『リバー、流れないでよ』で原案・脚本を担当した上田誠、物語の鍵を握るキャラクター・ヒサメ役で友情出演した久保史緒里（乃木坂46）にインタビューを行った。
久保 ヨーロッパ企画さんが時間モノの映画第二弾を撮るとニュースが出た時点で、「なんて楽しみなんだ」という気持ちと、少しでも携わることができたらこれほどまでに幸せなことはないと思っていたので、お話をいただいて、またご一緒できるということがとにかくうれしかったです。
上田 久保さんになればいいと祈りを込めて書きました（笑）
上田 ちょっとミステリアスな役ですね。久保さんと最初にご一緒したのは舞台『夜は短し歩けよ乙女』でファンタジーでしたが、それ以来SFやファンタジーが入っていないものはご一緒していないくらいいつも変わった役をお願いしています。今回もSFの要素が入っている役をお願いしたんですけど、そういうのをおもしろがって、生き生きと演じてくださります。（ヨーロッパ企画の）劇団員はおもしろがって取り組んでくれるんですけど、なかなか客演さんをお呼びするときは「普通の劇じゃないしな」と誘うのに苦労するんです。舞台をご一緒したのは大きかったと思います。
上田 素晴らしかったのでまた出ていただきたいなと思っていました。久保さんには毎回役としても、技術的にも割とハードルが高い、普通なら無理ということをお願いしていて、それを嫌な顔をせずにやってくださり（笑）高いクオリティで返してくれるので大信頼の久保さんです。
久保 役を説明するのが難しいです（笑）この作品を見てくださった方にとっては、突如現れる人ではあるので、「ん？」という違和感を持ってほしい部分もあるけれども、逆にすんなりみなさんの中にも入ってもほしいという、どちらの気持ちもあったので異質すぎるのも違うなと思っていました。（他の登場人物の）みなさんがヒサメに対して驚いてもいい登場の仕方をしているんですけど、すんなり貴船の中にいた一員として受け入れてくださっていたので成立できているので、みなさんのおかげです。
上田 貴船の住人たちや、足しげく通う人もいる中で、よそから来たストレンジャーみたいな立ち位置の役です。
上田 先に撮影場所を決めてから脚本を書き始めたので、実際に行って、ここを撮影で使えるという話がついてから書き始めました。場所交渉のほうが先でした。
上田 まず、天候の変化ですね（笑）
上田 でも、それも映画作りのおもしろさで、映画でもドラマでもそうなんですけど、1話から最後まで書ききってからスタートするのもいいんですけど、反応を見ながら作っていくのが好きで。映画も脚本はもちろん先にあるけれど、撮影の中で起こった出来事を取りこんでいくとドキュメンタリーみたいな価値もでるなと思います。今回は、それにしてもありすぎましたが。再撮影をしたんですけど、そもそも雪が降っているシーンと降っていないシーンがあると想定していなかったので修正しましたし、登場人物も再集合したときに来れる人と来れない人がいたりして。久保さんも忙しい合間に来ていただきました。全体として、天候とかいろいろな自然の変化も取り込みながら結べていると思います。
久保 大寒波を挟んでの撮影になりました。
上田 本当は1月中に終わる予定で最初に登場するシーンを撮って、ラストシーンを撮れば終わりという感覚でいて、京都まで来てくださったのに雪で山に登れずに再撮影になりました。
上田 （ヨーロッパ企画オリジナル映画）第1作の『ドロステのはてで僕ら』で海外の人にも受け入れてもらえることが分かって、時間モノは海を越えるんだなと思いました。僕らは京都で劇団を持っているので京都らしい場所で作って届ける方がいいとより思いました。貴船の画は京都でないと撮れない場所ですから、それが大きいですね。あとは高低差です。地形の箱庭感や高低差が好きなんです。高いところ登ったり下りたりするのが好きで、貴船は高低差が撮影できる場所なので。
久保 みなさん階段を上がり下がりしていました。私はそんなになかったですけど、その裏側を知っている分、私は絶対にミスできないと思いました。
上田 撮影の性質上、藤谷さんから始まる2分間の長回しなので、みんなが1分くらい演じた後に久保さんが登場なので。スタート地点が遠い人ほど後での登場になります。
久保 緊張しましたね。いつ来るんだろうと。
上田 （撮影が）始まってるのが分からなかったですよね？
久保 分からなかったです。だから会話が聞こえてきて、撮影しているという感じより、ヒサメとして待っていて、「あ、聞こえてきた！」という反応ができました。
上田 僕は久保さんの近くにいたので、トランシーバーで「始まります！」だけ聞こえて、（カメラが来るまで）1分くらい時間があって。
上田 でも緊張しつつも楽しんでやってくださってましたか？
久保 めちゃめちゃ楽しかったですね。あとは、同じ時間を繰り返すということもあって、撮影も朝早くて。
上田 かつてないくらい早いですね（笑）
久保 まだ暗い時間にリハーサルをして、日が昇って撮影をしました。冬の貴船は本当に寒かったけど、それすらも楽しかったです。全部が楽しかったです。
上田 感無量です。雰囲気もいいですよね。
上田 今回は貴船出身の藤谷理子が主演で、僕の中で舞台『夜は短し歩けよ乙女』の時に、稽古場も含めて、久保さんとの関係性や2人のやり取りが微笑ましくて尊くていいなと思っていました。横で会話を聞きながら、このペアで何か作りたいなと思っていて、それで『サマータイムマシン・ハズ・ゴーン』でも2人でフォークシンガーのデュオの役をやっていただいて、それもめちゃくちゃよかったんです。今回も2人の役は対極にあるけれど響き合っている役になっています。
久保 ヒサメとしては最後のカットが震えました。ヒサメ目線で見た時に、グッときちゃいました。
上田 時間が回って、円環を結ぶような終わり方になっています。
久保 とにかく楽しかったです。ヨーロッパ企画さんとはご一緒させていただいたことがあったので、待っている間も落ち着いて気張らずにみなさんとお話しできました。一緒にみかんを食べたり、そういう時間も楽しく過ごしていました。特に藤谷さんは、舞台の時は稽古中も本番中もいつもおにぎりを私の分も握ってくださって、本当にお姉ちゃんみたいな存在でした。またこうしてご一緒できて、今回の撮影中もずっとお話をしていました。
久保 舞台や映画を見させていただいて、今回の映画もそうですが、会話の一節一節に微笑ましいなと思う部分があります。心を預けて穏やかに見ていたはずが、人生の教訓のような忘れかけていた大事なことをパッと教えられる瞬間がいつもあって、それがとても好きです。つながりや縁を大切にした作品が好きで、ある一点がきっかけで全部が重なる瞬間があって、その気持ちよさは唯一無二だなといつも思って楽しみにしています。私にとっては忘れかけていたテーマみたいなものを受ける瞬間があります。
上田 このセリフでこうしようと考えるわけではなく、もちろん全行をパンチラインにするつもりの意気込みでやっているんですけど（笑）僕が監督ではないので、渾身の思いで書いたセリフが、「意外とロングで撮るんだ」ということもあって、それは脚本家として楽しみでもあります。何気なく書いたセリフが現場ですごくいい雰囲気になって、このためにこの映画があったのかもとか、見ている人の気持ちとたまたまリンクすることもあるから、そう感じていただけるのはご縁ですね。
上田 一生出て欲しいです。
久保 そんなにうれしいことないですよ（笑）
上田 久保さんとちょっとだけ似ているかもと勝手に思っていて、僕はセリフが凝り性で、展開もゆるく見えるんですけど、密度を上げて作りたい思いもあって。久保さんも演技を作るときに、できるだけすべてを作りこみたいと言っていて、それはすごく素敵なことだと思いました。表現する人として、俳優もやりながらアイドルも、といろいろな顔を持たれている。その中で密度感にこだわりを持つのは、僕はすごく好ましくて。今後もご一緒できたら嬉しいなと思っています。
［乃木坂46 久保史緒里］
メイク…宇藤梨沙
スタイリスト…伊藤舞子
ワンピース￥24,200（ánuans）､靴￥35,200（ピッピシック）､”ココシュニック”のイヤリング￥23,100･”ココシュニック オンキッチュ”のリング￥8,250（ココシュニック）､ブレスレット￥39,600（エナソルーナ）
【写真・文／編集部】
『夜は短し歩けよ乙女』『四畳半タイムマシンブルース』の脚本や、『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』日本語吹替版脚本を手掛ける上田誠率いる劇団ヨーロッパ企画。本作『リバー、流れないでよ』は、世界27か国53の映画祭で上映＆23もの賞を受賞した第1弾『ドロステのはてで僕ら』に続き、上田誠が原案・脚本を、映像ディレクターの山口淳太が監督を務める、ヨーロッパ企画制作によるオリジナル⻑編映画第2弾。
『リバー、流れないでよ』は2023年6月23日（金）より全国で順次公開
原案・脚本：上田誠
監督・編集：山口淳太
出演：藤谷理子
永野宗典、角田貴志、酒井善史、諏訪雅、石田剛太、中川晴樹、土佐和成
鳥越裕貴、早織、久保史緒里（乃木坂46）（友情出演）、本上まなみ、近藤芳正
