映画『チャチャ』でデザイン事務所に勤めるイラストレーター、“野良猫系女子”のチャチャを演じる伊藤万理華、酒井麻衣監督にインタビューを行った。
本作『チャチャ』は、新進女優と次世代監督がタッグを組み、「不器用に、でも一生懸命“今”を生きるヒロインたち」をそれぞれの視点で映画化するプロジェクト、“(not)HEROINE movies”=ノットヒロインムービーズの第4弾公開作品。ドラマ「美しい彼」シリーズ、『劇場版 美しい彼~eternal~』が大ヒットを記録、『夜が明けたら、いちばんに君に会いにいく』、『恋を知らない僕たちは』でピュアなラブストーリーに挑戦し、今、最も注目を集めている気鋭のクリエイター・酒井麻衣の完全オリジナルストーリー。『ドライブ・マイ・カー』の大江崇允が脚本執筆に協力し、“人目を気にせず、好きなように生きる”をモットーに自由で気ままな主人公・チャチャの恋と成長を描いた物語。ラブストーリーでありながら、コメディやサイコ、スリラー...等々と様々な要素が詰め込まれており、酒井監督の好きなモノが凝縮された、まるでおもちゃ箱をひっくり返したような唯一無二の作品に仕上がっている。
酒井監督 チャチャという野良猫みたいな女の子に焦点をあてて書いてみたんですけど、チャチャという女の子を表現できる子に果たして出会えるのかというのは思っていました。プロデューサーのみなさんから「伊藤万理華さんがとても合うと思う」という話を聞いてお会いして、会った瞬間に「チャチャさん、いらっしゃったのでお願いします」という感じで。お話もすごく面白かったですし、雰囲気がすごくチャチャさんの感じがしたので、会議室を出てすぐに「チャチャさんがいらっしゃったのでオファーしたいです」とプロデューサーにお話をしました。
伊藤 酒井さんの脚本を読ませていただいて共感しました。『チャチャ』というタイトルもそうだし、どういう風に映像化し、どんな衣装で、誰が演じるんだろう、もし自分ができならやってみたい!と思いました。面談中、私は緊張しすぎて何を喋ったかを覚えていないんです。何を話しましたっけ?(笑)
酒井監督 私も一目で「あ、チャチャさんだ」という衝撃が強すぎて、内容はあまり(笑)伊藤さんはクリエイティブにいろいろ作られる方なので、どんな風に作っているんですかとか、そういう話を聞きました。
伊藤 酒井さんは自分のようなジャンルの人間を知らないかなと思ったので、自分はこういう人間です、とお話をさせていただきました。
酒井監督 すごく刺激的でした。もちろん存じてはいたんですけど、しっかりと知ってはいなかったので、伊藤さんを知れば知るほど、すごく伊藤さんにピッタリというか、当て書きかもしれないと思うくらい伊藤さんにピッタリだなと。もし違っていたらごめんなさいね。
伊藤 いやいや、私も台本を読ませていただいて、そう思えるくらいでした。「自分じゃん」という瞬間が多いな、と。当て書きなのかと思うくらいでした。
酒井監督 私も今そう思っています。運命的な出会いだったなと。
伊藤 凛ちゃんのモノローグでチャチャの印象が語られる雰囲気とか、周りから「何それ」と言われたり、会話に馴染めない雰囲気や、空気を察するという体験はしたことがあるなと。ファッションとか、人との振る舞い方がたぶん周りの方からすると浮いて見えて、それを自覚している。ただそれをやめるのかと言ったら、そうしてまで人に合わせたくないなという気持ちがよく分かります。いい意味でも悪い意味でも媚びないところがすごく分かるという印象です。
酒井監督 自分に嘘つきたくない子なのかなと思いながら書いていました。
伊藤 作品自体に関しては、チャチャという人物がいろんな目線で語られて、その中で本人はどういう風に思っているのか、みんなが見えていないところをちゃんと深く掘っていて。『チャチャ』という映画は、一見するとすごく変わっているけれど、酒井さんとお話して、これは本当の純愛なんだと。チャチャ目線での本当の純愛が、傍から見ると新鮮なのかなとも思ったりもして、でもそれが面白い。いろんな目線で語られて、全然見たことがなさ過ぎて、絵本の世界みたいだなと思いました。
酒井監督 チャチャみたいな女の子に興味があるということと、いま万理華さんがおっしゃっていましたけど、世界にはいろんな視点がある。それぞれの都合があって、それぞれの見え方があるので、勘違いを巻き起こすこともありますし、思い込みによっていい方向にも悪い方向にもいく場合がある。その世界の中で、チャチャみたいな女の子がどう生きるのか、「あの子ってどうせいいよね」みたいなことを思われている子の孤独と悲しみみたいなものを匂い立たせたかったです。
酒井監督 伊藤さんの持つクリエイティブに対する考え方とか、ご本人では気づいていない部分のご本人らしさみたいなところをすごく大切にしたいと思っていました。変にお芝居しようというより、伊藤さんが歩いたら普通の歩き方ではなくてちょっと踊りながらというか、地上からちょっと浮いているようなイメージなんですけど、そういうのを消さないでほしい、そのまま撮影したいのでというのはずっとお伝えしていました。
伊藤 ずっと言われていました。ずっと言われて分からなくなって(笑)客観的に自分がどう見えているかなんて考えないですし、チャチャがきっかけで、チャチャを知るために自分を観察しないといけないんだというところに至りました。今までは何かを作る時は自分の内面だったり、コンプレックスをどうにかしたくてモノづくりに取り掛かるみたいな感じでした。だけど、傍から見る普段の自分の様子をお話してくださったんですけど本当に分からなくて。半分分からないって思いながら撮影していました。
酒井監督 迷っている危うさもすごくいいなと思いながら見ていました。
酒井監督 ほとんど全部です。ストーリーの筋書きは脚本には書かれていますけど、世界観とかファッションとか、チャチャの絵とか仕草は全部伊藤さんに影響されています。「こういうのいいな」「チャチャはこうするんだ」と発見して撮影させてもらったという感じです。ファッションについても、衣装合わせを何回かご一緒して、伊藤さんの私服も混ざっていたりとか、イラストの色塗りも線は別の方ですけど色は塗ってもらって、現場でもたまに描いてくださいました。
伊藤 客観的に見ているチャチャらしさがイコール自分らしさみたいな。無意識にやってしまっている動きに対して、それを面白がってくれていたところです。動きや歩き方、これがチャチャだと思って演じたら、「それじゃない、さっきのでいい」というくらい。本当にそういうところから積み上げていって、映像で見て一致したときに「あ、これか」と少しずつ引っ張り出していただきました。声の出し方も、演じるとなったときにどうしても演じるスイッチが入っちゃって、自分が無意識にも意識的にも演じてしまっているし、そこを監督からすぐに見抜かれちゃうから、本当に大変だと思って(笑)
酒井監督 この声がすごく素敵だと思うし、チャチャの感じが広がるなと思って、この声の感じがいいってずっとお伝えしていました。
伊藤 演技をする上でもゼロから赤ちゃんになったつもりでやりますと宣言してやったくらいです。
酒井監督 「赤ちゃん?」と思って(笑)それを言われた時に、「え、生まれたて?どうしよう」と、その時に一瞬思って(笑)後からそういうことねって思いました。
伊藤 まっさらな状態で、イコール赤ちゃんということで、私は赤ちゃん(笑)
酒井監督 そうです、一回驚くけれど、徐々に染み込んできて、味わい深いと思うのがすごくいいなと思います。
酒井監督 一緒に会議室にこもって作りました。
伊藤 初めてやりました。今までに全く体験がなかったです。
酒井監督 撮影をしている中で、この映画の主題歌ってチャチャさん=伊藤さんが歌ったほうがいいんじゃないかとなんとなく思っていて、ただ難しいだろうなと。願いくらいで、「そうだったらいいな」くらいに思っていましたが、ポスター撮影の時に「チャチャが歌ってくれたらいいな」みたいなことを願いとしてポロっと言ったら、伊藤さんも「この映画のためだったらやってみたい」というようなことをおっしゃってくださって、それをプロデューサーやマネージャーさんが聞いてくださって、そこから動き出した気がします。こういうイメージの曲みたいなお話をして、作曲家さんの歌詞も織り交ぜながら2人でこもって歌詞を書きました。
伊藤 いやーこんなに大変なんだと。でもチャチャが歌っていると思うと、私が演じたからこそ分かるチャチャの気持ちがありました。考えることが面白かったです。歌詞を書く人はすごいなと思いました。
伊藤 大丈夫かなと。
酒井監督 すごい素敵でした。あと歌い方もチャチャさんのキャラクターをそのままで歌ってほしいと。
伊藤 レコーディングの時に、力が抜けた感じでチャチャっぽく歌ってとおっしゃっていただいて、私もチャチャとして歌いたいなと思っていたので。何年も前ですが、歌った経験はありましたが、それは自分自身が歌っている感じなんですけど、今回は自分が聞いても「チャチャだな」と思いました。エンディングにハマっていてよかったです。
酒井監督 映画を見て、「なんだ、この映画は」となった時にあの曲が流れて、最後の「おはよう」で、“あ、全部夢だったのかもしれない、今起きたんだ私”という感覚がすごいいいなと思いました。
伊藤 映画は1回見ただけだと難しいところもあると思うんですけど、それをエンディングの曲を聞きながら頭の整理をしていただいて、全部夢だったんだともらえたらちょうどいいです。
酒井監督 現実に戻ったきたみたいな(笑)目が覚めますよね。世界が変わったように見える。
伊藤 別の世界に見える。チャチャ目線の曲だから、チャチャから見た景色ってこんな景色なんだと歌だけで伝わるので面白いなと思います。
伊藤 私はデザイナーさんとか漫画家さんに憧れていたので、そういう専門学校に行ってみたいですね。ちゃんと絵の勉強をしてみたい気もします。
酒井監督 私は映画を作りたいが一番なんですけど、全く気にせずに言うと雲を食べてみたい。
伊藤 かわいい!(笑)そういうことか。
酒井監督 そういうのを言ってもおかしくない世界だったら、面白いなと思います。あの雲、食べてみたいから食べてみようみたいな。
伊藤 じゃあ私も超能力が欲しいです!
酒井監督 超能力だったら瞬間移動はマストで欲しい。移動時間は好きですけど、方向音痴だったりするので。
伊藤 それはみんな欲しい(笑)
【写真・文/編集部】
『チャチャ』は公開中
監督・脚本:酒井麻衣
出演:伊藤万理華/中川大志
藤間爽子、塩野瑛久、ステファニー・アリアン、落合モトキ、藤井隆
配給:メ~テレ、カルチュア・パブリッシャーズ 配給協力:ラビットハウス
©2024「チャチャ」製作委員会