月面からナチスが侵略する大ヒットSFアクション映画の待望の続編『アイアン・スカイ/第三帝国の逆襲』でメガホンをとるティモ・ヴオレンソラ監督監督にインタビューを行った。
―今回7年ぶりの新作ができました。クラウドファンディングでは前作の1億円を超える1億5000万円が集まったということで、これは前作への評価と本作への期待だと思います。この評価と期待に対して監督はどう考えていらっしゃいますか?
監督 まず製作に7年間の時間がかかったのは、我々が小国フィンランドで映画を作っていることが理由の一つです。製作のための資金集め、それからパートナーを探さなければいけない、それに時間がとてもかかりました。クラウドファンディングで一部資金を集めることはできましたが、全体の予算が2000万ドル(約21億円、1ドル108円換算)の予算で、そのうちの1.5億円なのですごく大きいというわけではないのですが、その資金がなければスタートもできなかったし続けることもできなかったので、重要な製作費の一部がまさにクラウドファンディングで集められた資金です。
ファンからの期待にこたえなければいけないプレッシャーというのは、僕自身は映画を作っているときに“ファンのため”を考えてしまうと単純なファンサービスになってしまうのでそれは必ずしも映画にとってよくはないと思うんです。自分が信じる、自分が見たいものを作る、そういう気持ちで向き合っているので、そこまでプレッシャーを感じていません。ファン自身もこの映画のユニークなところを気に入ってくださっているし、逆に自分の「こういうものを見たい」というのを強く持っていらっしゃるので、ちょっと違うなと思ったらそれをはっきり言うと思うんです。それはそれで分かっていることなのでと受け止めています。1本目は自分も驚くほどこのクレイジーなアイデアが良質な映画になったと実感していて、小国フィンランドから遠くはるばる日本にまでこの作品が旅をして、今回2本目をみなさんにお見せする中で、1本目を見ているという方がたくさんいらっしゃるということが本当にすごいなと実感しているところです。
―前作もそうですがキャラクターが非常に魅力的です。メインの3人もいいキャラクターです。そういったキャラクターを作るうえで参考にしていることはありますか?また、3人と一緒に映画を撮られていかがでしたか?
監督 ララ(・ロッシ)が演じるオビは、お母さんのレナーテが前作の主人公で、ヒーローでありながら人類の救世主でした。本作ではその仕事に疲弊してしまっており、今までは進歩的な考え方だったのが保守的な考え方になってしまっています。どの世代でもそうですが、歳を重ねることで保守的になってきてしまう。それに対して若者たちが、バトンを渡されて次の時代を切り開いていかなければいけないということで、オビというキャラクターを作っていきました。レナーテとオビは真逆で、レナーテはナチ政権の月面基地で育ったのであまり余裕がないというか、こうしなければいけないということが決められて育った女性だったのに対して、娘のオビは反逆心にあふれていているし、旧体制に対して反抗的です。反逆的な女性で、力強く、強いものを持っていて、そのバトンを自分からつかんで前に進んでいく女性像をイメージして作っていきました。
(ウラジミル・ブラコフが演じる)サーシャは、ステレオタイプ的なロシアの青年です。女性にアタックするためには自信過剰なくらい自我を押し付ける、そういうロシアの若者たちの小さなコミュニティに育っているという背景があるんです。それしか方法を知らないというところもあるのと、フィンランド人からするとロシアのステレオタイプの一つとしてそういうキャラクターを与えています。ロシア風に男らしさをぐいぐい押し付けますが、もちろんオビにとっては「は?なに?」みたいな感じで、最終的には無理して作らなくていいんだということを彼は学んでいくわけです。
オビのことを完全に信頼しているキャラクターが(キット・デイルが演じる)マルコムにはあります。基地の中でオビがいいことをしている、がんばっているということを唯一理解しているキャラクターです。ほかの人はそこまでわかっていません。こういうタイプの物語だと一番ヒーローに近い造形がマルコムのようになるところですが、あえてオビをヒーローにして、オビのわき役に徹したような、そのひとりにマルコムを当てているのも意外性があっておもしろいかなと思ったのと、「スター・トレック」のファンだったら気づいていただけるのは、「スター・トレック」の世界では赤いシャツを着ているキャラクターが最初に死んでしまうキャラクターなんですが、彼は赤いシャツを着ているのですが、死んでは生き返り、死んでは生き返りを繰り返し、そこもちょっと内輪ネタでもありました。
―今回の作品はスティーブ・ジョブズが出てくるところもポイントですね。おもしろかったしビックリしました。ケータイというものへの監督の思いや、監督が実際に使っているケータイの機種が気になります。
監督 ジョブズ教のことですが、世界を旅していると、どこにいってもスマホに顔をくっつけていて、笑ってしまうんだけど同時に怖いなと思っているんです。この新しい宗教の設定を作るときに考えていたのは、宗教はいかに今の時代に形を変えているかということ、宗教は常に周りの世界を説明するためにあるものだと思うんです。国や共同体を通して、人々を統治するために使われています。そういった存在だったのが、そのような使われ方は古くなってしまっていて、これからの宗教はもっとテクノロジー絡みになるんじゃないかと思いました。私たちを取り巻いているテクノロジーはすでに私たちは完全包囲していますよね。この新しいデジタル世界の宗教は我々を囲んでいますし、宗教というものは宗教的リーダーや聖書的なものに形作られているけど、我々の世界もビル・ゲイツ、イーロン・マスク、こういう人々によって世界が形作られている。だから未来の宗教のリーダーは彼らなのではないかと思ったわけです。僕自身もケータイを見ているときにお辞儀しているようだし、祈っているようだなと思いました。崇拝しているようで、宗教的だなと思ったんです。ちなみに私のケータイはファーウェイです。カメラの性能で決めました。最初はフィンランド製のノキアでした。ノキアは性能がよかったんですけどね・・・スマホが登場して、iPhoneが登場して、ノキアは競争に負けてしまいました。
【写真・文/編集部】
人類は月面ナチスとの戦いに勝利するも、核戦争で自滅し、地球は荒廃してしまう。それから30年後、人々はナチスが月面に作っていた基地で生き延びていたがエネルギーが枯渇し、絶滅の危機を迎えていた―。荒廃した地球の深部に新たなエネルギー源があることを知った主人公オビは、誰も足を踏み入れたことのない<ロスト・ワールド>へと旅立つが、そこは秘密結社ヴリル協会が君臨する世界だった。ヤツらは人類絶滅を企て、恐竜とともに地底から攻めてくる―。
映画『アイアン・スカイ/第三帝国の逆襲』は2019年7月12日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国で公開!
監督:ティモ・ヴォレンソラ
出演:ララ・ロッシ、ウラジミル・ブラコフ、キット・デイル、トム・グリーン、ユリア・ディーツェ、ウド・キア
配給:ツイン
©2019 Iron Sky Universe, 27 Fiims Production, Potemkino. All rights reserved.