舞台『有頂天家族』で、人間でありながら天狗並みの能力を持つ妖艶な美女・弁天役を演じる若月佑美にインタビューを行った。
下鴨神社の糺の森に暮らす狸一家を中心に、京都の地で、狸・天狗・人間が繰り広げる奇想天外、波乱万丈な物語を描いたシリーズ累計55万部を誇る森見登美彦の大人気小説「有頂天家族」を舞台化。
若月 森見先生の作品はとても世界観があって、森見先生ならではのワードチョイスのセリフや語尾という前情報は知っていたので、そこに飛び込めるワクワク感がありとてもうれしかったですし、人気の作品だからこそ丁寧に素敵なものにしていかなければいけないなと気がグッと引き締まるような感覚がありました。
若月 そうですね、特に漫画にもアニメにもなっているので、声の正解が一度提示されているので、そこのズレに対しての違和感を感じる方もいらっしゃると思います。原作がある作品に関しては毎回怯えてしまいますが、もちろん原作リスペクトの気持ちがあるので、取り入れられるところは取り入れて、なぞるだけにならないようにしていかないといけないと思っています。アニメと同じセリフが出てくるので、アニメではこういう区切り方をしていた、こういう抑揚のつけ方をしていたというところもあると思います。原作自体は小説なので、小説は読んだ方それぞれの捉え方があって読み方があるので、あえてアニメの通りに話し過ぎず、自分が小説を読んで、台本を読んで感じた抑揚、感情でいけたらいいなと思っています。そういった意味で、ズレない範囲ですけど、なぞらないようにしたいと思っています。
若月 プレッシャーがかかる説明ですよね(笑)
若月 自分が読んでいても最後まで捉えきれないキャラクターだと思っています。ミステリアスで、どこのコミュニシティにも属さない。タヌキ側ではないと思うんですけど、タヌキとも敵対しているわけでもなく、でも人間としてだけ生きているかというとそうでもないですし。天狗のような生き方をして、天狗と同じような能力を持っていたとしても、天狗として生きているというわけでもない。どこにも属さない感じが掴みきれない、手が届かないという意味合いになってくるんだろうなという思いがあります。あとは一人の女性としての魅力、矢三郎も、赤玉先生も「弁天が弁天が」と言ってくれて追いかけたくなる女性というものを作っていかなければいけないと思いました。私も漫画やアニメで絵になっている状態で見ても、これは追いかけたくなる人だなという印象を受けたのでそうなれるように頑張らなきゃなと思いました。
若月 私は妖艶さが皆無で、どちらかというとやることもハイペースでちゃきちゃきしている感じなので…。妖艶な方とかミステリアス、色っぽい方は動作がゆっくりなので、そこはちゃんと意識しないといけないなと思っています。どちらかというと今までも少年のような女性をやったり、気が強い女性をやることが多かったので。弁天も気は強いとは思ういますが(笑)そういうところでは挑戦だと思いましたし、見終わった後に「若月でよかったな、リンクした」と思ってもらえるように頑張りたいです。
若月 似ているほうが演じやすいといえば演じやすいです。似ていないとギアを変えたりしなければいけないので…。自分はテンションがすごく上がるタイプではないので、弁天はそこまでキャッキャするわけではないですけど、パワフルで元気な女の子を演じるときは私にないものなので切り替えてギアを上げて、誰かを参考にしながらやらないといけないので、似ているほうがいいなと思っちゃいます。
若月 難しそうですけど、面白そうだとも思いました。出てくる場所など、既にト書きの中に演出が書いてあるところが何か所かあって。新橋演舞場でやるからこその書き方だったので、勉強にもなると思いました。これまで舞台はたくさん出演させていただいていますが、まだまだ知らない世界があるなと思ってとても楽しみです。
若月 (※取材は稽古前に実施)ちょっとずつやっています。あまり色っぽいほうに寄せていくと、またそれはそれで違うし、だからといって元気といったらそういう感じでもないし。魅力だし難しさでもあるのが弁天は小説みたいなセリフをしゃべるんです。弁天も過去の話をするところがあるのですが、小説のように、私の言葉でみなさんが情景を思い浮かべるみたいなシーンがあったりするので、そこはあまり感情を入れすぎても伝わらないですし、だからといってナレーションのように読んでしまったら違うので。台本とにらめっこしています。
若月 濱田(龍臣)さんは一度だけ番組でご一緒させていただいて、その時の印象が素晴らしい方だったので、また別の場所でご一緒できるのがうれしかったです。その時にセリフを写真記憶するタイプだと言っていたんです。セリフをパッと見て絵で覚えられるタイプらしくて、セリフ覚えがそんなに大変ではないとおっしゃっていて、かっこいいなと。その方が座長ということで、最初に安心感がありました。
若月 勉強と一緒です。相手のセリフが出てきて次に自分が言ってと、台本の文字を隠していきます。最初に全部読んで話の流れを確認します。あと場面とか関係なく一番長いセリフを最初に覚えます。
若月 後で苦労しないためというか、人との会話でのセリフだけ覚えていくと、一人語りになった時に思い出してしゃべらなきゃいけないのが大変になるので。相手のセリフを聞いて返せるようなセリフは相手がいるときにやって。一人でしゃべらなきゃいけない一人語りのセリフは家で一人でしゃべれるようにするということで長いセリフを最初にやります。
若月 どうするんだろうなと思ったシーンは、天狗が出てくるシーンで、ト書きに「どこかに飛んでいってしまう」と書いてあるんです。どういう風に飛んでいった表現をするのか、本当に飛ぶのか…というところがワクワクです。過去にも飛ぶというのがキーになった作品をやったときは、どちらかというと飛び降りるだったんです。後ろにマットがあって、高いところから走っていって飛んで消えるというのがあったんですけど、弁天は低いところから上がる印象なので、そこはどうやってやるんだろうなと不安もありつつ、楽しみです。
若月 矛盾を気にしなくてもいいところが素敵だなと思っています。現実世界だといろんなことの矛盾を整理していかなければいけなかったり、今の世の中それは使わないでしょというものが出てくるとお客さんも引っかかってしまうし…役者自体もどうしようかという悩みになってしまうんですけど、フィクションやファンタジーものであればいい意味でなんでもありと言いますか。だからこそ面白いものが物語としてできるので、やれる範囲が広がって楽しいなと思います。
若月 見ます。舞台は2.5次元作品も見に行きますし。あと逆にリアル系なお芝居も見に行きますし、最近は少年社中の毛利(亘宏)さんが演出しているファンタジーの舞台を見に行きました。すごく面白かったです。自分から行かないとなかなか現実ではそういうファンタジーには出会えないので。同じような素敵な感覚を見に来てくれ方にも味わっていただきたいです。
若月 人の役に立っていきたいのでがんばっている人の応援をする人になりたいです。私自身が人に物事を教えられるような知識や技術があるわけではないんですけど、絶対に知っておくべきものは知っていると思っていて。ワークショップなどでそれを先に誰かから教えてもらって知っているスタートと、自分がどこかから仕入れて知らなきゃいけないとなるとスタートが全く変わってくるので。プロデュースもそうですし、アドバイスをする人もそうですが、何か人の役に立つようなことをやっていけたらいいなと思っています。自分の経験を自分だけで持っているのはもったいないと思っているので、どういう形か分からないけどやれるといいなと思っています。
【写真・文/編集部】
■公演情報
『有頂天家族』
会場:新橋演舞場(東京)
日程:11月3日(日・祝)~11月11日(月)
会場:南座(京都)
日程:11月16日(土)〜11月23日(土・祝)
会場: 御園座(愛知県)
日程:11月30日(土)、12月1日(日)
出演:中村鷹之資・濱田龍臣 (Wキャスト)、若月佑美、渡部秀、 池田成志、相島一之、檀れいほか
原作:森見登美彦(『有頂天家族』幻冬舎刊 )
脚本・演出:G2
美術:乘峯雅寛
照明:髙見和義
音楽:かみむら周平
音響:井上正弘、原田耕児
衣裳:髙木阿友子
ヘアメイク:miura
映像:大鹿奈穂、石原澄礼
演出助手:相田剛志
舞台監督:笹伸哉
公式X(旧Twitter): @uchoten_stage