常に時代を挑発し、世の常識に疑問符を投げかける映画監督・園子温。構想25年を経て結実したモノクロームのSF作品である最新作『ひそひそ星』の公開を控える鬼才・園子温という人物の生態に迫るべく、376日に渡って彼を追い続けたドキュメンタリー映画『園子温という生きもの』。MBS「情熱大陸 映画監督・園子温」(2014)を手掛けたドキュメンタリー映像作家・大島新が、テレビには収まりきらない規格外のその人物の魅力を描きたいという想いで、放送後の2014年9月から一年にわたって撮影を敢行。撮影現場での姿のみならず、自身の考える“表現”論、映画という枠を飛び越えた多岐に渡る活動をつぶさに捉えている。
今回、『園子温という生きもの』の公開を控え、大島新監督が日本大学芸術学部で特別講義を行った。本作の上映後に登壇した大島監督は「この映画は若い人、特に表現者を志している人に誰よりも観てほしいと思っている」と挨拶。聞き手を務める日本大学芸術学部の鳥山正晴教授が「園子温はすごく破天荒で自由な人という印象がありますが、映画を観るとこの時代にこういう生き様だと息苦しいんじゃないか、生き辛いんじゃないかと感じました」と園子温への印象を語った上で、続けて「園さんを1年間取材してみて、彼に対する考え方が変わったことはありますか」と聞くと、大島監督は「撮っているうちに徐々に距離も縮まって印象が変わったということはあります。でも、つかみどころのない人で、多面体のような人でもあります」と答えた。さらに「この映画を観終わった人の感想で『園子温という人物がますます分からなくなった』というものがあるんですが、それこそが園さんという人物を表しているような気がします」と語った。
TVドキュメンタリーと映画ドキュメンタリーの違いについては「見せ方が全く違ってきます。映画は映画館に座ってもらえたらよほどのことがない限り最後まで観てもらえるけど、TVはいつチャンネルを変えられるか分からないことを常に念頭に置く必要がある。だから、飽きさせないために情報を途切らせないとかナレーションといった“お作法”のようなものがあります」とTVドキュメンタリーに長く携わった大島監督ならではの苦労を語った。
大島監督は「情熱大陸 映画監督・園子温」で園監督を被写体にしているが「大抵は一度撮って完結というか、自分でも満足することが多いですが、園さんに関しては“被写体としてTVサイズではない”、“この人はもっと面白いだろうな”と思ったんです。そして『情熱大陸』の時はメジャー系の作品を監督している時期で、それは園子温本来の居場所ではないんだろうと感じていました。撮影の終わり頃に、自主映画として『ひそひそ星』という作品を次に撮ることを知って、それを追ってみたいと思って、放送終了の挨拶と合わせて改めて打診をしたんです」と本作が製作された経緯を明かした。本作の取材では、カメラを回した時間が170時間にも及んだといい、耳を傾けていた学生たちからどよめきが起きた。
学生からは次々に質問の手が挙がり、昨年のTOKYO FILMeXで上映された『ひそひそ星』を観た学生が、本作で映される『ひそひそ星』のメイキング風景のいくつかを挙げて「この場面を観た上で『ひそひそ星』を観るのと、後で観るのとでは全く解釈が変わってくるのではないか」と問うと、大島監督がその学生にどちらが先だといいと思うかと逆に聞き、その学生は『ひそひそ星』と答えた。大島監督は逆の反響を伝えつつも、その意見に大きくうなずいていた。
本作について大島監督は「自由に生きて、自由に表現をするということについて。それは素晴らしいと思う一方なかなか簡単なことではないんです。園さんとお付き合いしていると、これだけ自由に、好きなことを続けてやり続けていることのすごさを感じるんです。僕も表現する人間のひとりとして勇気とか力をもらいながら制作していました。」と語った。
最後に、本作を観た被写体・園子温が「正視できない。俺が(人に見られるのが)イヤなシーンばっかり人がおもしろがるんだよ」と語ったことを明かすと、学生からは大きな笑いが起きた。大島監督は「経験上、被写体が手放しで喜ぶものは観客にとっては力がなかったりするんです。それは被写体にとってイヤなものが映っているのか映っていないことだと思うので、今回の園さんの感想は褒め言葉として受け止めようと思います」と話し、講義は終了した。
映画『園子温という生きもの』は2016年5月14日(土)より新宿シネマカリテにて公開!
監督:大島新
出演:園子温、染谷将太、二階堂ふみ、田野邉尚人、安岡卓治、エリイ(Chim↑Pom)、神楽坂恵
配給:日活
2016年/日本/97分
©2016「園子温という生きもの」製作委員会
映画『ひそひそ星』は2016年5月14日(土)より新宿シネマカリテにて公開!
監督・脚本・プロデュース:園子温
出演:神楽坂恵、遠藤賢司、池田優斗、森康子、福島県双葉郡浪江町の皆様、福島県双葉郡富岡町の皆様、福島県南相馬市の皆様
配給:日活
2016年/日本/100分
© SION PRODUCTION