『ドライブ・マイ・カー』で高槻耕史役を演じた岡田将生にインタビューを行った。
岡田 とても読みごたえがある脚本でした。この映画で描きたいものをくみ取って読んでいくと、素晴らしい脚本だなというのが一つと、この役をどうやって演じるかということで頭がいっぱいになりました。この脚本は地方ロケに行く途中に車の中で読んでいたんです。濱口監督とも一度お仕事をしてみたかったというのもあって、この脚本と出会えたことは自分の中で奇跡的なことでした。
岡田 現場で生まれてくるものを楽しめたから好きになりました。役とこの映画と向き合えたからこそ、ああいう高槻が生まれたんじゃないかと思います。
岡田 今までは自分が思っていることを、全て監督に言ったことがなかったのですが、僕が思っている高槻像を監督に伝えたところ、監督が思っている高槻像とはちょっと違ったりしました。それを監督とお話しながら少しずつ崩していくと、いろんな面の高槻が現れてきました。それくらいこの役に対して思いがありました。監督とお話しして、「このシーンのこのセリフはなんか違うと思うんです」とか(笑)それを監督は真摯に聞いてくださいました。完成したものを見た時に感動しました。どこがということではないんですけど、初めて見た時に、監督がスタッフやキャストを尊敬していて、濱口監督が撮りたいものをスタッフ・キャストが一丸となって撮るというのがこんなに団結している組はないなと肌で感じていたので、それが完成したものに全部集約されていた感じがします。
岡田 今は基本的に試しています。だけどそれを求められる現場だといいんですけど、そうじゃない現場のほうがもしかしたら多いのかなと。本読みで基本的に感情を入れないで棒読みで話すというのは自分の家でやってます(笑)全部ボイスレコーダーで録って。それがここ最近のルーティーンになっています。
岡田 そうですね、表情一つ変わります。やっぱり表情に頼ってるというか、声の大事さが失われていたんだなとこの現場で気づきました。表情だけに頼ってしまっていて、声だけで伝える大切さをすごくこの現場では教えてもらった気がします。
岡田 表現の仕方も全然違いますし、すごく楽しかったです。最初はコミュニケーションも取れない中で始まったのですが、一緒に演じたソニアさんと、お互いの目だけで語り合うという時間があって、少しずつ心が相手に対して開いていきました。そうするとすごくお芝居がやりやすくなったんです。そういうところから信頼関係、お互いの役を尊重しつつ、シーンを成立させていく時間はすごくおもしろかったですし、言語が通じなくても、通じ合ってるものがありました。
岡田 現場はいい緊張感に包まれていました(笑)テストがないので、基本的に現場に入ったらすぐ本番で、そのための本読みでもありました。その時間もすごくおもしろかったです。自分の中でこの作品は大切なものになっていて、現場の思い出をあまり話したくないというのがあったりするんです(笑)やっぱりすごくこの作品が好きなんだなと改めて思いました。自分の記憶を汚したくないというか、それくらい現場の空気感はほかの現場と全然違ったんです。監督とお話した内容とかも恥ずかしくてあまり言えないというか、秘密に…(笑)こんな風に思ったことなかったんですけど(笑)
岡田 広島には行ったんですけど、場所で言うとあまり行けなかったんですよ。西島さんと三浦さんからは「あそこよかったですよ」とお話をしました。
岡田 とても好きなカットがあって、家福さんとバーで話をして、外に出てきて車に乗り込むカットです。あのシーンは高槻の衝動的なところが表れていて好きですね。
岡田 この役に関しては、たぶん今までの中で一番監督とお話をした回数が多かったかと思います。ただ監督と話していく中で、この役に答えがないんです。見る人にゆだねるようで、自分もそういう感覚で毎日撮影させてもらっていた感覚でした。いまだに高槻という役は自分の中でも腑に落ちていないですが、この役を演じることができたことは大きいです。監督にはお伝えしましたが、お芝居が好きになりました。奥深いところまで監督と密にやらせていただいて、この役に関しては見た人に善なのか悪なのかを決めていただきたい役です。
岡田 監督は声にこだわっていました。自分が本読みをしていく中で声に気づかされて、聞こえ方によって、響き方によって自分の受け方がどんどん変わっていくんです。それを、今までおろそかにしていたということに気づきました。濱口組に参加した方は、本読みについて語られていることが多いと思っていましたが、その意味が分かりました。芝居って面白いなというのと、自分の今までのキャリアの中でも、特に役と自分がシンクロしていく感覚がすごく分かりました。だから好きになったんですよね(笑)好きになったというか、好きだったんだなと思いました。
岡田 いろいろな現場で経験することはとても大切だと思うので、10代のころからなるべく一定のところでいるようにするのはやめようというのは頭の中にはありました。10代~20代はどうしても等身大というか、“普通の役どころ”が多くて。去年の緊急事態宣言の時に、自分を見つめ直す時間がありました。今回の『ドライブ・マイ・カー』も西島さんと長い車のシーンでは、自分の中でも“こんな自分がいるんだ”と発見することがありました。そういう現場に自ら行かなきゃいけないなと強く思う時間が増えたと思います。
岡田 基本的に濱口監督は任せてくれました。「こういう高槻でやってみてください」とか、「次は岡田さんが思う高槻でやってみてください」という風にやっていくうちに深まっていって、どのカットを使ったのかは僕自身も分からないんですけど、その度に全然違う高槻像が出てきました。自分の中でも「こんな姿があるのか」とか「こういう思い方もあるのか」とか、いろいろチャレンジさせてもらえた時間でした。限られた時間で撮らなきゃいけなかったりもして、あそこで撮ったあの時間はこれから先も忘れないだろうなと思います。濱口監督がすごいなと思ったのは、あるシーンを撮り終わった後に別のシーンを撮ったんですけど、もう一度前に撮ったシーンを本読みをしたいと言って「昨日よりいいですね」っておっしゃったんですよ。それに対して、今までだったら「もう一回撮るのか…」って思ったりもしたんですけど(笑)監督は冗談でおっしゃっていたんですけど、でも撮れるんだったら撮りたいなっていう、自然といつでも高槻になれた日々でした。
岡田 この役に関してはどのシーンに関しても整合性を持たないようにしようと監督と話をしました。だからいろんなことをチャレンジできて、出来上がりは濱口監督との信頼関係もあって、不安も一切なかったです。
岡田 いろんな映画に出たいなという気持ちは特に強くなったと思います。きっかけはこの作品からだと思いますが、より一層仕事の取り組み方が変わったかもしれないです。具体的にというのはないんですけど、気持ちの持っていき方は変わったかもしれないです。あと今年は『大豆田とわ子と三人の元夫』はすごく楽しくて。あの4人で織りなしているお芝居があの瞬間にしかできないというものがたくさんありました。
岡田 西島さんが作ってくださる空気感が心地よかったです。現場では基本的に西島さんとはお話をしなかったので、最後に西島さんとお話をしました。昔から知っている大先輩で、ずっとお仕事をしてみたかった方でした。西島さんにかけられた言葉で、自分がこの役とこの映画への向き合い方への不安が一気にあふれ出て、こういう言葉をかけられる先輩になりたいなと思いました。
岡田 それは恥ずかしくて言えない(笑)でも、そうやって主演として作品を引っ張ってくださる方の姿やいろいろな姿を見てきたんですけど、やっぱり人柄が出るというか、不安に思う役というのは西島さんも思ってくださっていました。それを直にお芝居を通して見てくださったので、すごく溢れましたね(笑)
岡田 僕はこの映画を見た時に、車に乗りながらゆらゆらと物語を見ている気がして、どうしても西島さんが演じる家福という役に感情移入しました。だから再生していく2人の話なのかなと思っています。西島さんと三浦さんの雪のシーンはすごく泣いてしまいました。自分が出ているという感覚はなく、映画として素晴らしいものを見たという感覚でした。
【写真/編集部、文/古賀美咲】
本作は、商業映画デビュー作『寝ても覚めても』がカンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品、ヴェネチア国際映画祭で銀獅子賞に輝いた黒沢清監督『スパイの妻<劇場版>』では脚本も担当した濱口竜介監督の最新作。妻を失い、喪失感のなかで生きる舞台俳優の家福と、寡黙な専属ドライバーみさき。愛車サーブを通して出会った孤独な2人が、一筋の希望にたどり着くまでを描く心揺さぶる物語。西島秀俊を主演に迎え、三浦透子、岡田将生、霧島れいから実力派俳優陣が集結。
映画『ドライブ・マイ・カー』はか全国で公開中!
監督・脚本:濱口竜介
出演:西島秀俊、三浦透子、霧島れいか/岡田将生
配給:ビターズ・エンド
©2021 『ドライブ・マイ・カー』製作委員会