『バカ塗りの娘』堀田真由 インタビュー 弘前での撮影は「街の温かさを感じました」

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INTERVIEW

『バカ塗りの娘』で青木美也子役を演じた堀田真由にインタビューを行った。

堀田さんが演じた美也子について、どのようなキャラクターかを教えてください。

堀田 どちらかというと内気で人見知りで、自己肯定感も高くなくて、たぶんきっと彼女も思っていることがあると思うんですけど、言葉にしてうまく伝えられない不器用な女の子だと思います。漆で家族がバラバラになってしまったけど、また彼女が漆を塗ることで一つになっていくという点では、やりたいという思いや信念が本当は強い女の子で、どんどん彼女が変わっていくのも見どころだと思います。

オファーを受けていかがでしたか?

堀田 私は出身が滋賀県なんですけど、お祭りや歴史とか伝統に関わることが多かった地域でした。小学校や中学校も授業の一環でお琴の時間やお茶、縦笛とか、そういった歴史や伝統に触れる時間があったので、今回津軽塗という伝統工芸をテーマにした作品に、携わらせていただくのはうれしさもあり、遠い感じがしなかったです。

今回の作品に臨むにあたって、準備したことなどはありますか?

堀田 この役を演じるにあたって、髪を25㎝切りました。デビューしてから、私はクラシックバレエをやっていたので常にお団子ができる長さにしていたので、髪が短く、肩より上にあるということがなかったんです。だけど、職人でロングの方があまりいらっしゃらず、作業をするのに邪魔にならない長さということで、衣装合わせの時に「髪を切れますか?」と監督から言っていただいて。今回全編を弘前で撮影させていただいたので、役作りを考えるというより、髪を切って弘前で生活をするだけで、その暮らしの中に自分がいるということがとても大きかったです。撮休の日は自転車で弘前を散歩していましたし、いかに弘前の生活や、美也子に近づけるかを意識して撮影期間を過ごしていました。

撮休の日にはどういったところに行ったんですか?

堀田 撮休の日は自転車に乗って、弘前のショッピングモールに行ってマッサージを受けました(笑)あとその時にスープカレーにハマっていたので、そこでスープカレーを食べたりしました。撮影の中で、いがメンチとかご飯は名物をいただけたので。

撮影はどれくらいの期間でしたか?

堀田 2週間ちょっとくらいでした。途中で東京のお仕事があったんですけど、家に帰るとちょっと役と離れてしまうかも…?と思ったので、直接スタジオに行って、そのまま弘前に帰るという生活をさせてもらいました。

撮影現場では弘前の空気を感じることはありましたか?

堀田 撮影現場に地域の方が来てくださって、「朝とれたリンゴを持ってきました」とか「うちのトマトです」とか、スタッフさんではない方としゃべっていたりして(笑)おすそ分けをしてくださる街の温かさを感じました。共演させていただいた宮田(俊哉)さんは、お弁当を食べずにリンゴを食べていらっしゃったくらい、それほどおいしかったです。その地域で撮影をさせていただく空気感は、東京のスタジオで撮影しているのとは違うと感じました。作業をしている工場は、代々使われている場所で撮影をさせていただいて、狭い空間で、お父さんと同じ方向を向いて、一つの作品・商品ができるまで何度も塗ってを繰り返すという忍耐力というか精神力も、職人さんに対するリスペクトを感じました。

美也子との共通点はありましたか?

堀田 あそこまで自己肯定感は低くはないですが(笑)自信が持てないのはもしかしたら近い部分もあります。大人になると何かを始めることはどんどん怖くなってきて、初めの一歩を踏み出す怖さは彼女に近いと思います。言葉の力は強いので、自分が発言することで周りも巻き込んでしまうなとか、何かを変えてしまうなと、そういった面では私もお仕事柄なのかもしれないですけど、すごく言葉を考えて喋ってしまうタイプで、言葉を選んでいて変な間が起きたり、伝えたいけど変に伝わるから言い方を変えないとなとか思っていたりすると、“もういいか”と思っちゃって言わなかったり。全く似ていないわけではないと思いました。

現場の空気はいかがでしたか?

堀田 お芝居としての大先輩がたくさんいらっしゃったので、そこで主演という立ち位置で立たせてもらうということに対して、もちろん責任感はどこかあると思うんですけど、家族の話なので、みなさんと家族としての時間を大切にできるかという撮影期間でした。撮影中に待っているお部屋で和室があったんですけど、みんなイスに座らず直接床に座っていて。坂東(龍汰)くんが常にムードメーカーな存在だったので、彼を中心にみんなで喋るという感じでした。和気あいあいとしていました。

小林さん演じる父とはセリフがない場面も多かったですが、会話をしている空気を感じました。

堀田 お互いがそこの場所に、役に溶け込んでという感じでした。「こういうふうにやりたいですね」と話すと意識してしまうので、それをあえてしないことで自然体でいられました。話したいときは話すし、今は違うと思ったら話さない。カメラが回っていない時もそうで、工場の連なっているところが職人さんのお家だったので、リビングで薫さんと待っていて、変に気を遣わず、しゃべりたいときにしゃべって眠くなったら目をつぶって(笑)本当にお父さんと娘という距離感がそこからできていました。

工房でのシーンはどのように撮影をしたんですか?

堀田 工程が多かったので一つ一つ止めていただいて、「次は塗るところです」、「次は筆を洗います」と職人さんに教えていただきながらやりました。もちろん把握はしたうえでしたが、私が演じた美也子はまだ職人ではなく見習いのような立ち位置なので、お父さんの見よう見まねで、理解はしつつも全部を完璧に練習はせずにリアルを追求していました。台本を見た時に全くセリフがなく工程がト書きで書かれているだけのページが続くので「映画で全然喋らないシーンってどうなるんだろう」と思っていたんですけど、映像で見た時に言葉はいらないなと思いました。実際に工程の中で生まれるあの音がすごく美しいし、心地が良くて、耳だけでも幸せでした。静かだけどそこに力強さとやさしさもある映画だなと思いました。

もともと伝統工芸品には興味がありましたか?

堀田 私自身は持っていなかったんですけど、おばあちゃんの家に行くとお正月のお重に漆器が出てきたりしていたので、もちろん見たことはありました。もともとお皿や食器を集めるのが好きで、この作品に出演してからは、お店に行ってお箸が漆だったりすると、これやったなとか見てしまいます。実際に撮影が終わってから、弘前で購入したお箸を使っていて、それが漆なんですけど、どうやって作られたかを知っているだけで食事もおいしくなります。漆塗りは同じものができないので、いま手元にあるものは世界に一つだけなんだなと思うと、食卓も楽しくなりますし、見方はすごく変わりました。好きなお店があって、毎回いろいろな作家さんの商品がポップアップみたいな感じで入れ替わるんですけど、それに行くのが楽しくて、集めたりしています。

津軽塗の工程を職人さんから教わったということですが、実際にやってみて改めて感じたことはありましたか?

堀田 筆を洗うときに油を使ったり、卵を使ったり、筆を洗ったりするのも決まったものがあるのかなと思っていたんですけど、漆は江戸時代からあるものなので身近にあるものを使って、それが伝統工芸というものにつながってきたんだなと、歴史を感じました。

またやってみたいですか?

堀田 楽しかったですけど、工程が多すぎて覚えられなかったです(笑)ピアノを塗るシーンもあったので、言われたとおりにやるみたいな感じでもありましたし、方言もあったので。弘前弁が難しくて。もともと自分が関西弁なので、関西弁と標準語は分かるんですけど、お友達にも東北の方がいなくて言葉に親しみがなくて難しかったです。薫さんもずっと大変そうでした。

お上手でしたよね。

堀田 指導の先生が一人一人ついてくださっていました。私は23歳の役なので同年代の方が指導についてくださって。お父さんには40~50代の方がついてくださって。イントネーションはあるけど、世代によっても変わってきているんですよね。それを教えていただいていたんですけど。テストが終わると先生がすぐに飛んでくるんですよ(笑)だから薫さんと「来ないで!」と…プレッシャーでした(笑)

堀田さんが演じる美也子は映画の中で一歩踏み出しますが、堀田さんが今一歩踏み出したいことはありますか?

堀田 アクティブな趣味を見つけたいです。運動とかは好きなんですけど、なかなか休みがないと体を休めるほうになってしまって、休みにどこか行こうとならないので。車の免許も持っていますけど、全然運転していないので、運転をして友達とグランピングに行きたいねとずっと3年くらい言っています。友達とアクティブにグランピングに行きたいです。

美也子は周囲の反対を押し切って行動しますが、堀田さんはそういった経験はありますか?

堀田 うちの両親からは今までに「NO」と言われたことがないんです。ずっと全部を肯定してくれた両親で、東京に来ることや、芸能のお仕事についても全てにおいて「YES」という答えをくれて。ただ、否定はしない家族ですが、ちゃんと責任感を持ってやりなさいとか、東京に行くなら帰ってこれないくらい忙しくなるくらい頑張っていなさいと言ってくれます。否定されたことがないので、すごくありがたいです。

本作は若い方にもぜひ観てもらいたいと思う映画でした。若い方に観てもらいたいところはありますか?

堀田 津軽塗と聞くとお重とかお椀とか堅いイメージがあると思うのですが、私が弘前でお箸を買ったお店では、洋と組み合わせたものだったり、スプーンの持つところが漆になっていたり、若い人に向けたものが増えてきているので、津軽塗もまずは知ってもらうきっかけとして商品を使ってもらって、そして伝統工芸という継承されるものにみんなが興味を持ってくれたらいいなと思います。

【写真・文/編集部】

STORY
本作では青森の津軽塗のひとつひとつの工程を丁寧に映し出し、津軽塗職人を目指す娘・美也子と寡黙な父・清史郎が、漆や家族と真摯に向き合う姿を描く。主人公・美也子役に堀田真由。将来への不安やほのかな恋心に心揺れる等身大の女性をたおやかに演じる。津軽塗職人の父・清史郎には、日本映画界には欠かせない俳優、小林薫。二人は実際に地元の職人から津軽塗の技法を教わり撮影に挑んだ。監督は、初長編作『くじらのまち』でベルリン国際映画祭、釜山国際映画祭などの映画祭で高い評価を得たのち、西加奈子の小説『まく子』の映画化も手掛けた鶴岡慧子。四季折々の風景や、土地に根付く食材と料理、人々の「魅力」を織り交ぜながら、つらい時、楽しい時を塗り重ねるように日々を生きる父娘が、津軽塗を通して家族の絆を繋いでいく。


TRAILER

DATA
『バカ塗りの娘』は2023年8月25日(金)より青森県で先行公開、9月1日(金)より全国で公開
監督:鶴岡慧子
出演:堀田真由/坂東龍汰、宮田俊哉、片岡礼子、酒向芳、松金よね子、篠井英介、鈴木正幸、ジョナゴールド、王林/木野花、坂本長利/小林薫
配給:ハピネットファントム・スタジオ
©2023「バカ塗りの娘」製作委員会

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