カンヌ国際映画祭部門への出品が決定している『海よりもまだ深く』の完成披露試写会が24日（日）に丸の内ピカデリーが行われ、阿部寛、真木よう子、吉澤太陽、樹木希林らキャストと是枝裕和監督が登壇した。

本作は、『そして父になる』『海街diary』がカンヌ国際映画祭コンペティション部門に正式出品された是枝監督の最新作で、本作も第69回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門に正式出品が決まっている。台風の夜に集まった“元家族”を描いており、嵐が去れば、またそれぞれの日常に戻ると分かっている彼らの想いが交錯し、“海よりもまだ深い”人生の愛し方を教えてくれる感動作。

今回、本作の完成披露試写会が行われ、主演の阿部寛ほかキャストと是枝監督が登壇した。カンヌ国際映画祭への出品が決まって以来、初めて勢ぞろいしたキャストらにより、本作の名言や映画祭への想いが語られた。

本作が是枝監督作品への参加が3作目となる阿部は「ここまでダメダメな男を演じるのは初めて。でも、こういう男ってどこか憎めなくてかわいいなって思い楽しんでやってました」と振り返った。阿部演じる良多の母を演じた樹木は「阿部寛くんのような似ても似つかない息子を産んだ母親役の樹木希林です」と挨拶し、会場からは笑いが起きた。

3作品連続での正式出品が決まったカンヌ国際映画祭について是枝監督は「本当に特別な場所なので、スタッフ、キャストとその時間を楽しめるといいなと思います」と話し、本作がリアルな日常を描いていることについて「そういうものが映画祭で上映していただけることを誇りに思います」と気持ちを答えた。樹木は、是枝監督の作品すべてに出演していることについて「義理でね」と冗談を交えて答え笑いを誘った。続けて「小さな団地のお話を世界のバイヤーが観てくれて、それを買ってくれて、園国で上映されるということはありがたいことだと思っています」と出品されることについての気持ちをコメントした。

外国の観客に見てもらいたいところを聞かれた阿部は「狭い空間で撮影を行ったんですけど、ぎゅうぎゅうになりながら撮影して、その距離感がすごくおもしろかった。どのくらい海外の方に笑っていただけるか、通じるかが楽しみです」と期待を込めた。同映画祭に初参加となる阿部にアドバイスを求められた樹木は「うちの息子はね、世が世なら、ローマ風呂に入っていたんだから。エヴェレストにも行ってるんだから」とコメントし、観客もキャストも大笑いとなった。

作品の話しに移り、ダメ男を演じた感想を聞かれた阿部は「自分がちょうど太陽くんくらいの年に、親戚とか近所のおじさんが昼間から仕事しないでという人が周りにいて、すごく観察していて、子どもは子どもなりに接していたんですね。でもなんか憎めなかったんですよ、そういう人が。だからそういうのが出てればいいなと思いながら演じました」と自らの経験を元に演じたことを明かした。また、自分と役の重なる部分を聞かれ「多かれ少なかれダメなところは誰にでもあって、共感する部分はたくさんありました」とコメントした。

そのダメ男・良多と離婚した響子役の真木は「変に緊張感の中でやったり、プレッシャーをかけることがない現場で、フラットな状態でお芝居をすることができました」とコメント。印象に残っているシーンを聞かれた真木は「私も貧乏育ちだったので、カルピスのアイスは懐かしかった」と意外な一面を見せた。

出演時小学六年生だった吉澤だが、是枝監督は子役には台本を渡さないと言い「その場で覚えるのは緊張しました」と振り返った。また、その場でセリフを教わるスタイルのため「試写を見たときに初めて物語が分かったので、撮影してから2年k何どんなストーリーか分からなかった」と明かした。

是枝監督が28歳まで暮らした東京・清瀬の団地で撮影されたことについて触れ、是枝監督は「最初は他の団地でと思ったんですけど、許可が出なくてやむを得ず･･･」と苦笑しながら告白。樹木は「撮っている最中に、『あら、是枝君偉くなっちゃったわね』と近所の方たちが言ってくれて」と撮影時のエピソードを語った。また、是枝監督は「お祝いをいただいて大事にしています」と明かした。

続けて、名言が多く含まれる本作にちなみ、印象に残っているセリフを聞かれると、阿部は「『なりたい大人になれると思ったら大間違いだぞ』というセリフ」と答え、吉澤は「『パパはなりたいものになれた？』と聞いているところで、自分で言ったセリフなのにうるっときた」と明かした。ここで、樹木が「あれ、私今いいこと言った？いいこと言ったわよね。ちょっと描いときなさいよ、今度のあんたの小説に使っていいわよ」と話し、「あのくだりがすごい好き（笑）」と突然セリフの一部を演じ、思わぬ展開に観客も聞き入っている様子だった。

最後に阿部から「良太という人物は、やっぱり自分に一番合ってるのかなと思います。何気ない日常なんですが、大きな事件が起きなくても、人の心は動いて、ハラハラドキドキといろんな感動がある。是枝さんの作品はセリフのないところにもいろんな人の生き方が映っていて素晴らしいと思っています。」と本作をアピールした。

なお、今回カンヌ国際映画祭に参加するのは阿部、真木、樹木、是枝監督の4名で、同映画祭への正式上映での参加は、是枝監督が6回目、真木と樹木は2回目、阿部は初参加となる。