映画『ナミビアの砂漠』で主人公カナ(河合優実)の恋人で、自信家で刺激的なハヤシ役を演じた金子大地にインタビューを行った。
世の中も、人生も全部つまらない。やり場のない感情を抱いたまま毎日を生きている、21歳のカナ。優しいけど退屈なホンダから自信家で刺激的なハヤシに乗り換えて、新しい生活を始めてみたが、次第にカナは自分自身に追い詰められていく。もがき、ぶつかり、彼女は自分の居場所を見つけることができるのだろうか…。監督は19歳という若さで『あみこ』を作り上げ、史上最年少でのベルリン国際映画祭出品を果たした山中瑶子。主演はその『あみこ』を観て衝撃を受け、監督に「いつか出演したいです」と直接伝えに行ったという河合優実。才能あふれる2人の夢のタッグが実現した本作は今年のカンヌ国際映画祭監督週間でも絶賛され、国際映画批評家連盟賞を受賞した。
金子 素直にめちゃくちゃうれしかったです。山中さんは注目していた監督だったので、商業映画2作品目に出演できるのはうれしかったです。
金子 自由度が高いと言いますか、自分の好きなようにやらせてくれてその中から出るいいところを引っ張って、「そこをもっとやってくれたら」と細かいところを言ってくれたり、このシーンはこうだと決めつけるのではなくて、一緒に現場で起きたことを大切にする監督なので、一緒に作っている感じが役者としても楽しかったですし、素敵な監督だと思いました。
金子 僕が初めて河合さんと共演したのは(河合が)10代の頃で、そこから4年くらい経ったんですけど、そのころからしっかりしてましたし、今回はより河合さんに引っ張ってもらった感はいっぱいあります。いろんな面で支えてもらいましたので、心強い主演だったと思います。
金子 おもしろい映画だなと素直に思ったのと、これを同い年の監督がやっているんだということにビックリしました。山中さんは本当に大胆な監督でバッサリいくので、観たことがない映画を観た気持ちになりました。これから日本映画もどんどん進化していくんだろうな、していけばいいなと思います。改めて出れてよかったです。
金子 クリエイターの役で、いつか自分の脚本が大きいものになればいいなと夢見ているんですけど、カナと出会ってだいぶ変わる役だなと思います。それは寛一郎君が演じたホンダという役もそうなんですけど、カナに影響されて、カナとの立場がどんどん変わっていくところも面白いところだなと思います。自分がちょっと隠していた過去の秘密もカナに知られてしまうところがありますが、そこまで重くは捉えていないですけど罪意識も背負いながら生きている役なのかなと。繊細で優しい役だと思います。どんどんカナに振り回されることに慣れていくのが映画を通して見ていて感じるので、そこは面白いなと思います。
金子 感じました。ハヤシもたぶん感じているだろうし、河合さんもアドリブで来てくださるので。2人でいるときに僕がカップ麺を食べていて河合さんに怒られるシーンでも、僕の箸をカナがポロっと落とすシーンがあって、箸を落とすということは次はカップ麺をこぼされるかもしれないから無意識にどかして話を聞いたりするのもあったり、ああいうのも自然に出てくるものでした。河合さん演じるカナが何をしでかすか分からないガチ感がハヤシをリンクしたなというのがあり、ちょっとハヤシの気持ちが分かった気がしました。
金子 作品の中で、よく喧喧嘩をしているのですが、それが重くならないなと思います。それはきっとハヤシの持っている軽さ、許せる心みたいなものがあるからそう見えるのかなというのがあります。きっと監督がやりたかったことってこういうことだったんじゃないかなというのは考えてはいました。喧嘩のシーンが面白いと思うんです。それは現場でも分かっていたので、そこは河合さんともコミュニケーションを取りながらできた感じはあったのでよかったです。あの生々しい男女の喧嘩を表現するにはどうしたらいいかということは入念にリハーサルをしながら、本当にケガだけないようにと心掛けてやりました。河合さんが本当に怒った時の目をしていたので、怖かったです(笑)
金子 演じているときは、「なにガン飛ばしてるんだよ」みたいな感じでやりましたけど(笑)、でもお互いに楽しんでやりました。ああいうときこそ冷静というか、バカバカしいなと思いながらもそれに付き合うハヤシみたいなところはあるなと思うので、そういう感覚で僕も「来いよ」くらいな感じていました(笑)本当に手加減なく蹴ってくるので…そこはちゃんとやっているので痛くはないですけどね(笑)迫力ある感じで来るので楽しかったです。
金子 本当に力でねじ伏せようとしたらねじ伏せられると思うので、そこでこういう感じで撮るんだったらああいう怒り方のほうが面白いなというのは自分なりに考えましました。「来いよ」というような挑発的な方が、きっと観ている人は面白いじゃないかと思って。僕はひとりっ子なので兄弟喧嘩がうらやましかったので、それをちょっと頭に入れてやってみようというのはありました。
金子 僕自身は、自分で考えてやっているつもりでした。どうやって演じているかとか考えてはいるものの、自分では分からないです。でも一番大切なのは現場で起こることをちゃんと拾えるかだと思うので、空気感はこれからも大切にしていきたいと思って演じています。
金子 一番はその役の事を考えることと、相手とのお芝居だと思います。チームで成り立っている仕事だと思うので、僕だけができることはたかが知れていて。どれだけがんばっても、各部署のスタッフの方々や、それを切り取ってくれるカメラマンや監督がいるから、俳優部だけでは成り立たないことを毎回意識しています。自分のやりたいことというよりもみんなでどうしていくかが大切だと思っています。
金子 完全に浮かれていましたね。「何、この素敵な映画祭!」みたいな。街全体がお祭り騒ぎというか、きっとあの人は俳優なんだろうなというタキシードを着た人がいっぱい歩いていたり、海外に行くのはカンヌが2回目だったのでモチベーションが上がりましたね。もっともっとがんばろうと思いましたし、日本の作品が海外の人にも楽しんでもらえるんだという自信にもなりました。縁のある河合さん、寛一郎もずっと一緒にやってきた仲間ですし、ずっとご一緒したかった山中さんと参加できて本当に恵まれているなと思いました。
金子 日本の映画が世界でも面白いと思ってもらえるのはすごくうれしいことだし、そういう作品に求められる役者でいたいなと改めて思いました。もっと勉強しないといけないことがたくさんありますし、ポジティブに日本映画ってすごいなと思えたというか、そういう自信というかモチベーションになりました。
金子 言葉も全然違うのにこのニュアンスが伝わるんだと思うところがいくつかあったりして、それは世界共通で面白いんだという発見にもなりました。日本独特のカルチャーだったり、言葉だったり、そういうものをお芝居を通してどんどんやっても大丈夫なんだなと思いました。あとはまさか早くカンヌに来れると思っていなかったので自分は恵まれているなと思いますした。映画の雰囲気は僕の中では忘れることがない貴重な経験なので、また絶対にこの映画祭に来たいという、一つの目標になりました。また、カンヌに行けるように頑張りたいです。
金子 もちろんいい役者になりたいというのはあるんですけど、求められたことに応えるのも俳優の仕事なのかなと思うので、いろいろなことに挑戦していきたいと思います。純粋な気持ちを忘れないで、毎回新鮮な気持ちで毎シーン臨めたらいいなと思っています。
【写真・文/編集部】
『ナミビアの砂漠』は絶賛公開中
監督・脚本:山中瑶子
出演:河合優実
金子大地、寛一郎
新谷ゆづみ、中島歩、唐田えりか
渋谷采郁、澁谷麻美、倉田萌衣、伊島空
堀部圭亮、渡辺真起子
配給:ハピネットファントム・スタジオ
©2024『ナミビアの砂漠』製作委員会