって夜が寂しいとよりイメージが強くなりますよね。ラジオの持っている一種の距離感。電話をしているわけではない、そういう距離感が僕は好きでこの映画にもあってるかなっそういう距離感が僕は好きでこの映画の大切な要素としました。朝倉さん演じる初海のせりふにもありましたが、同じ曲でもラジオで聞くとめちゃくちゃいい曲だなと思うこともありますよね。あと、ラジオは偶然性があるんですよね。思ってもない曲や言葉が出てきたりする。自分で聞いていたら好きなものしか聞かないじゃないですか。そういうところがラジオの素敵なところだなと思います。
―朝倉さんは普段ラジオは聞きますか?
朝倉 以前はあまり聞くほうではなかったんですけど最近は聞くようになりました。というのも、数年前から一つラジオの番組をやるようになったので自分でもちゃんと聞かなければいけないと思って、入り口はそういう感じだったんですけど、聞いてみるとやっぱりラジオは音だけで世界が広がっているのが素晴らしいなと。確かに先ほどおっしゃっていたライブ感というか、テレビよりも語り手に近く魅力的なものだと感じました。
―手ぬぐいのシーンが綺麗でしたがどこから手ぬぐいにたどり着いたのですか?
中川監督 この映画のコンセプトにもあるんですけど、心にしみてく感じというか・・彼女が恋人を亡くした時間を自分の中で克服していくかということを大きく強く葛藤するんじゃなくて、静かにしみわたるように終わらせていく感じにしたかったので、そういう意味では手ぬぐいというものは実際に色を付けるために布に染み込ませているので相性がいいなと思いました。あと風を感じさせる映画にしたかった。手ぬぐいは風が吹いたらなびいてくれるので。
―手ぬぐいのシーンは監督から演技指導はありましたか?
朝倉 手ぬぐいをよける感じがなかなかうまくいかなくて何回か繰り返した記憶があります。
中川監督 あれ大変でしたね。
朝倉 そうですね。何がうまくいかなかったんでしたっけ?
中川監督 画面の中の朝倉さんとあんばいが難しかった。結構狭いスペースなんで、結構ご負担をおかけしたんじゃないかなと(笑)
朝倉 いえいえ!そんな(笑)
中川監督 奥のほうに行ってるように見えるけど同じところを三周くらいしてるんだよね(笑)手ぬぐいを入れ替えたりして。
―彼目線で朝倉さんを思わずみてしまいますね(笑)
中川監督 後ろ姿を撮っているカットが結構あると思うんですけど、朝倉さんの背中の感じがすごく背筋がいいので、そこを撮りたいというのがありましたね。
―今回出演者の方々と監督が同じ世代ということですがいかがでしたか?
朝倉 私はあまり年齢を意識することは少なくて、監督と役者と共演者のみなさんという感じで、何か通じ合うものがあれば年齢は関係なく感じることはあると思っています。同年代だからやりやすいとかやりにくいとかは感じたことはなかったです。
中川監督 あんまり年齢というものを意識することはないですけど、今回朝倉さんと三浦さんはものすごくやりやすい方々だったなというのはあります。朝倉さんも三浦さんも川崎さんも人として信用できる感じがありますね。自分としては心地の良い時間だった。年齢が近いというよりも価値観の問題のような気がします。
―本作は昭和感がある懐かしい空気感がありましたがなぜこのような背景にしたのですか?
中川監督 難しいのですが、昭和的というよりもこれからは古いものをいかに大事にしていけるかということが大事だと思っています。なんでもかんでも新しいものを作っていくというよりも、古い価値観だったり、古いものをどう手入れして生きていくか。劇中の古民家もすごく古いものなんですけれども、手入れがきちんとされているから清潔感があるんですね。古いものをただ古くではなく丁寧に描きたい、というのがコンセプトにありました。町や風景もちょっと切り取る角度を変えると見慣れている景色が変わって見えるというのが映画の表現力だと思うので、美意識を統一して作ったというのはあります。
―挿入歌「書を持ち僕は旅に出る」の曲もその雰囲気にあっていましたが曲はオリジナルですか?
中川監督 オリジナルではなくもともとある曲です。数年前にたまたま聞いていい曲だなと思って、この映画の世界観と通ずるものがあるんじゃないかなという気がしたので使いました。
―最後に本作を楽しみにしている方にメッセージをお願いします。
朝倉 女性は感覚的に好んでもらえらえるんじゃないかと私は思うんです。初海の部屋にしても他のシーンにおいても、絶妙なバランスで画作りがされていて本当に素晴らしいなと思ったんです。お話しに合わせて移り変わっていく美しいものがたくさん散らばっているので、そういうものを是非映画館で味わって楽しんでいただきたいです。
中川監督 この映画で描かれている画面の色合いを見てほしいです。ヒロインから見た世界がどう見えるのかというのを大事に撮ったので、彼女から見たものに一種の共感を覚えてくれる人は男性でも女性でもいると思います。あともう一つ、朝倉さんのたたずまいや雰囲気は現代の俳優さんで近い人はいないのでこの映画をこのタイミングで見てもらうのは逆に新鮮になると思います。
【取材・写真・文/編集部】
物質的豊かさをゴールとしない丁寧で誠実な日常が生みだす幸せと希望を、どこか“昭和的”なノスタルジーと共に伝えてくれる本作。主人公・初海の心の光と影をその透明感あるたたずまいでみずみずしく演じるのは、『かぐや姫の物語』で声の出演をし、最近では大河ドラマ「おんな城主直虎」にも出演する朝倉あき。初海に恋する朴訥で誠実な青年・志熊を体現するのは三浦貴大。監督・脚本は17歳で詩人デビューを果たし、その後独学で映画を学ぶ若き才能・中川龍太郎。アニメ「進撃の巨人」の制作などで知られるアニメ制作会社WIT STUDIOが実写映画に初めて製作参加。
映画『四月の永い夢』は2018年5月12日(土)より新宿武蔵野館ほか全国で順次公開!
監督・脚本:中川龍太郎
出演:朝倉あき、三浦貴大、川崎ゆり子、高橋由美子、青柳文子、森次晃嗣/志賀廣太郎、高橋惠子
配給:ギャガ・プラス
©WIT STUDIO / Tokyo New Cinema