かわぐちかいじによる累計500万部突破のベストセラーコミックを邦画最大級のオールスターキャストで映画化したクライシス超大作『空母いぶき』でパイロット・柿沼正人役を演じる平埜生成にインタビューを行った。
―平埜さんが演じた“柿沼正人”というキャラクターについて教えてください。
平埜 原作にも出てくるキャラクターですが、映画では少し話を変えた部分もあります。柿沼は、空母においてアルバトロス隊という戦闘機チームに所属している戦闘機乗りで、妻子がいるという役柄です。
―登場人物がとても多いので細かいところが描かれづらいですが、細かく設定はあるとは思います。クランクイン前に何かされましたか?
平埜 まず、設定や役割についてですが、劇中、自衛隊員の中で家族の話が出てくるのは柿沼だけだと思います。柿沼は家族の写真を戦闘機の中に持ち込んでいるのですが、そのことから日本を守るために最前線に立っている人たちにも家族がいるということを表す役割を担わせていただいていると思いました。どこまでが戦闘で、どこからが戦争なのかということや、自衛隊の方々の命の向き合い方について、この作品と出会って改めて考えさせられました。クランクイン前には、もちろんトレーニングはしました。空自の方々ともお会いしたかったのですが、機会がなかったので、どのような志や夢を持って入隊されたのかなどは資料を読んだり映像を見て、自分の想像だけではなく、できる限り具体的に考えました。あとは、戦闘機乗りになるためにはどのような試験を受けるのか、ウィングマークをもらうまでの過程なども調べました。また、過去に戦闘機に乗っていた方から操縦かんの操作の仕方を教わる機会があり、戦闘機にもいろいろな種類があって、操縦かんの位置が違うものもあることなどを知ることができました。
―戦艦や戦闘機には興味はありましたか?
平埜 詳しい訳ではないですが、小さい頃から電車や飛行機は男の子心で好きだったので、飛行機雲を見つけて“飛行機だ”って思ってワクワクしていました。あと、弟が戦艦や戦車、銃などのミリタリー系が大好きだったので、僕もそれに影響されて、戦闘機やヘリコプターが好きでした。劇中、説明はしていませんが、台本によるとアルバトロス隊は「F-36」という戦闘機に乗っています。現実の世界には存在しないのですが、この映画の設定では最新鋭の戦闘機になっているというのが個人的にワクワクするポイントでした。もしかすると「F-36」のような戦闘機が将来本当に作られるかもしれないので、男の子心的には今後が楽しみです。映画のテーマは重いものですし、考えさせられる内容なんですけど、戦闘機などが出てくると純粋にワクワクしてしまっている自分がいます。自分に嘘はつけないなと思いました(笑)。
―現実にあるものではない機体ですが、リアルではないけどリアリティはありますよね。
平埜 おもしろいですよね。こういう時代が本当に来るだろうし。パイロットのインタビュー映像を見たりして、性能の話も聞いていたので、「海面スレスレを行け」というのも意味が分かったし、そういう理屈とかを知っていると、より見ていてもおもしろいし、好きな方も見てほしいなと思います。
―専門用語も調べたりされたんですか?
平埜 専門用語も結構勉強しました。乗っている人間ではあるので。その辺は知っておかなきゃいけないなと思いました。劇中にも出てきますが「チャフ」や「フレア」、戦い方によってミサイルの積み方も変わることとか、おもしろかったですね。いろいろなことを教わりました。
―そもそもこのお話を受けたときはどんなお気持ちでしたか?
平埜 即決で「やります」とお答えしました。むしろ「やらせてください」と言いました。ありがとうございますという気持ちでいっぱいでした。
―完成した映画はご覧になりましたか?
平埜 見ました。間違いなくおもしろかったです。2回見て、最初に見たときは“社会的な映画だな”という印象だったのですが、2回目に見た印象はずいぶん違いました。もちろん根底に流れる“社会性”はあるんですけど、日常を切り取ろうとしていて、あくまで生活が主体で、その中で最前線に立っている方がいる。そして最前線に立っている方もみんな人間で、お互いが寄り添うという考え方がある。僕の役では家族がいるし、他にも上司と部下などの関係性があり、人に寄り添う映画なんじゃないかなと思いました。
―戦闘機の中のシーンはどのように撮影していたんですか?
平埜 椅子に座って、額をバーにくっつけて動かないように固定して、目だけ撮っていました。目だけのお芝居だったのですごく難しかったですね。今までやったことがなかったので。こういうふうに撮ってるんだなと思いました。それと逆に、目だけでもこんなに表現できるんだなと思い、可能性を感じました。
―市原さんとは同じアルバトロス隊の役ですがお話はされましたか?
平埜 役についての話はあまりしていなくて、用語をどうやって読むのかとか、そういった話は監督やプロデューサーも交えて話しました。僕の勝手な市原さんのイメージが“熱くて男気のある方”だったんですけど、その時の市原さんの姿勢を見ていると、それをさらに超す熱さだったので、背筋が伸びる思いでした。会話をあまり交わさなかったことが逆に上司と部下としての役のポジションを含めて緊張感が生まれ、ありがたかったです。
―ほかのキャストとお話しする機会はありましたか?
平埜 戸次さんとは今回2回目の共演だったので、今までに話したことがなかったプライベートな話もしてくださいました。僕が戸次さんに「なんてお呼びしたらいいですか?」と聞いたら、「シゲに決まってるだろ」と言ってくださったりしました。また、僕は家族がいて赤ちゃんがいる役だったので、お子さんが生まれるというのはどういう気持ちですか?と聞いたりしていました。
―甲板でのシーンは大変だったと聞きました。ロケなんですか?
平埜 ロケです。山の中にセットを立てて撮影しました。大変だったのは僕のせいで大変になってしまって・・・。全然OKが出なかったんです。でも若松監督が粘ってくださりました。監督が妥協せず、もう一回、もう一回と言ってくださったことで、本当に救われました。ただ、それで僕が2~3時間押してしまったせいで、後のシーンが夜明けまでかかってしまいました。本当に申し訳ないです。
―それくらい重要なシーンですもんね。
平埜 そうですね、それくらい監督も熱をもって作ろうとしてくださっていて、カメラマンさんもこっちのアングルがいいとか、いろいろなことを話し合っていました。担架で運ばれるシーンもとてもこだわっていて、少しタイミングが違うとか、粘ったシーンです。
―寒かったと聞いたのですが、いつ頃の撮影ですか?
平埜 3月でした。夜は寒かったですね。後は実際の海の中でのシーンも寒かったです。ウェットスーツを中に着て上に衣装を着ていましたが、それでも寒かったですね。
―平埜さんは、ご自身が出ている映画を劇場に見に行くことはありますか?
平埜 あります。映画は映画館でお金を払って見たいという気持ちがあります。音響設備も違うし。単純に自分が出た作品がどういう風に映画館でかかるのかが気になるので。舞台は自分が出ている姿を見ることができませんが、映画だと客観視できますし、自分が出ているのを見るのは変だけどおもしろいなと思っています。
―本作に出演して一番得られたと思うことは何ですか?
平埜 やっぱりご縁と出会いが大きかった作品です。出演が決まった経緯もそうです。昨年出演していたドラマがあったのでスケジュール的に“難しいかもしれない”というお話だったんですけど、台本を読んで「絶対にやりたい」という話をしました。そうしたら、そういったスケジュール状況にもかかわらず、プロデューサーさんも「お願いします」と言ってくださるという、僕の経験上あまりない経緯で決まったので、それもご縁と出会いだと思いました。撮影では監督にも粘っていただけて、現場では具体的な演技の話をすることができました。ほかの監督ともお話はしますが、若松監督は演技の先生のようでした。是非、また絶対にご一緒したいと思っています。後はどの作品もそうですが、調べていく中で何かを得ることが多いです。
―これからの新たな目標はできましたか?
平埜 「貧すれば鈍する」なんて言葉がありますが、どんなに貧乏でも、心は貧しくいたくないなと思いました。もちろん生活もありますが、お金で選んで心を捨てるとまでは言わないけど、そういった選び方をするのは僕にはできなくて、貧しくても心だけは貧しくならないようにしたいです。お金で例えてしまいましたが(笑)、それはお仕事でも同じで、どんなに少ないシーンでも、自分が出たいと思える作品とか、ご縁で呼んでくださった作品、監督、役者に“出会えること”を大切にしたいと思いました。
―これから先もテレビドラマや映画、舞台などが決まっていらっしゃるんですよね。
平埜 映画では公開待機しているものが3作品ほどあります。どれも少ないシーンですけど、それでも大きな出会いがありました。監督との出会いもあり、その監督がすぐ呼んでくださった別の作品もあったりするので、そういう出会いは映画ならではの、そして役者としての楽しみがあるのかなと思いました。舞台とは違って、一日でいいから撮影に来てよっていうのは映画ならではだと思います。楽しくやっていきたいですね。
ヘアメイク=安海督曜(EFFECTOR)
スタイリスト=渡辺慎也(Koa Hole inc)、SHINYA WATANABE(コアホール)
衣装協力=ジャケット/KIIT(TEENY RANCH:電話03-6812-9341;28,000円)、Tシャツ/KIIT(TEENY RANCH:電話03-6812-9341;14,000円)、パンツ/KAZUYUKI KUMAGAI(アタッチメント代官山本店:電話03-3770-5090; 25,000円)、シューズ/Johnbull×OFFICINE CREATIVE(ジョンブルカスタマーセンター:電話050-3000-1038;58,000円)
「沈黙の艦隊」「ジパング」のかわぐちかいじによる累計350万部突破のベストセラーコミックを、日本映画界を牽引する西島秀俊と佐々木蔵之介共演で映画化。国籍不明の軍事勢力から突如、攻撃を受けた日本。国民の命と平和が脅かされたとき、国の舵取りを託された者、過酷な戦闘下で防衛の任に当たる者、彼らは何を考え、如何なる選択をするのか。手にした力はどのように使うべきなのか。各々の立場でのそれぞれの決断がこの国の未来を作る。
1993年2月17日生まれ。東京都出身。こまつ座の舞台『私はだれでしょう』で第25回読売演劇大賞上半期5部門ベスト5 男優賞にノミネートされ、2018年には『誰もいない国』(新国立劇場)に出演するなど、舞台での活躍のほか、ドラマ『バウンサー』では主演を務め、大河ドラマ「おんな城主 直虎」や映画「劇場版 コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-」などの話題作にも出演し、注目を浴びている。6月2日(日)には、WOWOW 連続ドラマW「悪党~加害者追跡調査~」第4話に出演。9月には、こまつ座の舞台「日の浦姫物語」の出演が控えている。
映画『空母いぶき』は2019年5月24日(金)より全国で公開!
監督:若松節朗
出演:西島秀俊、佐々木蔵之介、本田翼、小倉久寛、髙嶋政宏、玉木宏、戸次重幸、市原隼人、堂珍嘉邦、片桐仁、和田正人、石田法嗣、平埜生成、土村芳、深川麻衣、山内圭哉、中井貴一、村上淳、吉田栄作、佐々木勝彦、中村育二、益岡徹、斉藤由貴、藤竜也、佐藤浩市
配給:キノフィルムズ
©かわぐちかいじ・惠谷治・小学館/『空母いぶき』フィルムパートナーズ