“村社会”の実態を暴くヴィレッジ《狂宴》スリラー『嗤う蟲』で田舎暮らしに憧れ、脱サラした夫・輝道(若葉竜也)と共に都会を離れて麻宮村に移住するイラストレーター・杏奈役を演じる深川麻衣にインタビューを行った。
スローライフで、笑顔溢れる理想の田舎移住。しかし、その楽園には決して抗えない禍禍しい“ムラの掟”があった―。日本各地で起きた村八分事件をもとに、実際に存在する“村の掟”の数々をリアルに描き、現代日本の闇に隠されている”村社会”の実態を暴くヴィレッジ《狂宴》スリラーがここに誕生した。主演は深川麻衣。共演に若葉竜也、さらに田口トモロヲ、杉田かおる、松浦祐也、片岡礼子、中山功太ら豪華キャストが脇を固める。脚本は内藤瑛亮。監督は城定秀夫。
深川 私はホラーが苦手なんですけど、こういう人間的なスリラーやサスペンスとミステリーは結構好きで、仕事の中でもこういうジャンルの作品は今までにもなくて、しかも城定監督と一緒にトライできるということが嬉しかったです。話が進んでくと徐々に明らかになる村の秘密という着眼点が、ありそうでなかった切り口だと思って、楽しみながら台本を読みました。
深川 今回、城定監督からはそんなに細かくは演出を受けていなくて。ピンポイントで「こうして欲しい」ということはあったんですけど、全体を通して役者陣に委ねていただいた部分が大きかったです。母親として子供が生まれてからの嫌悪感とか不快感とか、どこまで介入されたら不快に思うんだろうという部分は、私は子供を産んだ経験がないので想像することしかできなくて、そこは悩んだところでした。撮影前から城定監督に相談したりとか、私の周りのお子さんを産んでいるお母さんの友達とかにも「こういう状況だったらどう感じる?」と質問をしたりして、想像を膨らませました。
深川 杏奈は自分とは全然違うところもありますし、思っていることを口にしたり顔に出たり、行動できる強さがある人だと思っています。私は子供を産んだことがないんですけど、でも私は愛犬を飼っていてすごく大事な存在なので、そういう愛おしさとかこの子を守るためなら何でもするというのは近いのかなと思います。あとは田舎暮らしというところで私は静岡出身で、映画の中ではちょっと怖く描かれているんですけど、田舎独特の横の距離の近さや、ご近所さんが野菜をいっぱい取れたからっ持ってきてくれたりとか、そういうところは分かるなと思いながら読んでいました。
深川 “ここをこうして”ということは若葉くんともそんなに話していなくて。会話はしましたが、お芝居に関してそんなに決めたりしていないです。撮影に入る前に「村人のみなさんのキャラクターがとても濃い分、それを受けていく自分たちはナチュラルに新鮮にそこにリアクションしていきたいね」と話はしていて、そこは撮影中もずっと意識はしていました。若葉くんとは映画『愛がなんだ』(2019)以来2度目の共演なんですけど、その時と変わらず、現場や作品に対して真摯で誰に対してもフラットに接してくれます。今回夫婦ということで関係性が出来上がっている状態で始まっていく分、2人の間の空気感とが大事になってくるなと思っていたんですけど、若葉くんの人柄を知っていたので不安もなく現場に入れました。
深川 演出で印象的だったのは、杏奈が家でパソコンを使って仕事先の人とリモートで打ち合わせをしてるところで、脚本にはなかったんですけど、直前に貧乏ゆすりをして欲しいと言われて。どうやって撮るんだろうと思っていたら、貧乏ゆすりをしてる足元から撮りはじめて、顔は愛想笑いをしてるんだけど足元に本心が出ているという。今回ワンカットで撮ったシーンがすごく多くて、そのシーンもワンカットで撮りました。1個のカットだけど二面性が現れていて、面白いなと、城定さんの視点が印象的でした。
深川 そうです。全部ロケだったので、山奥の近くのホテルに泊まって撮影しました。
深川 現場の雰囲気は作品柄ガヤガヤしすぎず、でも殺伐ともしていなくて、とても和やかな感じでした。城定さんも穏やかな方なので、みんなでコミュニケーションを取りながら過ごしていました。過去に共演した同士の方とかもいたりしたので。あと赤ちゃんとかわんちゃんに癒されて、現場はすごく朗らかでした。
深川 村の火祭りという大々的なシーンでエキストラさんもたくさんの方がいて、本当に寒い日だったんですけど寒さに耐えながら協力してくださって。カオスなシーンができたのですごく印象に残っています。
深川 ジャンルでいうと初めてのものなので、確かにそういうイメージはないのかなと思いました。若葉くんからも「城定さんと私の組み合わせを見てみたいと思った」という言葉をかけてもらって。「城定さんとの化学反応みたいなものがどうなるのか気になった」と言ってもらったんですけど、自分では「そう見えてるんだ」と、新鮮な気持ちでした。ジャンルとしてやったことがないからそういうイメージがないというのも分かるけど、役柄として私は結構追い詰められたり、窮地に立つ役が多かったりので、そんなに遠くもない気がしていて(笑)でも映画のジャンルとか質感的にはこれまでにないので、そういう言葉とかを聞くと新鮮で、客観的に見ることができました。
深川 このお仕事でお芝居を始めてから、最初の頃は特にその連続だったかもしれないです。自分の理想が高すぎて、実力以上の結果を出さなければと常に考えてしまって、何か作品が1つ決まったらそこで爪痕を残さないととか、こうしなきゃ、何か形にしなきゃという気持ちで臨んで、でもそこに実力が伴っていないからできないことがすごく多くて。これもできなかった、あれもできなかったと毎日へこんでいました。それで過度に落ち込みすぎるのはよくないなと思って、考え方を変えるようにしました。
深川 お仕事ではいただいたものを頑張ること、真摯に向き合うことが全てなのかなと思っています。もちろん挑戦したことがないジャンルのものなど、今回も自分にとってもは初めてだし、周りの方にとってもそういうイメージがないものをオファーしていただけたということはすごく自分にとって嬉しくて。そうやって型にはまらず、この人にこの役をやってもらったらどうなるんだろうと思ってもらえるような人になっていけるようにというのが変わらない目標です。2025年もそうやって1個1個出会っていければいいなと思っています。
【写真・文/編集部】
深川麻衣
1991年生まれ、静岡県出身。2017年舞台「スキップ」で初主演。2018年には主演映画『パンとバスと2度目のハツコイ』でTAMA映画賞最優秀新進女優賞を受賞。主な出演作として、『愛がなんだ』(19)、『水曜日が消えた』(20)、『今はちょっと、ついてないだけ』(22)、 『パレード』(24)などがある。『おもいで写眞』(21)、『人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした』(23)では主演を務め、今年は舞台「他と信頼と」、朗読劇「ハロルドとモード」(24)などでも活躍の幅を広げている。
『嗤う蟲』は2025年1月24日(金)より新宿バルト9ほか全国で公開中
監督:城定秀夫
出演:深川麻衣、若葉竜也、松浦祐也、片岡礼子、中山功太/杉田かおる、田口トモロヲ
配給:ショウゲート
©2024映画「嗤う蟲」製作委員会