『山女』山田杏奈 インタビュー

INTERVIEW

『山女』で凛役を演じた主演・山田杏奈にインタビューを行った。

最初に脚本を読んだ時の印象を教えてください。

山田 「日本昔ばなし」みたいだなというのが第一印象です。今だったら言葉で事象が解明されていることでも当時は分からないことがあって。何を頼りに生きていたのかとか、山男という存在を扱っている題材がおもしろいと思いました。

あまり演じることがない時代の人物だと思いますが、役作りはどのように行いましたか?

山田 難しかったです。方言の練習と、家に藁を持ち帰ってわらじを編む練習をしました。藁だらけになるので、終わった後に掃除機をかけて、また次の日にやってということをしていました。凛自身がどのように生きてきたのかを考えることが大きな時間を占めていました。今だったら当たり前だと思うことが、そもそも存在しないということが本当に多いと思いました。自分だったら逃げだしたくなる環境だけど、逃げるにせよ、何を使って逃げるんだろう、逃げてどこに行くんだろうとか、そういうことを考えていくと彼女自身の環境が、私の考えが及ばないくらいの想像を絶する気持ちだったんだろうなと思いました。

「一人分の人生を生ききったようだった」と感じたそうですね。

山田 最初は“逃げていいよ”と言ってしまいたくなるような凛が、山に入ってからは自分の幸せのために生きていくという彼女自身の変化を映画の中で描けたことが、振り返ってみても大きい経験だったと思います。あそこまで働いていたら日焼けもするし手も汚れていくので、爪をきれいにし過ぎないとか、リップクリームをあまり塗らないようにするとか、髪の毛も結構バサバサにしていました。私自身の理解が追い付かないところがあるからこそ、衣装もそうですが、見た目的なところに助けていただきました。

凛との共通点や共感できるところはありますか?

山田 完全にへこたれないところです(笑)山に向かって歩くシーンでは、凛が怒っている顔をしているのが印象的だったと福永監督から言われたんですけど、私の中から出たもので、こんな状況になったらめちゃめちゃイライラするんだろうなと思って(笑)完全にかわいそうに見えないところがいいと監督が言ってくださいました。私はすごく負けず嫌いなんですけど、どこかでやってやる精神みたいなのがあって、私が演じたからかもしれませんが自分と通ずるところだと思います。

森山さんが演じる山男が印象的ですが、森山さんとの共演はいかがでしたか?

山田 森山さんが山にいるのを見た瞬間から、山男ってこういうことかと思ってしまうような説得力がありました。あの森山さんに山の中で出会ったら納得するしかないなと思い、そこにすごく助けてもらいました。

撮影で山男としての森山さんを目の前にして、緊張するようなことはありましたか?

山田 特殊メイクもしていますし、山男の姿を見る時間が多かったので、普段の森山さんを見た時に、「うわ~」と思ってしまって(笑)普段のほうが逆に緊張します。山男は喋らないし、凛も山男といるときは話しかけるという感じでもないし、お互い雰囲気を感じ取り合っていました。目を見つめている時間は多かったのですが、動物を見ているような感覚だったので、普段の森山さんになると違う人と話しているみたいな感じがしました。

山男といるときの凛の表情が少し穏やかに感じました。

山田 自然とそうなったと思います。ゆっくりと愛情を感じる時間があるというか。自分の髪の毛も山に入って初めてとかすし、自分にかける愛情とか時間とか、誰かに対する愛情をかける時間が村にいるときはなかったと思うので、そういう自分を知ることができて、すごく幸せだろうなと思いました。

山でのシーンが多いですが、山の魅力で発見したことはありますか?

山田 『樹海村』(2021)という映画に出演した時にコケがきれいということに気づいてしまって、『山女』の時もずっとコケを見ていました。倒れている木に生えているコケにも水滴がついていて、光がさしていたりするときれいだなと思って見ていました。

大変な撮影も多かったと思いますが、特に印象に残っていることはありますか?

山田 山にいて村に戻されそうになるシーンは、気持ち的にも一番苦しいなと思いましたし、無我夢中で引っ張り合いをしていたので、腕にあざができていました。それだけ気持ち的に集中していたシーンだと思います。

本作は昨年の東京国際映画祭でコンペティション部門に出品されましたが、山田さんはレッドカーペットにも参加しましたね。

山田 レッドカーペットを歩くことって本当にあるんだと思いました。上映では質問も答えも英語通訳を同時にしていて、グローバルな感じがして、そういう緊張感がありました。

なかなか一歩を踏み出せないながらも自らの人生を選ぶという役柄ですが、山田さん自身が踏み出したいことや、やってみたいことはありますか?

山田 いっぱいあるんですけど、運動です。何かしらの運動をやらなきゃというのもあるんですけど、一度ジムを契約して短期間で無理だってなっちゃったことがあって(笑)また二の舞になるんじゃないかと思って踏み出せていないです。

去年はボクシングのドラマに出演されていましたね。

山田 ボクシングは楽しかったからボクシングならできるかもしれないってちょっと思っています。やっていて楽しくて、気持ちの面でも自分の強さにつながっている感がありました。自信がつく感じが楽しいです。あとは、やるとしたら先生がいるものです。ボクシングとかピラティスとか、誰かが見ていてくれないと絶対に出来ないから、先生がいるジムに行くか悩んでいます。

本作を楽しみにしている方へのメッセージをお願いします。

山田 2年弱前に1か月半、山形で生活をしながら撮った映画で、自分にとっても大切な作品です。閉鎖的な題材だし、コロナ禍でみんなが閉鎖的な環境で、いつ終わるんだろうとまだまだ先が見えない中で撮りました。今もまだ終わってはいませんが、今この作品を見てみなさんにどう思っていただけるかというのが楽しみです。

ヘアメイク:田中陽子
スタイリスト:中井彩乃

【写真・文/編集部】

STORY
大飢饉に襲われた18世紀末の東北の寒村。先代の罪を負った家の娘・凛は、人々から蔑まされながらも逞しく生きている。ある日、飢えに耐えかねた父の伊兵衛が盗みを働いてしまう。父の罪を被った凛は、自ら村を去り、禁じられた山奥へと足を踏み入れる。そこで、伝説の存在として恐れられる“山男”と出会い、凛の運命は大きく動き出す―。自然を前にしてあまりに無力な人間の脆さ、村社会の持つ閉鎖性と同調圧力、身分や性別における差別、信仰の敬虔さと危うさを浮き彫りにしながら、一人の女性が自らの意思で人生を選び取るまでを描いたオリジナルストーリー。監督・脚本は福永壮志。


TRAILER

DATA
『山女』は2023年6月30日(金)よりユーロスペース、シネスイッチ銀座ほか全国で順次公開
監督:福永壮志
出演:山田杏奈、森山未來、二ノ宮隆太郎、三浦透子、山中崇、川瀬陽太、赤堀雅秋、白川和子、品川徹、でんでん、永瀬正敏
配給:アニモプロデュース
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