変わりゆく3つの時代を描く心揺さぶるヒューマンストーリー『ヤクザと家族 The Family』の藤井道人監督にインタビューを行った。
監督 2012年に『けむりの街の、より善き未来は』という映画を作っていて、ヤクザは自分の興味の中にありました。理由を考えたんですけど、東京・中野で育って、新宿が主な遊び場で、歌舞伎町に行ったりして、その中で認識していたんだなと感じました。『新聞記者』が終わって、オリジナル映画を書きたいと思っていた時に、オリジナル映画が大好きな河村光庸プロデューサーが何かやろうと言ってくれました。何をやろうとなった時に、「ヤクザがテーマの映画をやらないか」と提案されました。自分も出したカードの中にあったので、“じゃそれをやろう”というところで企画がスタートしました。
監督 自分のスケジュールですね。やりたいけど、「向かいのバズる家族」などのドラマ2本を抱えていて、終わったらすぐに『宇宙でいちばん明るい屋根』の準備にかからなければいけなくて、単純に時間がありませんでした。だから、「脚本は書けないから誰か書いてください」って言ったのですが、脚本家が一生懸命書いてくれたことと、河村・藤井がやりたいことを確認していく中で、「これだよね!」というのが見出せなくて・・・。僕はその後、『宇宙でいちばん明るい屋根』を「楽しい!」って言いながら撮っていて、終わってみたら(本作の)脚本がなかった。8月末~9月くらいですね。河村さんに会ったら、「今から書かなきゃ」って。“11月クランクインって言ってるから無理じゃん、どうするの?”って思いました。でも、その2か月の全時間を『ヤクザと家族』に費やしました。そういった意味で難産でした。その前から取材はしていたので、結果いいほうに働きました。『宇宙でいちばん明るい屋根』が終わって、映画を作る楽しさを再認識した状態で、『ヤクザと家族』を書くとなったので、スピード感があってノれたのが嬉しかったです。自分の中でも自信になりました。
監督 キャスティングのおおずさわこさんには本当に感謝しています。2か月間であれだけ素晴らしい役者さんを集めるのは本当は無理です。綾野さんは脚本を待っていてくださったので、(綾野)剛さんありきで当て書きで書いて、何の根拠もなく舘さんにオファーしたいからと舘ひろしさんをイメージして書いていました。だから、柴咲博という名前にしました。あとは尾野真千子さんもやってくれるか分からないけど当て書きしていました。だから、キャスティングをしてくれたおおずさんに感謝しています。
監督 舘さんには自分が書いたものを見せなきゃと思い、大慌てで書いたものを見せて納得してくれました。別の稿の段階では当たってはいたと思うんですけど、この脚本を選んでくれたキャストにはすごい感謝しています。
監督 そうですね、河村さんから「綾野剛さんどう?」って言われた時に、「いいですね、やってくれるなら!」とお話しました。台本を待ってくれるという状態だったので何としても書かなければというプレッシャーはありました。
監督 お芝居を一緒にやってみるまでは分からなかったです。すごくいい顔をしてるなとか、いい雰囲気を持ってるなっていうのはありましたけど、冒頭のシーンから、並々ならぬパワーを感じて、剛さんの目つきに引っ張られましたね。2章で積み上げて、3章でみんなで壊そうという企みを剛さんと共有することができました。
監督 たくさんありました。提案というか、身にまとうものだったり、台本には“金髪で”くらいしか書いてないんですけど、どういう金髪にするかとか、どういう服装なのかは剛さんのアドバイスでした。自分の中では「こういう感じなんですよね」と言うと、剛さんが「ノース・フェイスがいいんじゃない?」とか「このときはナイキのエアフォースが流行ってた」とか引っ張ってもらいました。バイクに関してもノーヘルで行こうと。そのための準備もプロデューサーがやってくれました。
監督 完全封鎖しました。富士市での撮影だったんですけど、警察に届け出をして、手続きをして、(綾野に)疾走してもらいました。目に見えないところで裏方が頑張ってくれたおかげであのようなシーンが撮れました。
監督 もともと素晴らしい役者だと思っていました。尾野さんと剛さんが共演していたと知らなくて、この役は尾野さんがいいなというのは僕と河村さんの中であったのでオファーしてみました。凛とされていますよね。大好きな女優さんですね。
監督 剛さんはノースタントです。轢かれたり、海から落ちたり、全部やってくれました。水の中のシーンもすごい大変なんですけど、アクションシーンもやってくれて、背中を見せてくれました。イッチーはここ数年のベストアクトだと思っていて、“市原隼人ここにあり”と思います。(北村)有起哉さんは『新聞記者』で大好きになっちゃいました。有起哉さんのヤクザ役を見てみたかったんです。磯村勇斗も撮影に合わせて身体を作ってきてくれて熱量を感じましたね。そして、豊原功補さんの悪人はめっちゃ怖かったです。ご本人は優しいんですけど、芝居がめっちゃ怖いなと(笑)こんなの言われたくないなと思いましたね(笑)小宮山莉渚は、オーディションにいなかったんです。自分で調べた時に見つけて、演技は初めてで、その彼女にこの映画を委ねるのは賭けだったんですけど納得しています。彼女の目が素敵でした。たくさんのいい俳優がいました。
監督 今後要チェックですね。CMにも出演しているので徐々にバレてきてますね(笑)
監督 そうですね、本物のヤクザの方には接触していけないという原則があるので、元ヤクザ、元暴力団の方やライターの方々がメインになりました。その時に沖田臥竜さんという作家に出会えて、いろいろと取材をさせていただきました。所作や感情面もうかがえたのでこの映画の陰の功労者ですね。沖田さんに出会えなければ『ヤクザと家族』という映画はこんなに大好きな映画にはなっていなかったと思います。
監督 嬉しいですよね、恥ずかしいですけどね(笑)あの時の映画作りがすごく楽しかったと思います。僕も楽しかったです。「今俺たちいいもの作ってる!」という波がちゃんとありました。僕がというよりも綾野さんや舘さんが引っ張ってくださった部分がありました。僕たちのチームは若く、映画小僧みたいな感じで「これを撮りたいんです!」という思いを受け入れてくれました。
監督 初日から感じました。イッチー(市原隼人)が「本気で来いや!」みたいな。駿河(太郎)さんや豊原(功補)さんも熱いんです。この映画にかけているのが伝わる。それを1か月間キープできたのは誇りです。監督のひとつの仕事に、みんなの体調、作品に対するモチベーションを見逃さないで諦めなかった。それが自分の中でも自信になりました。
監督 すごい大変でしたね。髪型にしても、一度みなさんに帰京していただいて髪を切ってから第2章を撮りますと。そして第3章でもまた変わるので、そういったところは助監督やプロデュースチームがスケジュールをうまく組んで、現場を円滑にしていただきました。
監督 やはり衣装や、匂いがするものはすごく意識しました。看板の色も。商店街に美術スタッフがネオンをガンガン作ってくれて、8割くらい作っています。ロケ地も最初は全部沼津と富士で撮ろうとなったけど、町が変わったとなった時は静岡まで行かせてくださったりして。ひとつひとつの粘り方はやれやれと思われたかもしれないけどやってくれましたね。
【写真・文/編集部】
本作は、1999年、2005年、2019年と変わりゆく時代に、ヤクザという生き方を選んだ男と、彼を取り巻く人々を、抗争ではなく、家族の視点で描いた壮大なクロニクル(年代記)。“組織=ファミリー”と“自らの家族”の間で揺れ動き、時代の波に流されながら激動の20年を生きた男が抱える家族への愛、様々な問題をはらみ、反社会勢力として徹底的な排除に追い込まれた“ヤクザ”を描く。少年期に柴咲組組長の危機を救ったことからヤクザの世界へ足を踏み入れた男・山本賢治役に今回初のヤクザ役となる綾野剛。綾野演じる身寄りのない孤独な少年・山本に手を差し伸べ、“家族”という居場所を与えた柴咲組組長・柴咲博を、ヤクザ役は43年ぶりとなる舘ひろしが演じる。
映画『ヤクザと家族 The Family』は2021年1月29日(金)より全国で公開!
監督・脚本:藤井道人
出演:綾野剛、尾野真千子、北村有起哉、市原隼人、磯村勇斗、菅田俊、康すおん、二ノ宮隆太郎、駿河太郎、岩松了、豊原功補/寺島しのぶ、舘ひろし
配給:スターサンズ/KADOKAWA
© 2021『ヤクザと家族 The Family』製作委員会