映画『ハリー・ポッター』『ファンタスティック・ビースト』シリーズで小道具制作を統括するピエール・ボハナが来日、「ワーナー ブラザース スタジオツアー東京 - メイキング・オブ・ハリー・ポッター」にてインタビューを行った。
ボハナは、テレビコマーシャルや写真撮影に特化したモデル制作とエフェクトの会社でのジュニア・ポジションから映画業界でのキャリアをスタート。フリーランスのモデラ―としてロンドンにあるエフェクトの会社や制作会社で数々のプロジェクトに携わり、やがて3大スタジオであるパインウッド, リーブスデン, シェパートンで映画制作に携わるようになり、特殊な小道具や衣装、模型制作に従事。その後、『タイタニック』の「タイタニック号」の小道具制作において注目されたことをきっかけに、映画『ハリー・ポッター』シリーズをはじめ、近年の数々のハリウッド超大作にて小道具制作ヘッドを務める。
「魔法ワールド」のシリーズにおける自身の仕事について「『ハリー・ポッター』『ファンタスティック・ビースト』シリーズ全ての小道具を率いています」と説明するボハナは「(通常であれば)あるものを借りたり、買ったりすることもできますが、『ハリー・ポッター』の世界は“魔法ワールド”というとても特別な世界なので、ユニークに作らなければいけません。そういう場合はデザインから考えて作り、セットに装飾する、それが自分の仕事です」という。
その小道具の範囲については「杖とか箒などの分かりやすいアイテムから、背景のデザインであったり、『ダイアゴン横丁』の『ウィーズリー・ウィザード・ウィーズ』の中の背景や小物も担当しているので、みなさんが気づかないものまで担当しており、多層的なことが必要とされる仕事です。あとは地味に思われるかもしれないけど、数も多く重要なのが照明です。照明具も小道具が担当しているので、かなり数が必要となります」と明かした。
「スタジオツアー東京」には、そのこだわりの小道具をすぐ近くで見ることができるのが魅力のひとつだが、ここでしか見ることができないお気に入りを聞くと「いっぱいあるからどうしよう(笑)」と悩みつつ「『炎のゴブレット』は東京にしかない」と挙げ、「ほかのスタッフとともに1本の木から彫り出して作り上げた、物語でも重要なピースなのでぜひ見ていただきたいです」と勧めた。
また、杖にはひとつひとつに個性があるということで、『ハリー・ポッター』のメインキャラクターであるハリー・ポッターやロン・ウィーズリー、ハーマイオニー・グレンジャーの3人の杖へのこだわりを聞くと「ハリーの杖は、『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』で作り直しています。1作目(『ハリー・ポッターと賢者の石』)と2作目(『ハリー・ポッターと秘密の部屋』)では、J.K.ローリングにイメージを伺ったら『シンプルなもの』とおっしゃっていたので、“線がクリーンで美しい杖を使っていました。3本目の『アズカバンの囚人』のアルフォンソ・キュアロン監督はビジュアルでダイナミックなものを求めていました。見た時に、個性を持っている、ビジュアル的にパッと立つ杖を作ろうということで作り直しました。ハリーらしい自然な枝をベースにしており、木の皮が残っている部分があったり、飛び出した突起がついていたりするのだけど、先の方にいくと洗練されているシンプルなデザインになっていて、それを表現することで彼も自然なところから洗練されているところまでの成長として見ることができるし、『ハリー・ポッター』におけるハリーの物語をそこから読み取ることができるデザインです」と説明した。
一方で「ハーマイオニーの杖は、素敵で装飾的でアーティステックなものです。シンプルだけど、蔦が昇っていくようなデザインで、彼女の思慮深いところ、相手を思いやれるところ、持っている知性みたいなところ、さらに人生でいろいろと経験していく中で成長していくところが表現されていると思います」と解説。さらに「ロンの杖はもともと家族が持っていたもので、家族で大事にされているというところが込められているので、それも素敵ですよね」と笑顔を見せた。
また、カーブを描くデザインが特徴的なベラトリックス・レストレンジの杖については「あれはおもしろいんです。いろいろな杖を作る中で、メインのキャラクターたちが使う杖は実際に使われているもの以外のバージョンもデザインチームは考えています。(ベラトリックス役を演じる)ヘレナ(・ボナム=カーター)の場合は、通常でしたら役者さんがデザインチームと一から作っていくんですけど、既に存在して使っていなかった杖の中から、曲がり方が『魔女の指みたいだ』とお気に入りで、『あれでお願いします』とすぐに選ばれたのがおもしろかったです」と明かした。
長い年月を描くシリーズだが「『ハリー・ポッター』はタイムレスなところがあって、ホグワーツは学校なので、そこに入ると時代性はあまり必要がなくなります。『ファンタスティック・ビースト』になると過去にさかのぼるので、小道具としてその時代性を見せるためのアイテムをたくさん作らなければいけなかったので、装飾部と美術部で一緒になって作りました。『ファンタスティック・ビースト』に関しては、魔法に関するものと時代性を見せるものを同じくらい作らなければいけませんでした。『ハリー・ポッター』が現代物と言えば、『ファンタスティック・ビースト』は時代物にあたるので、今では失われたものも登場するので、そういったところは意識しました」と、その違いについて語ってくれた。
「スタジオツアー東京」ではそれらの小道具などの“見えないこだわり”も見どころ。その中でも特に見どころを聞くと「『必要の部屋』です。学校の倉庫代わりでもあるのでいろいろなものが置いてあります。購入したものもあるけど小道具で作ったものもたくさんあって、細かいところまで見て欲しいです」と挙げた。また「『ダンブルドアの校長室』は、ダンブルドアが天文学が趣味ということもあって、テーブルの上に置いてあるものであったり、細かく見ていただくと飾り棚のようなものにいろいろなものがあって、それも僕らが作っています。天文学に関する機器や、科学的なものが入っているものは僕らが用意したものです」という。さらに「イギリスのイエローページ(電話帳)をベースに、(校長室にある)本棚の本を作っています。触ることはできませんが、中にはたぶん電話番号があります(笑)」と笑った。
今回、特別に「ダンブルドアの校長室」の中を案内してもらうと、階段を上ったところは天文台のようになっており、「ダンブルドアは球体の内側にあるイスに座って天体を見ながらいろいろな夢を見ています」とボハナ。
さらに、映画でも象徴的なダンブルドアの机や椅子の奥には小さな部屋が。作品の中では長く映るシーンではないが、その装飾や小道具にもこだわりが詰まっており、椅子や机、ソファなどは作ったものだということで、ソファの横にある小さな机の上にはダンブルドアが甘いものが好物だということからキャンディなどが置かれている。この机の上のものも小道具として作られたものだといい、ほかにも部屋の中にはお店で見つけて買ったものもあるという。
また、小部屋の中にはダンブルドアの肖像画が置かれているが、その肖像画の後ろには窓があり、窓の前は座れるようになっている。そのソファのようなスペースについて、ボハナは「あそこが気持ち良さそうなので、あそこがいい」とお気に入りの様子だった。
「ダンブルドアの校長室」の隣にはキャラクターたちの杖がズラリと並んだ展示を見ることができるが、一番お気に入りを聞くと「全部いいから難しいですね(笑)」と笑うボハナ。そんな杖の中でも特にハリーの杖については「一番撮影が多かったので、かなり数が多かったし、直さなければいけなかった」とエピソードを語ってくれた。
長年にわたり「魔法ワールド」に携わるボハナだが「時々ある瞬間に『いい思い出だったな』と思い出したり、“そういったことをもっとすべきだな”と最近思うくらい人生の中でもこの作品たちはとても特別な存在です。やっていたときもおもしろかったけど、今考えるとこの映画を作ることで、得難い体験をしていたんだなと改めて思うことが多いです。自分にとってもとても大事な映画たちです」と感慨深げに振り返った。
※セット内は、特別に許可を得て撮影しています。
【写真・文/編集部】
ワーナー ブラザース スタジオツアー東京は、映画でも人気のホグワーツの大広間、ダイアゴン横丁、9 と¾線などのセットに実際に足を踏み入れられるほか、世界初となる東京独自のセットがあるのも大きな魅力のひとつ。映画制作の裏側の秘密を発見しながら、ほうきに乗ったり、ホグワーツの肖像画になったり、観客になってクィディッチの試合を応援したり、様々なインタラクティブな体験ができるエリアもある。世界最大のバタービールバーでは、魔法使いの飲み物であるバタービールを飲んだり、カフェでは英国風の食事やデザートも楽しめる。
‘Wizarding World’ and all related names, characters and indicia are trademarks of and © Warner Bros. Entertainment Inc. – Wizarding World publishing rights © J.K. Rowling.