『サマーゴースト』loundraw監督 インタビュー

INTERVIEW

『サマーゴースト』で原案・監督を務めたloundrawにインタビューを行った。

これまでにイラストレーターなどとして活躍していらっしゃいますが、今回アニメ映画を監督しようと思ったきっかけを教えてください。

監督 きっかけはどちらかと言えば、自分の外側よりも内側にあります。イラストレーターとして仕事をしてきた中で、イラストは一瞬を切り取る表現方法ではありますが、自分の場合はシーンのコンセプトから考えるので前後の時間軸が存在しており、それを形にするならいつかアニメーションをやってみたいという気持ちがありました。それを世に意思表示したのが自主制作のアニメで、巡り巡ってお声がけいただきました。

絵を描くときはいつもストーリーがあるんですか?

監督 そうですね、スケール感は違えど、前後の時間や画面に映っていない場所がどんな景色をしているかも考えて描くので、周りの情報は自分の中にあります。

実際に監督をしてみて気づいたことはありますか?

監督 アニメーションという表現は可能性があるなと思いました。画の連続というところで、人の努力も分かりやすい表現の一つになっています。大事なシーンでは枚数を使うなど、そういうアプローチも説得力に足されるのは珍しい媒体だと思いました。

脚本の乙一さんはどのような経緯で担当することになりましたか?

監督 乙一さんにお願いをするというお話はプロデューサーさんから提案いただきました。乙一さんの小説は以前に読んで印象に残っている作品があって、ぜひご一緒したいというのがありました。実際にお会いして、一緒にお話をしていく中で、いくつか僕から原案を出させていただきました。その中で線香花火をしている間だけ死者に会えるというお話はおもしろくなるんじゃないかなと僕がポロっといったところを乙一さんが汲んでくださって、そこからいくつか案を出していただきました。その中で僕がいいなと思ったのが『サマーゴースト』の原型です。

そこから第一稿をあげていただくのと同時並行で僕がビデオコンテを作っていきました。第一稿があがったら40分のビデオコンテを作るというのを1~2週間でして、セリフを入れて、映像で映えるセリフをアドリブで入れさせていただいたり、カットを足したり。さらにそれを乙一さんにお戻しして、脚本の第二稿を執筆していただいてという流れです。脚本が出来上がる頃にビデオコンテも出来上がるという形になりました。結果として脚本としてのおもしろさと映像としてのおもしろさがすごくうまくまとまったと思います。

脚本ですと何行も説明が必要ですが、絵の場合は1枚で説明しきれてしまったったりもします。このシーンをカットして、代わりにこの心情描写を増やしたいというようなシーンもありました。場所によっては映像重視で、場所によっては脚本重視で作りました。

珍しい作り方ですね。

監督 そうですね…大変でした(苦笑)完成した作品の裏にはボツになったカットが2倍くらいはあります。

キャラクターはどのように生まれましたか?

監督 それぞれが幽霊に会いたい動機があって、問題を抱えているところから生まれてきているキャラクターたちです。乙一さんとお話している中で共通して伝えたかったこととしては、問題は抱えているのですが決して辛さを前面に出さずに、日常生活は普通にしているキャラクターであって欲しいと。辛いから弱弱しいというキャラクターは簡単かもしれないけど、それでは真の共感は呼べないと思ったので、普通に見えて実はいろいろあるというキャラクター造形を意識しました。

キャスティングで重視した点はありますか?

監督 キャスティングは音響監督の木村さんとご一緒させていただきました。どういうキャラクターにするかというお話をさせていただいて、基本的に全員意志があるけれど実は悩んでいるという感じにしたかったので、割とハキハキとしゃべれる人にしたいということで、候補をいただいた中でキャラクターのイメージに合う声にさせていただきました。サンプルボイスもいただきましたが、僕はラジオなどその人が素でしゃべってる声で決めることが多くて、演技というより自然なところで演じて欲しいというところを意識して決めました。

アフレコはご覧になりましたか?

監督 全て立ち会わせていただきました。僕がこうしたいと考えているのを木村さんが汲んでキャストのみなさんに伝えていただきました。

演技指導も行いましたか?

監督 指導はとてもできないです(笑)この映画はセリフのタイミングがシビアで、場所によっては人間のテンポ感ではないところもあるので。全体の流れの中で、ここがピークであってほしいとかの希望はお話をさせていただきました。

アフレコは座って行ったとお聞きしたのですがこれは監督からの提案ですか?

監督 木村さんとは、僕が自然体の演技が好きだと前から話をしていて、それを汲んでくださって、収録時は立ってみたのと座ってみたものをテストで録ってみて「どっちでいく?」というお話をさせていただいて、座って録ることにしました。

映画を作るうえで特に困難だったことはありますか?

監督 自分が目指しているものと完成していくもののズレをどこまで許容するかというのが難しいなと思いました。アニメーションは作る過程で多くの人にどんどんわたっていくので、その中には僕の演出意図を伝えきれていない方もいます。画面を構成するすべての要素に意味を持たせようとしていて、すべての要素がハマって成立する絵を作ることが個人的なベストなのですが、いろいろな人がそれぞれのセクションで参加して、最後にまとめるという形になると合わない時もあるんです。一人でやるのとは全然違うゴールの置き方を変えなければいけないのは大変でした。

もっともこだわったところはどこですか?

監督 カット割とタイミングです。40分の中で4人のキャラクターと背景にあたる部分を描くのですが、それがいかにメッセージとして分かりやすく伝わるものにするかという点で、どうやってカットを切り替えるか、どうやってレイアウトをしていくかということはかなり意識して作りました。テクニカルなカットのつなぎ方もしています。

最後に楽しみにしている方にメッセージをお願いします。

監督 扱っているテーマが、どうして生きてるんだろうとか、重く感じるものかもしれませんが、それに向き合ったお話になっています。後ろ向きな気持ちではなくて、つらいということに向き合うことを含めて前向きに描いた作品です。これを見た後に見えるものとか考え方がちょっとでも変わるきっけかになる映画になっていると思うので、ぜひご覧いただければと思います。

【写真・文/編集部】

STORY
本作は、気鋭のイラストレーターloundraw(ラウンドロー)が監督、安達寛高(乙一)が脚本を務める短編アニメーション作品。透明感・空気感のある色彩と被写界深度を用いた緻密な空間設計を得意とし、小説「君の膵臓をたべたい」「君は月夜に光り輝く」などの装画から、近年は劇場版『名探偵コナン』、劇場アニメ『ジョゼと虎と魚たち』をはじめとするアニメーション作品へのクリエイター参加も行うなど、マルチな活躍をみせるloundrawの初監督映画作品。


TRAILER

DATA
『サマーゴースト』は2021年11月12日(金)より全国で公開!
原案・監督:loundraw
声の出演:小林千晃、島袋美由利、島﨑信長、川栄李奈
配給:エイベックス・ピクチャーズ
©サマーゴースト

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