『轢き逃げ -最高の最悪な日-』小林涼子 単独インタビュー

INTERVIEW

映画『轢き逃げ -最高の最悪な日-』で主人公・宗方秀一の婚約相手・白河早苗を演じる小林涼子にインタビューを行った。

―最初に脚本を読んだ時の早苗の印象はいかがでしたか?
小林 お嬢様だなと思いました。私よりもずっとハイソな生活をしていますが、好きな人ひとり救うことができないという切なさを感じました。早苗の最後の決断は好きな選択だったので、その選択をしてくれてよかったと思います。でも、実際に自分がその立場になったら、私は同じ選択をするのはきっと無理だろうなと思ったりしました。現実的な問題がのしかかってきますからね。早苗は事件によっていろいろなことが変わるでしょうけど、それでもお嬢様だから多少ゆとりがあったり、心にやさしさがあふれていたりするのかもしれません。だからこういう選択ができたのかもしれませんが、自分にはできないことなので、女性としての尊敬はとてもあります。

―加害者の妻という難しい役どころですが、演じるうえで心がけたことはありますか?
小林 “最高の最悪な日”になるのは(小林演じる)早苗なので、最高の部分を見せていかないと最悪になったときに効かないというのを水谷監督と最初の段階でお話しさせていただきました。“最高の日”がいかに“最高”に見えるかはとても丁寧に演じさせていただきました。あとは早苗が映っていない時間にも彼女はちゃんと考えていて、何かをしている時間があるので、彼女が出てきたときにシーンに反映されるように心がけました。

―早苗はポイントとなるシーンに出てきますが、出てくるたびに状況が違うのが難しそうですね。
小林 映画を見ている方は(中山麻聖演じる宗方)秀一さんと(石田法嗣演じる森田)輝君の物語を追っています。早苗は出てこなくても、彼女の存在はあるわけで、どのように過ごしているかは、早苗が出てきたときにみんなの物語としっかりと合うようなテンションでいなきゃいけないなというのは気を付けました。

―ほかのキャラクターが辛辣なシーンが多い中で、早苗だけは明るくポジティブですが、演じる上では気にかけていましたか?
小林 あまり重たい現場には行かないようにしていました。先輩方の現場なので勉強になるので行きたいとは思うのですが、全部を知りすぎちゃうと重くなりすぎちゃうんです。早苗にとって申し訳ないことが多すぎて・・・。早苗は全部を知っているわけではないので、そこは見に行かないという選択をして、あまり深く入り込みすぎないようにしていました。彼女自身知らないことが多くて、それでも出す結論であってほしかったです。

―小林さんの演技で、見ているほうも笑顔になれます。
小林 ホッと一息ついていただけるような感じですかね。

―早苗はおしとやかでお嬢様でありつつも、真の太さも見えます。
小林 喜びの程度とか、“こうしたほうが見えやすい”というのは監督とお話をさせていただきました。最初はオーバーに、早苗は帰国子女であるように演じたほうが音がないシーンでそれが際立つし、無邪気で楽しそうな子がこんな目にあっちゃうというほうがストーリー展開としてもよくなるから、できるだけ無邪気に明るく、お嬢様とはいえチャーミングに演じられるようにしました。

―実際には帰国子女の設定とかはないですよね?
小林 映画には出てこないです。監督とお話をしたときに、早苗は、ただのお嬢様で、上品でおもしろみのないお嬢様じゃなくて、人としてユーモアのセンスだとか、チャーミングな一面を持ち合わせているようなお嬢様。音楽も好きで留学していたのかなというお嬢様の女の子になるといいと思うというお話をしていただいて。確かに早苗はお嬢様で品がいいのですが、どこかおもしろくて、チャーミングさがある。そこは大事にしていたところで、私も好きなところです。

―設定が細かく掘り下げてあるのに驚かされました。そういったお話は撮影中にもされましたか?
小林 時間を長くとったわけではないのですが、監督が親身にお話をしてくださりました。ウェディングドレスひとつとっても、本来であれば白いドレスを着ていればウェディングだって分かるようなことかもしれませんが、あの撮影のために本当のウェディングのように時間をかけました。撮影の前からウェディングドレスは監督が付箋をつけて、お父さんのように一生懸命悩んでくださって、できるだけかわいいウェディングドレスを着させてあげようという気持ちを感じて、とてもうれしかったです。そういった監督の思いが深く掘り下げたものができたものにつながったのかなと思います。

―ウェディングシーンの時間は長くありませんが、本物の式のようでしたね。
小林 そうなんです。一日かかってるんです。だから新婦の気持ちが分かります(笑)友人代表の言葉を言ってもらったり、旦那さんのお友達が出てきて何かを言ったり。そこまでやることはめったにないですよね。私はウェディングの広告をやっていたので、バージンロードを50往復くらいしたんですけど、あそこまで丁寧な披露宴はやらなかったです。本当に結婚するみたいだなと思うくらいにみんなが真剣に作っていたので、一瞬のシーンではありますけど、作品全体の力になったのかなと思います。“最高の日”を全力で作ったからこそ、逆にころころと転がっていきやすくなったのかなと思います。

―気持ちを盛り上げるのに役立ちますね。
小林 実は結婚式の撮影は最後だったんですけど、でもその準備とか、結婚式はこのドレスを着るとか、こういうふうにするとかいうお話は聞いていましたし、衣装合わせてすごいかわいいドレスがいっぱいあったりして、“どれ着るのかしら?”と、それだけで気持ちは変わりました。もちろん私は加害者側だし、水谷さんは被害者側のお父さんだから絶対に交わることはないんですけど、監督はみんなの父親のような気持で作品自体を見守ってくださっていたので、ウェディングのシーンに限らずすべてにおいてそういった思いはあります。

―水谷監督からの演出で印象に残っていることはありますか?
小林 オペラですね(笑)オペラを歌うというのはびっくりしました。(映画本編で)使うか使わないは別にしてオペラを歌うとなったのが15分前くらい。とても驚いたのですが、一生懸命やったのを「ブラヴォー!」と監督が受け止めてくださりました。それはほかのどのシーンでも同じで、必ずカットをかけた後にすぐ来てくださるというのが監督の姿勢でした。私たちに対してこういう風に向き合ってくださっていること自体が現場を楽しませてくれた。なんでもやってみようという気持ちにさせてくださいました。それが印象的でした。役者さんとしては、ありえないくらい先輩なので、その先輩がこっちに向かってきてくれる、普段は自分が行かなきゃいけない側なのに。監督としてお会いしていたからそうなのかもしれないし、水谷さんの人間性が暖かくて、若い子たちに対して一生懸命どうしたらベストになるかというのを、一人一人と向き合って考えてくださっているのが見えました。演出というより、今後の人生相談のような見守り方だったじゃないかと思います。それが結果として演出につながっていると思います。

―水谷さんが俳優だからこそだと思うことはありましたか?
小林 生まれてくるお芝居すべてを否定せずに、全てをしっかりと受け止めてくださって、俳優としては“こういう風にしたほうがいいよね”と見ていただけて、監督としては“絵的にこういうところに手があったほうがわかりやすいじゃないかな”というように、役者として、監督としての両面から見てくださっているからこそ、画作りになったのかなと思います。

―小林さんと早苗で似ている部分はありましたか?
小林 私の家はリッチではないのですが、家族の仲がいいというのは同じかもしれません。父は娘を大切にしてくれますし、母もとても優しいです。あとは、最後に早苗がする決断は自分じゃできないけど、女性としてはそうありたいと思わせる決断だと思いますので、近いというよりも憧れはあります。現実的に考えちゃうと、その先の人生どうするんだろうと考えてしまうところがあるけど、彼女ならするかもしれないという思いにしてくださったのは、水谷さんや壇さんが方向性を考えて、お芝居を見てくださったからだと思います。決断するシーンはお気に入りです。

―秀一役の中山さんとは物語上では深い話も多くなると思いますが、お話はされましたか?
小林 実は高校の一個上の先輩なんです。お会いした時に、なんか見たことあるな・・・あ、先輩!みたいな感じでした。久しぶりの再会でしたが、自分の高校時代を知っているのはとても意味があったと思います。簡単に距離を縮めることができました。そういった意味では輝君(役の石田法嗣さん)も夫婦役を演じたこともあったので、前の夫と今の夫という感じでした(笑)

―神戸でロケを行ったということですが、印象だったエピソードはありますか?
小林 現場外で、監督も神戸の街を結構歩かれていて、ロケ地を探していらっしゃったので、(映画の舞台になった)神倉は神戸の街を撮っているので、私も早苗のお気に入りの場所とか、早苗の時間を作っていきたいなと思っていました。私にはあまりなじみのない街だったので、早苗の記憶を作ろうと思ってブラブラしていました。歩きまわって、ちょっとハイソな感じのカフェに行ってケーキセットを食べたりして、パティシエの方とインスタグラムのお友達になりました。あと、そういう時にお土産を買って行って、ホテルでみんなに「お土産買ってきたよ!」って交換しました。秀一さん(中山麻聖)も京都に行ってスイートポテトを買ってきてくれたりとか、ちょっとずつおすそ分けをして共有しました。遊びに行くほどの時間はなかったんですけど、みんなでコンビニに行くとか、ビッグボーイに食べに行くとか、短い時間でしたがみんなで親交を深めていました。それをサポートしてくださったのが監督で、軍資金を下さって、みんなで神戸牛を食べに行きました。とてもおいしかったです。神戸牛と言えば、監督が神戸牛を現場に差し入れてくださったのですが、私はその日に撮影がなくて、「ああ、神戸牛が食べられない・・・」と思ってへこんでいたら取っておいてくださったんです。無事監督の差し入れた神戸牛を食べることができました。めちゃくちゃおいしかったです。撮影だけが仕事ではなくて、地方に行っているときの空気感だとか、時間の使い方とか、そういうのを含めて見ていてくださったので、それはやはり役者として常に一線で経験されてきた水谷さんだから、みんなのケアまで余裕があるのかなと思います。人として、いつか自分もこういうふうになりたいと尊敬できる方です。

―小林さんが考えるこの映画の魅力的なところはありますか?
小林 檀さんのお芝居がとても好きです。旦那さんが大変な状態だからずっと淡々としていたのに、後に訪れる変化のあるお芝居が胸が痛かったです。お手本のような方でした。あと、映画のタイトルは「轢き逃げ」ですが、轢いて逃げるだけの話ではなくて、人と人の関係の中で必ず嫉妬というものはあって、嫉妬との向き合い方を描いていると思います。現代の人たちは嫉妬が多いですからね。他の人がいいもの食べたり、いいところに行ったりすると、うらやましくなる。それがすぐにSNSで見ることができる。みんな毎日2回くらいは人のことをうらやましいと思っているはず(笑)そういう方たちに見ていただけるといいなと思います。

―改めて人間の嫉妬ってすごいなと思う作品ですよね。
小林 そうなんです、どこまでもエネルギーになってしまうものでもあるので、それとうまく向き合って、糧にしていける人もいれば悪く働いてしまう人もいる。それがこの映画が教えてくれることなのかなと思います。だから私はどうやって嫉妬と向き合おうともう一回考えるチャンスにもなりました。

STORY
ある地方都市で起きた交通事故。一人の女性が命を落とし、轢き逃げ事件へと変わる。加害者、被害者だけでなく、平穏な日常から否応なく事件に巻き込まれる人々。それぞれの人生が複雑に絡み合い、それぞれの抱える心情、隠された思いが浮き彫りになっていく。だが、本当の「真相」はまだ深い闇の中にあった・・・。初監督作品『TAP -THE LAST SHOW-』における圧巻のタップダンス映像と確かな演出で、監督としての第一歩を踏み出した水谷豊による監督第2作は一転して、他人には見せる事のない“人間の心の奥底”に深く切り込む。


TRAILER

DATA
映画『轢き逃げ -最高の最悪な日-』は2019年5月10日(金)より全国で公開!
監督・脚本:水谷豊
出演:中山麻聖、石田法嗣、小林涼子、毎熊克哉/水谷豊、檀ふみ、岸部一徳
©2019映画「轢き逃げ」製作委員会

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