『死が美しいなんて誰が言った』中島良監督、中村ゆりか、真山りか インタビュー

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INTERVIEW

『死が美しいなんて誰が言った』の中島良監督、医師のリカ役の声を演じた中村ゆりか、詩人・レイの妹ユウナ役の声を演じた私立恵比寿中学メンバーの真山りかにインタビューを行った。

中島監督は以前からゾンビが好き、構想があったと伺いました。

中島監督 構想10年です。「ゾンビをやろう」と言ってから10年以上が経過して。長かったです。その時はゾンビ化した世界を原付で男女が旅するというラブストーリーでした。でも、それはいずれやりたいと思っています。

お二人は初めにこのお話を聞いたときにどのように感じましたか?

中村 アニメーションに詳しいわけではないので、こういう技術があるんだという感じでした。好奇心とかが先に芽生えました。でも、何に対してもきっと気になるものは興味から湧いていくので、これがお客さんに届くように似たような興味を持って見てくださるんじゃないかと思いました。
真山 私はもともとアニメが好きなので、映画一本作るのにものすごい時間をかけて作らなければいけないだろうなという印象でした。逆に今の技術があるからこそ制作自体は早くスムーズに進行するし、録ってから動きを変えたり、表情を変えたりすることができるのはものすごく魅力的だと思いました。これが進んでいったらもっと自分が好きな、理想郷たちがいっぱい生み出されるんだろうなと、アニメファンとしてこの作品が大きな一歩になったらうれしいなと思いました。

本作では、生成AI技術を使用することで少人数での制作を実現したということですが、具体的にはどういった点が異なりますか?

中島監督 アニメーション映画では、アニメーターさんやCGを作る人だったり、さまざまな部署があって100人単位で何年かで作ると思います。僕は実写の監督でアニメーションを作るのは初めてだったので、実写の俳優たちに対してカメラを向けて作品を作るようなやり方でアニメを作るというトライをしました。最終的にはアニメと実写が融合した表現をしたいんですけど、その第一歩としてアニメを実写のスタッフたちで作ってみようと思いました。

この作品では、絵コンテもなくて、モーションキャプチャー技術で演劇のようにお芝居をしていただきました。俳優が生のお芝居をしてそれをキャラクターに当てます。カメラアングルはiPadを使って、カメラマンがVRの中でアングルを作って、照明も照明部の人がライトをVRの中で置いていきます。場所も実際にある場所をスキャンしてVRの中に入れてロケーションとして使用しています。ロケハンで行った写真をもとに作ったりするので、限りなく実写のスタイルでアニメを作りました。制作期間が短く、トライの仕方がこれまでとは違います。

キャラクターはどのように作り上げましたか?

中島監督 アニメータースタッフで役者をやっている子が顔を動かして作りましたが、お二人(中村、真山)の演技をアフレコで聞いてから変更していきました。間を取ってセリフを言ったほうがいい、こういうテンションがいいといった提案を後から取り入れて柔軟に変更できるのがいいところです。その分締め切りが迫って大変でした(笑)

お二人は今回声優として参加されていますが、いかがでしたか?

中村 今回初めてのアニメのアフレコでしたが、アニメーションを見ながらキャラクターに合わせて声を合わせていくということが挑戦的でしたけど楽しかったです。

どういったところが楽しかったですか?

中村 もともとやってみたかったお仕事で、実際にキャラクターが動いているのに声を合わせるお仕事に夢があったんです。今回お話をいただいて、真っ先に“やりたい”という感情が動いて。テーマもゾンビということで、内容も深い話が刻まれていて、やりながらも脚本を読みながらもいろいろと芽生えてくる、そこが素敵だと思いました。

真山さんはもともとアニメがお好きということですね。

真山 アニメ好きが高じて何度かグループ(私立恵比寿中学)でアニメの主題歌を担当させていただいたときに、ゲスト声優としてのアフレコ経験はあったんですけど、今回はモーションキャプチャーを使っていらっしゃってアフレコのやり方がちょっと違いました。アニメーションだと画にキューが出るのでセリフのタイミングがあるんですけど、今回はモーションアクターの方が話されているセリフを聞きながらタイミングを合わせて声を当てていくやり方だったので、台本とは別の場所に句読点があったり、より実写的な感じの映像とともに、キャラクターが生きているなと感じていて。そこが一番難しい部分もありましたし、楽しい部分もありました。
中島監督 モーションアクターもアドリブを入れてセリフを言っていますね。演劇の人なので、セッションみたいな感じです。

合わせていくのが難しそうですね。

中島監督 合わせてもらいつつ提案もあって、よりよかったです。
中村 お話されているのを聞いているとここに合わせなきゃいけないのかなというのがあったと思うんですけど、実際にやりながら監督が「ここは無視して大丈夫」とか、自分たちの演技をさせてもらえるのが楽しかったです。

出来上がった映像を見て、どのように感じましたか?

中村 きれいで見やすかったのと、生きている感じで、生々しく感じました。それがゾンビの表現でも活用されていて、何とも言えないホラー感や怖さが伝わりました。
真山 人の手で描いているものとは違ったよさがあるなと感じました。技術の進歩ってすごいと思いましたし、アクターの方の息づかいだったり、人間だからこその動きのよさがあると思いました。モーションキャプチャーだからこそ関節が分かるし、筋肉の動きも想像がしやすくて、見ていて迫力がありました。

今後もこういった作品を作っていく構想はありますか?

中島監督 今回はアニメという表現ですが、来年は実写をそのまますぐアニメスタイルに変えるというのをやってみようと思っています。今回は3Dのキャラクターですが、イラストレーターさんや漫画家さんに描いてもらった画風をAIに学ばせて、実際のキャストをその人の絵柄にして動画作品を作るという方法です。最初はMVとかを作ろうと思って。今までアニメを作れなかった実写の人たちが、自分たちが学んできたやり方で作れるようになったのがポイントで、クリエイターにとっては選択肢が広がりました。ほかのクリエイターたちともコラボをしたいですし、いろいろな人が直感的にクリエイターとして参加できる、新しい才能や物語が生まれてくると思うので、その礎になりたいです。今まではお金がない、才能がないとできない尽くしでしたが、できるということを技術が助けてくれて、自分にとっても救いになりました。もちろん自分でも作品を作りますよ。

中村さんはアフレコが初めてだったということですが、準備したことはありますか?

中村 まずは本を読んでキャラクターの理解を深めることが先でした。声の出し方もそうですが、最初にいただいたモーションキャプチャーの方の声もあって、割とはきはきと高めの声だったんですけど、最初にそれを聞くとキャラクターがそう見えるようになっちゃうんです。それをテンションのトーンとか、抑揚のつけ方は監督と相談しながらやっていきました。ある程度、キャラクターに合ったものが見つかったら、あとは感情の赴くままにという感じでした。普段、お芝居をしている時とあまり変わらないんですけど、キャラクターの感情が揺れ動く物語なので、お芝居をしながら作り上げたという意識が強かったです。

真山さんは準備したことはありますか?

真山 実年齢よりも10歳以上、年下のキャラクターでしたが、幸いなことに私のそばにはグループに10代がいるので、喋り方だったり、息づかいだったり、発音の仕方をいっぱい見ていました。映像が人間的なので、そこは意識しました。
中島監督 真山さんは2分くらい一人でしゃべっているシーンもありますね。
真山 すごく難しかったです。レコーディングみたいな気持ちでした。あとはゾンビという日常では遭遇できないものなので、自分がゾンビになってしまったらという妄想はいっぱいしました。自分だったらこうだと、見えない部分も妄想して、妄想力が高まりました。夢にいっぱい出てきました(笑)
中村 あまりホラーとか観られないとおっしゃっていて。余計に刷り込まれたのかも。
真山 怖かったです。でも慣れるものなんだなと思いました(笑)

中村さんは昨年、ゾンビパンデミックを舞台にしたドラマ『生き残った6人によると』に出演されていましたね。

中村 6人の男女によるシェアハウスで生き抜くという話で、死が目の前にある恐怖と戦っている人間ドラマですがポップではあるので、今作のほうが真剣な戦いという感じです。今回の作品だと、もし自分がこの状況下に置かれたら私は生き抜きたいけれど、ユウナちゃんみたいに大事な人に会いたいなという欲が先に出ちゃったりもしました。でもリカは知っているから、可能性が見いだせないことは排除していかないと自分が巻き込まれてしまう。俯瞰して見ている立ち位置です。リアリティが強いストーリーなので、アニメーションではあるんですけど、実写の映画を見ている感覚にもさせられると思いました。

監督はアフレコで印象に残っていることはありますか?

中島監督 アフレコ自体は3時間くらいだと思いますが、「がんばります!」と入って、終わったら「え?」と思うくらい皆さん疲れ切っていて。心からの叫びがあるんですけど、それが大変なんです。ずっと唸っていて、かつゾンビになりながらもセリフがあって。命を削って、力を絞り出してやってくれたんだなと思いました。それが印象に残っています。僕は楽しくやっていたんですけど、すごい消耗させてしまいました。ただ、アフレコ自体はスムーズにいったと思います。それはお二人がうまいのもあって、テストがあるんですけどそこでバチッときめてくるんです。
中村 この時間の中でギュッと精神力を費やすからそれくらい向き合わないといいものができないと分かっているから疲れちゃうのかな(笑)けどもっとやりたいと思いました。終わり際は名残惜しかったりして、「終わっちゃったんだ」と物足りなさがありました。もっとやりたいと思ってしまいました。別の企画で(笑)

真山さんはアフレコを終えていかがでしたか?

真山 ゾンビになると自然にお腹が空いてくるんです。だからアフレコはずっとお腹を鳴らさないという戦いがありました(笑)喋った疲れもあったと思いますし、脳が疲れているのもあったと思うんですけど、一番はお腹を鳴らさないためにがんばりました。妄想をいっぱいしたのがよかったんだと思います。

本作のように周りがゾンビだらけで絶望的な状況になったらどうしますか?

中村 私はどうしても生きていたいのと、ゾンビに噛まれて死ぬのはちょっと嫌だなというのはありますね。一番頭に思い浮かぶのは家族が生きているかどうか、友達は無事なのかが最初にくる気がします。
真山 私は早々にゾンビになりたいですね(笑)ユウナちゃんに近い部分があるかもしれないです。両親に会いたいというのもあったと思いますが、早く楽になりたかったのかなと思っていて。
中村 噛まれるなら家族に噛まれたいかも。
真山 私は知らない人のほうがいいかもしれない。変わってしまった家族を見たくない、美しいものは美しいままで閉じ込めておきたい。
中島監督 僕はコロナの頃に引きこもっていたのでその時のことを思い出すと、生きている人に会いたくてその人を探そうとすると思います。この作品のリカはそういうことをしようといている気がします。それが生きる理由になります。それまでは引きこもって、自分を守っていますね(笑)

【写真・文/編集部】

STORY
ゾンビウイルスが全国を覆いつくし、人々がゾンビ化してしまった日本。政府は治療可能な感染者のみ病院に収容し、ゾンビ化した人間は巨大な壁の中に閉じ込めた。治療を受けている詩人のレイ(長江崚行)、妹のユウナ(真山りか)。2人を看る医師のリカ(中村ゆりか)。3人は懸命に生きていた。そんなある日、壁を越えてゾンビたちが襲来。病院は恐怖と混乱に包まれる。リカは密航業者のタキシバの協力を得て「治療を受けるために国外へ逃げよう」とレイを促すが「家に帰って死ぬ」と譲らないレイ。2人は隔離された土地に向かうが、そこは異形の者たちの地獄と化していた。果たして、人が絶望の淵に立つとき見えてくるものとは!?

PROFILE
中島良
映画監督。2009年『RISE UP』にて商業映画デビュー。主な監督作品は『スイッチを押すとき』(2011)、『なつやすみの巨匠』(2015)、『兄友』(2018)、『アパレル・デザイナー』(2020)など。

中村ゆりか
2012年俳優デビュー。近年作品では、「部長と社畜の恋はもどかしい」主演(TX・2022)「チェイサーゲームW」(W主演)2024年1月放送。2022年11月には、念願の歌手デビュー。現在アルバム「Moonlight」発売中。

真山りか
10人組アイドルグループ、私立恵比寿中学のメンバー。出席番号は3番。
アニメが好きで、ニコニコチャンネル「真山りかのアニメ300%」を開設している。
2023年6月一般社団法人アニメツーリズム協会公認の「アニメ聖地88大使」に就任した。

TRAILER

DATA
『死が美しいなんて誰が言った』は2023年12月22日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷、池袋HUMAXシネマズほか全国で順次公開
出演:長江崚行、中村ゆりか、真山りか(私立恵比寿中学)、山田ジェームス武
監督:中島良
脚本:都築隆広、本庄麗子
キャラクターデザイン:六角桂、横井三歩
主題歌:ももんぬ「記憶」
音楽:清川進也
モーションアクター:劇団一の会
配給:トリプルアップ
宣伝:MUSA
製作:ズーパーズース
©ズーパーズース

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