『1987、ある闘いの真実』チャン・ジュナン監督インタビュー

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INTERVIEW

韓国国民が国を相手に闘った民主化闘争を描く衝撃作『1987、ある闘いの真実』でメガホンをとるチャン・ジュナン監督にインタビューを行った。

―本作には数多くの登場人物がいて、それぞれに重みや厚みがあります。特にキム・ユンソクさんが演じたパク所長が、ストーリー的には“絶対悪”なはずなのにとても感情移入してしまう。そのようなキャラクター像は脚本の時点からあったものですか?
監督 脚本の初稿を見たときに、そこが一番魅力だと思いました。一人の主人公がいるわけではなく、全員が主人公のような映画を撮りたいと思っていました。1987年という時代を生きていた多くの人々が、奇跡的な出来事を成し遂げました。当時の独裁政権下において、大統領の直接選挙という権利を獲得した、韓国の歴史から見ても民主主義の観点から見ても多くの足跡を残した年だと思います。

通常のストーリーでは、一人あるいは二人の主人公がいて、感情移入をさせて、クライマックスを迎えて、最終的に観客にカタルシスを与えるという構造になっている映画がほとんどだと思いますが、この映画では一人の強い敵対者を設定しておいて、それに対して多くの主人公がいて、その人たちが立ち向かっては崩れ、話をつないでいきます。その中で最終的には、出てきたすべての市民が主人公になる、そのような映画を作りたいと思いました。

そういった意味では、パク所長のキャラクターは非常に重要で、フラットなキャラクターにしてはいけないと思いました。歴史があり、絶対的に怖い人物でなければいけないと思いました。そうすれば観客が最後までひきつけられて観ることができると思ったからです。多くの主人公がいるわけですが、それぞれがバランスよく役割を果たすとき、そういったことがうまくかみ合うと思いました。そうすることで“1987年”という時空間が完成できると思いました。

そのようなシナリオを作るために私は努力を重ねました。このストーリーはそれぞれの人たちが、自分の立場において、最低限の良心を守り抜いたときに大きな力になり、それがいかに歴史を変えるのかというものです。そのようなテーマとプロットがかみ合うことに魅力があると思います。

―豪華なキャストも魅力です。これだけのキャストがそろうことは、監督にとって、映画が成功するために大きな意味を占めますか?
監督 そうですね、キャスティングはいつも重要ですが、この映画ではもっと重要でした。本作では数多くの登場人物がいます。それぞれのキャラクターが自分たちの役割を鮮明にこなしてからこそ、このお話をお客さんが十分に楽しみながら、なおかつ緊張しながらついてくることができるわけです。そのためにキャスティングにおいても多くの時間を割きました。もちろん有名な俳優さんも出演しているのですが、あまり知られていない俳優さんもいたほうがリアル感が出ると思いましたので新人の発掘にも多くの時間をかけました。

―劇中で多くのキャラクターが登場しましたが、説明がなくても理解をすることができました。わずか2時間でこれだけのキャラクターが出るとまとめるのは大変だと思いますがこだわった点はありますか?
監督 この映画には多くのキャラクターが登場していて、それぞれが自分の役割をはたして、次のキャラクターにバトンをつなげていかなければいけません。そのこと自体が容易なことではありませんでした。特に女子大生のヨニは当時の普通の人物を代弁するという重要なキャラクターです。この映画が伝えようとしているもう一つの重要なテーマである、人が人を信じる過程というのを伝えるキャラクターですので、特に気を遣いました。

また、この映画は歴史に基づいています。議論の余地があるキャラクター、例えば当時功罪が共存するようなキャラクターは、どのようにしてストーリーを伝えながら事実を伝えることができるのかとても悩みながら、注意深く作業を行いました。事実は損なわない、だけど映画的なキャラクターを作ることを行いました。登場人物がたくさんいますので減らした部分もあります。例えば刑務所の看守も、本来であれば二人がやっていた仕事を一人のキャラクターに集めましたし、記者についても数名の記者が努力をしたことをユン記者が代表としてその仕事させるようにしました。その作業は容易なことではありませんでした。

―監督自身は、1987年の当時高校生としてこの事件をどのように見ていましたか?
監督 1987年の私は大学入試を控えている普通の高校三年生でした。親や先生や大人たちからは“勉強して大学に行きなさい”という絶対的な目標がありました。私が住んでいた地域でも数多くのデモが行われていましたが、そういったデモを見ながら、“一生懸命勉強して大学に入ったのに、なぜ大学生のお兄さん・お姉さんたちはあのように闘っているんだろう”と気になっていました。

そのとき、友だちがカトリックの聖堂で“不思議なビデオを見せてくれるらしいよ”という噂を聞きつけて、好奇心からついて行きました。映画の中で女子大生のヨニが見ていたように、暗い中でビデオを見ていましたが、民主化運動に関するビデオでした。その内容は『タクシー運転手 約束は海を越えて』(2017)という映画の中でも描かれているドイツ人記者が撮影した映像でした。その映像を見て私は驚き、衝撃を受けました。韓国でこのような残酷なことが起こっているのかと恐ろしくなりましたし、もっと恐ろしいのは、このようなことがあったにも関わらず大人は誰一人として真実を語らず知らんぷりをしていました。そういう戸惑うような1987年を過ごしていました。その後、私は大学に入って、少しずつどのような経緯であのようなビデオが作られたのか、チョン・ドゥファン政権がどのようなものなのかを知るようになりました。

―監督の奥様のムン・ソリさんは、女優としても活躍していらっしゃいますが、本作にはどのように参加していますか?映画人としてはどのような存在ですか?
監督 注意深くこたえなければいけない質問ですね(笑)脚色をしている中で、非常に難しかったことがあります。ヨニはこの映画の中でほぼ唯一といえる重要な女性のキャラクターです。この映画はまずはパク・ジョンチョルの死から始まるというサスペンスの要素があり、それとヨニの家族が眺める一般の市民から見る1987年というものがあり、最後にイ・ハニョルのストーリーにつながる。それらを一つの作品として作らなければいけませんでした。

その女性のキャラクターについて、ムン・ソリがいろいろな話をしてくれました。そしてムン・ソリは、クローズアップされない出演をしてくれました。それはこの映画の最後、大勢のエキストラが出演するシーンです。こういったシーンの撮影は、私はあまり経験がなく、決めなければいけないことがたくさんあったので非常に大変でした。ムン・ソリは監督としてもデビューしていますので、経験を十分に発揮して、エキストラにも、なぜスクラムを組むのか、スローガンを掲げるときのリズムをどうするかをディレクションするなど助けてくれました。

パク・クネ政権崩壊後、ブラックリストが公開されて、そのブラックリストには私たち夫婦の名前が載っていました。私は特にたくさんの活動をしていたわけでもないのに載っていました。ある人からは「ムン・ソリさんと結婚したからだよ」と言われました。けれども、この映画で共同作業をして、映画人として彼女と一緒に接して、本当に結婚してよかったなと思いました。

―本作にはカン・ドンウォンさんとキム・テリさんという人気と実力を兼ね備えた若手俳優が出演しています。二人のキャスティングの経緯を教えていただけますか?
監督 カン・ドンウォンさんは、最初に出演の意思を表明してくださった俳優さんだと思います。カン・ドンウォンさんとは以前オムニバス映画『カメリア』(2011)で一緒にお仕事をさせていただいたことがありました。その縁から年に何回かお酒を飲んで、お互いどのように過ごしているかを話し合う間柄でした。私がこの映画の作業をしようと決めた当時はパク・クネ政権下にありましたので、秘密裏に行わなければならない状況でした。ですが、私がお酒に酔って「こういうプロジェクトを準備しているんだよ」とカン・ドンウォンさんに話したところ、関心を示してくださって、「シナリオが完成したらぜひ見せてください」とおっしゃってくださいました。私は非常に政治的にセンシティブな題材ですので、大スターが出演するには難しいのではないかと思いましたが、キャスティング稿ができたときに、“かっこいい大学生という役があるので見てください”と言うと、「この話は作らなければいけない重要な映画だと思います。もし迷惑にならないのであればこの役をやらせていただきたい」という連絡があり、私は非常に驚きました。その当時は、このオファーを受け入れてもらえるような状況では全くありませんでした。でもそのようなことがあったおかげで、この映画が非常につらく、難しい時期であったにも関わらず、スタートを切ることができたのではないかと思います。今考えてもありがたいことだと思っています。

キム・テリさんですが、『お嬢さん』という作品を見て、新人ですが素晴らしい女優だなと驚きました。ヨニというキャラクターは重要で、注意深く扱わなければいけないと思っていました。私はキム・テリさんを見たときに、“ヨニはあのような姿なのではないか、あのような性格なのではないか”と思いました。実際に会ったところ、本当に役柄に合うと思い一緒に仕事をすることになりました。ヨニというのは非常に複雑で、感情の演技がやりづらい役であったにもかかわらずこなしてくれましたので感謝しています。


STORY
国民が立ち上がり、国と闘った韓国民主化闘争の衝撃の実話を描いた本作。1987年、軍事政権下の韓国では真の民主化からほど遠い日常があったこの年は、人々の良心や行動が人生と国家を変えた1年となった。一人の大学生の死を発端に、国民の不信と怒りはやがて韓国全土を巻き込む民主化闘争のうねりとなって広がる―。北分子の徹底排除に信念を燃やすパク所長役をキム・ユンソク、学生の死を隠ぺいしようとする警察に対峙するチェ検事役をハ・ジョンウ、学生デモに立ち上がる大学生役をカン・ドンウォン、そのほかソル・ギョング、ユ・ヘジン、キム・テリらベテランと若手の演技派俳優が集結。


TRAILER

DATA
映画『1987、ある闘いの真実』は全国で公開中!
監督:チャン・ジュナン
出演:キム・ユンソク、ハ・ジョンウ、ユ・ヘジン、キム・テリ、ソル・ギョング、カン・ドンウォン、パク・ヘスン、イ・ヒジュン、ヨ・ジング
配給:ツイン
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