実在の人物をモデルに、アイヌ民族の壮絶な史実を赤裸々に描き、後世に残る感動の物語として昇華させた映画『カムイのうた』で、主人公テルを演じる吉田美月喜にインタビューを行った。
吉田 オーディションで決めていただいたのですが、その時に演じたシーンが、妹みたいにかわいがっている女の子に「自由になりなさいよ」「差別されてまで学校に行きたいの?」というシーンでした。私自身がこの作品が決まるまでアイヌ文化をあまり知らなくて、とても衝撃的で、「こんなことがあったの?」と驚きました。実際にオーディションをやってから、監督と話しながら2回目のオーディションをやって、カメラテストをやる中で、私の知らない日本の歴史があるという驚きがあり、脚本を読んでいる時も衝撃の連続でした。差別だけではなくて文化の中でもユーカㇻというものがあったり、ムックリがあったり、これだけ自分が知らない日本の世界があったんだなということに驚きました。
吉田 この作品が決まってから監督とお話をした時に、この映画は内容もアイヌ文化の中でもセンシティブなものになってくるので、責任を持って絶対に納得していただける作品にしないといけないと話していらっしゃいました。そのためには普通以上の勉強が必要ですし、知らないことがあるとどうしてもリアルではなくなってしまうので、東京にいるときはインターネットなどで、私が演じたテルは知里幸惠さんという実際にいらっしゃった方をモデルにしているので、知里さんのことなどを勉強しました。この映画の制作発表の時に北海道に行かせていただいて2日間くらいアイヌに関する展示、資料館や知里さんの記念館も行かせていただいて、そこでいろいろと学ばせていただきました。
吉田 知里さんのことを勉強していた時に、私よりも大人だなと思いました。同じ19歳だったんですけど、私だったら絶対にそんなことできないと憧れがありましたが、記念館に行った時に19歳らしい恋をしている部分や、お父さんに対してちょっと反抗期なのかなという手紙のやり取りとかを見せてもらったりして、その時に19歳らしいところがあったんだと驚きました。そこで少し共感が持てた部分があったので、その記念館に行けたのはよかったなと思います。あとは初歩的なところからすると着物の着方や脱ぎ方、ユーカㇻやムックリなどは、監督から「生のものでやりたいから、着物は練習して。袴の脱ぎ方やたたみ方とかは練習してほしい」とおっしゃっていただいて、「ユーカㇻやムックリも実際に現場で録った音を使うから、あとで音を入れたりしないから練習をしておいて」と言われたので毎日練習していました。
吉田 結構難しかったです。ムックリは、口の開き具合や息の吸い方、力加減もですけど自由にやるんです。もともとアイヌの方は動物の鳴き声や、風とか自然の音を真似して演奏するような感じの楽器なので正解はないし、音が無限にあるんです。いくらでも発見しようとしたらいろいろな音が出るくらい自由度が高い楽器なので、実際に撮影するときも、このような気持ちで演じるからこのような音を出すというシーンではあるけど、その音に正解がないので、自分が感じていた気持ちをその音に乗せて即興で出せるようになるに、いろいろな音を知らなくてはいけないという大変さがありました。初めには音が出ないところから始まり、家でも口の形を変えてみたり、こうしたら高い音が出るのか低い音が出るのかどっちなんだろうからやってみて撮影の時になんとかできるようになりました。映画の撮影が終わった後にもイベントで実際にムックリをやらせていただいたんですけど、その時に練習していたりすると、あれだけ練習したはずなのに自分が知らない音が出てきたり、「なんだ今のは、初めて聞いた音だ」ということもあり、すごく奥が深い楽器だなと思います。
吉田 東京にいるときは音源をいただいていたので、それをうまく歌えるように練習していたんですけど、撮影で北海道に行ってアイヌの方に教えていただいたときに、第一声が「全然ダメ」と(笑)結構厳しく教えてくださって。正解のメロディーもリズムもなくて、ユーカㇻはアイヌの物語を歌に乗せて伝えている童話みたいな感じなんですけど、人によってリズムやメロディーが違ったり、お話を付け足して語ったりというものなので自由度が高いので、だからこそきれいに歌うのではなくて言葉一つ一つを理解していないのが分かると言われて。その場で今の言葉の訳を合わせて、歌うというよりメロディーがあるわけではないから話しているようにやってくれとおっしゃっていただいて。島田歌穂さんもたくさん歌っていらっしゃるんですけど、2人で厳しく教えていただきながらやりました。
吉田 撮影のたびに結構練習していました。先日、久しぶりに北海道の舞台挨拶で加藤雅也さんのリクエストでユーカㇻを歌うことになったんですけど、不思議なことに覚えているもので印象に残りやすいメロディーなんだろうなと思いました。当時の方が口ずさんで伝えてきた耳に残りやすいメロディーというのを実感しました。
吉田 島田さんは北海道で初めてお会いさせていただいたんですけど、初めから存在が“愛”という感じの方で、一緒にいるだけで包み込まれているような包容力がある方です。普段から歌がすごい方ですけど、島田さんは感情が胸に伝わってくる歌い方をされるなと思っていて、それが演技にも出ていると思いました。生命力を感じる温かさを持っている方だなと思っていて、すごくよくしていただきました。望月歩さんはこの作品で初めてご一緒したんですけど、東京にいた時から望月さんとだけはリハーサルを何度かさせていただきました。この作品の中では2人きりのシーンがあまり多くなくて、その中でどうやって2人の親密度を表せるかをリハーサルの時からやっていたんですけど、たくさん意見を言ってくださったり、とても人の目を見られる方だなという印象があります。そうやって一緒に考えていけたら、この作品は乗り越えていけたかなと思っています。加藤雅也さんはダンディーで、島田さんとは違う生命力を感じる方です。しっかり自分の意見があって、加藤さんも北海道で初めて会ったんですけど、初めて会った時に私はテルのことを考えながら演じていましたが、加藤さんは自分の役だけではなくて作品全体の行く末とかどういう風に持っていくかとか、その中で自分の役とかテルはどういたらいいかというのを監督に相談したり、提案してくださっていて、その姿勢にビックリしました。私は自分の役でいっぱいいっぱいだったけど、俳優としては作品のことを考えないといけないなと気づいて、すごいなと思いました。演技の事に関してもすごくたくさん教えてくださいました。
吉田 勉強したことがたくさんありました。以前、取材していただいた『メイヘムガールズ』の時は同世代の子が多くて、すごく楽しい撮影だったんです。いまだにみんなで連絡を取ったりするんですけど。今回は年上の方や大先輩がいらっしゃったり、作品の内容も実際にあった歴史の話なので、その責任感はみんな感じてたところもあったので、また違う学びがたくさんあった作品でした。
吉田 この作品でテルやアイヌの方が差別を受けたり肩身の狭い思いをしていますが、そういった時でも絶対に支えてくれる人が周りにいるということを、私もこの映画で感じました。絶対に見てくれている人はいるんだよという希望を伝えられたらいいなと思います。あとは実際に私がこの作品を知って感じた衝撃のように、日本の知らない歴史というのがたくさんあって、でもきっと私と同世代くらいの子は知らない子も多いのかなと思います。こういうこともあったということを知っていかなければいけないと感じたので、この映画が長く愛される作品になればいいなと思います。
【写真・文/編集部】
学業優秀なテルは女学校への進学を希望し、優秀な成績を残すのだが、アイヌというだけで結果は不合格。その後、大正6(1917)年、アイヌとして初めて女子職業学校に入学したが土人と呼ばれ理不尽な差別といじめを受ける。ある日、東京から列車を乗り継ぎアイヌ語研究の第一人者である兼田教授がテルの叔母イヌイェマツを訊ねてやって来る。アイヌの叙事詩であるユーカラを聞きにきたのだ。叔母のユーカラに熱心に耳を傾ける教授が言った。「アイヌ民族であることを誇りに思ってください。あなた方は世界に類をみない唯一無二の民族だ」教授の言葉に強く心を打たれたテルは、やがて教授の強い勧めでユーカラを文字で残すことに没頭していく。そしてアイヌ語を日本語に翻訳していく出来栄えの素晴らしさから、教授のいる東京で本格的に頑張ることに。同じアイヌの青年・一三四と叔母に見送られ東京へと向かうテルだったが、この時、再び北海道の地を踏むことが叶わない運命であることを知る由もなかった…。
『カムイのうた』は2024年1月26日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国で順次公開
監督・脚本:菅原浩志
出演:吉田美月喜、望月歩、島田歌穂、清水美砂、加藤雅也
配給:トリプルアップ
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