「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2020」の長谷川敏行プログラミング・ディレクターにインタビューを行った。本映画祭は、“若手映像クリエイターの登竜門”として、映画界の未来を担う新たな才能の発掘を目的に2004年より毎年開催してきた。今回は、新型コロナウイルス感染拡大防止および来場者、関係者の安全確保を第一に考慮し、オンライン配信で開催される。
長谷川 まず国際コンペティションに関しては、ドキュメンタリーが2本あります。我々の映画祭では基本的にはアニメーションもやりますし、すべてのジャンルを一つのコンペティションの中でやるという考えですので、ドキュメンタリーが2本あること自体は不思議なことではありませんが、どちらも実在する人で、単純に成功者の軌跡を追うというわけではなく、“普通の生活を見せる”というところを描いています。ドキュメンタリーはどうしても成功している部分を描きがちですが、成功している人も普通の人であることを表しています。
『リル・バック/メンフィスの白鳥』は、サクセスストーリーではありますが、メンフィスという町自体が主役でもあります。フォーカスされているのは貧困地域なので、そこに暮らす人々や町が胸を打つ作品です。もちろんダンスシーンが見どころですが、それだけではなく、主人公がメンフィスなんじゃないかと思います。この2本はドキュメンタリーとして、オーソドックスなスタイルをとりながらも、単純に人を映しただけではないと言うところで見ていただく方にも感じていただければと思います。
また、戦場カメラマンを取り扱った作品が2本入っており、ドラマとドキュメンタリーというジャンルが違うものです。『南スーダンの闇と光』は、難民の受け入れが進んでいるオーストラリアの映画で、その国だからこそ作られる物語だと思います。難民と戦場カメラマンの男同士の友情を中心に話が進みます。おそらく今回の国際コンペティション10本のうちでも正統派なドラマに仕上がっています。対立や苦悩、その先にある希望がすべて見られるドラマとして正統派な作品です。
『カムバック』は笑えるコメディで、芸術性を問う映画祭だと見逃されがちですが、王道の面白さもありながらひねったヨーロッパ的な笑いが入っています。こういう映画は紹介したいという思いがありました。『フェリチタ!』はフランスならではのテイストがある家族ドラマです。
『願い』はステラン・スカルスガルドが出演していますが、2時間5分息が詰まる映画のリアルってこういうものだよなという作品です。監督自身が末期がんを告知されて、本人の体験をもとにしているので、映画とは思えないリアルが描かれています。
『シュテルン、過激な90歳』はびっくりするようなお話ですが、主人公を演じた方の体験をもとに監督がお話を書いた作品です。彼女はユダヤ人ですが、ドイツ人と恋に落ちてドイツに渡ってきたという物語です。
『ペリカン・ブラッド』は若い女性監督ですが、こういう深いテーマで母親が感情を持たない子供に必死になって愛情を注ぐところを、ホラーというジャンル映画に落とし込んでいるのがうまいなと思いました。『ザ・ペンシル』はロシアの現実がすごく伝わってくる作品です。ドキュメンタリータッチで、ロシアの寒い感じがリアルです。
『写真の女』ははじめに見た時に衝撃で、日本の監督でこういう世界の切り取り方ができる方は最近見たことがないです。映像も凝ったものですが、それ以上に自身の存在について、SNSの承認欲求だったりでしか自身を確立できないというところは、今だからこそ生まれた作品です。
国内コンペは全体的には今までのSKIPシティ映画祭らしい映画だけではないものを入れてみた感はあります。今までは端正なドラマ作品が中心でしたが、すでに海外でも評価を受けている『コントラ』のアンシュル・チョウハン監督は映像に強度があります。映像を撮るにあたって計算されつくした画作りがあるので、商業で作られている映画とは制作費は違いますが、クオリティは上回っているのではないかと思います。この映像体験はなかなかできないので外すことはできなかったです。
『雨の方舟』は大学の卒業制作で、低予算ですし、プロダクションバリューが非常に高いというわけではありませんが、若い女性監督が自分自身が存在することの不確実性を考えたということが衝撃で推したい作品でした。卒業制作の作品の応募はたくさんあるんですけど、その中でも映像がしっかりしていて、京丹波町で撮影されているようですが、素晴らしいロケーションを見つけているので映像も素晴らしい。この2本は今までのSKIPシティ映画祭らしさとは少し違うタイプの作品ではあります。
『あらののはて』『B/B』『コーンフレーク』は物語で引っ張っていくタイプです。『あらののはて』は面白い構図で、意表を突いた物語です。『B/B』は卒業制作ですが、監督は商業的なものを目指しているんだろうなと感じます。
『コーンフレーク』は我々の映画祭では3年連続で上映している磯部鉄平監督の作品です。磯部監督は包容力もあり、人柄もそうなのですが、作ったものがすべて温かい気持ちになれる作品です。なんとも言えない空気感が幸せな気持ちにさせてくれます。磯部ワールドとしか言いようがない作品ですね。キャラクターが生きている感じがするのが素晴らしいです。
例年だと国際コンペでは地域的なものを考えたりするんですけど、逆にそれをしないほうがいろんな違ったタイプの作品を集められるのではないか、広いジャンルの作品を上映できるんじゃないかというところで、そういったところを考えず選びました。結果として違ったタイプの作品のセレクションになりました。国内コンペは監督のスタイルが際立っている作品を選んでいます。アート志向か、コマーシャル志向か、いろいろありますが監督の志向が際立った作品を選んだ気がします。いろんな作品を上映できることはうれしいことです。
長谷川 アジア作品も候補作品には残っていたんですけど、細かい点だと中国作品が例年よりも弱かった気はします。特筆すべきスタイルや個性がないけど、しっかりできている作品が多かった気がします。ここ数年いい韓国映画を上映していたんですけど、それらと比べてしまうと少しおとなしい感じがしました。個性が強い作品がヨーロッパに多かったということですね。
長谷川 日本でアニメーターとしてお仕事をされていて、2016年に制作会社を立ち上げて作りました。本作でも一部外国人のスタッフも入っています。撮影は日本人のスタイルとは違う感じがします。白と黒なのにカラーと思わせるくらいの濃淡があり、映像としては“すごい”と思います。
長谷川 商業映画として作られたわけではないんですけど、映画のたたずまいは大きなものを感じさせますね。外国で映像を学んだ影響もあると思います。次の作品が見たいですね。
長谷川 こういったジャンルの中で素晴らしいものを作ることは、技術的にクオリティが高いと思わせます。楽しいというのはとても重要なことです。
長谷川 それは偶然で後からくっついてきた感じです。『南スーダンの闇と光』はヒューゴ・ヴィーウィングもオーストラリア人なので自国で作った映画です。ステラン・スカルスガルドはスウェーデンの方なので、自国ではないんですけど北欧に戻って撮った作品ですね。大きなバジェットで作られた商業映画ではないので、おそらく脚本を読んでやりたいと思い出演されたのだと思います。いい映画に出たいという思いがあるのではないかという気がします。
長谷川 たくさんの映画が作られているということだと思います。募集を開始したときは1月だったのでコロナの影響はほとんどありませんでした。来年どうなるかはわかりませんが。映画祭をきっかけに劇場上映されることも多くなっているので、それもあるのではないかと思います。今年はオンラインになったから、そのあと劇場公開できなくなっちゃうというところで実際に断られた作品もあります。そのあとの公開につながるお手伝いをしたいとお話をして、劇場公開につながると感じていただけたのではないかと思います。
長谷川 (例年本映画祭が開催される)7月に東京オリンピックが開催されることでおそらく会期は来年も9月になるのかなと思いますが、オリンピックが開催されるのであれば我々も劇場でやらない理由はない気がします。同時に今年オンラインになったことで、立地条件の問題が解消されるのであれば、ハイブリッドのような形での開催も今後考えていくべきだと思います。今回開催して、どのようなメリット、デメリットがあるかを来年に活かしていきたいです。ただ、インディペンデントで作っているフィルムメーカーは人に見せるという機会がなく、観客と一緒に見る機会は少ないと思うので、反応を直で感じられるというところは残したいです。全部オンラインにすることは来年はないと思いますが、コロナの影響にもよりますね。
10月4日(日)23:00までオンラインで開催中!
SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2020公式サイト
【写真・文/編集部】
SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2020は2020年9月26日(土)~10月4日(日)にオンラインで開催!