富士山の北西に広がる青木ヶ原の樹海を舞台に、運命的な出会いを果たすアーサー(マシュー・マコノヒー)とタクミ(渡辺謙)。絶望の果てに、人生の終着点にしようと決め、日本にやってきたアーサー。そこで彼が出会ったタクミとは何者なのか―。なぜ、彼らは出会ったのか―。『ミルク』『グッド・ウィル・ハンティング』のガス・ヴァン・サント監督が生み出す驚きと感動に満ちた泣けるミステリー映画。
今回、本作のプレミアイベントに、ブロードウェイミュージカル「王様と私」が4月17日(日本時間)に幕を閉じたばかりの渡辺謙が、同ミュージカル公演後初の公の場に登場し、本作に出演した経緯や、撮影時のエピソードなどを語った。
本人の希望ということで客席から登場した渡辺。本作に出演した経緯について、初めのオファーは東日本大震災の直後だったこともあり、『その時の心境では余裕がなくて、留め置いてもらった。一昨年、ガス・ヴァン・サントがやりたいと手を上げ、シリアスで苦しい題材ながらも、ガスならメルヘンでセンチメンタルな映画にしてくれるだろうという直感があった。参加させて欲しいと言っているうちにアーサーをマシューが受けるとなって、諸手を挙げてやろうということになった』と語った。
ガス監督と初めてタッグを組んだ渡辺だが、その印象については「とても繊細でポソポソとしゃべる人かと思ったら、ざっくりした方で、映画を作る職人という感じだった」と語り、さらに「森の撮影では、彼の手書きのロケーションマップがあって番号が振ってあった。それで、どこから撮ろうかなーとさいころを転がす。『はー、そんなのでいいのかよ』って(笑)半分冗談なんですけど」と撮影時のエピソードを語った。
日本の樹海が舞台ということで、渡辺がアドバイスするシーンもあったということで「空き袋やジュースの缶なんかが散乱してる。日本で買って帰ったんでしょうけど、たまにハングルのものが混ざっていた。それを教えてあげたり、森の入口の鳥居の文字は、僕が書いたものを元に美術さんが作ったんですよ」と意外なエピソードを語った。
今回、本作で共演したマシュー・マコノヒーの来日は残念ながら叶わなかったものの、マシューからはビデオメッセージが到着しており、渡辺との共演について「自分が何者かをよく分かっているね。だから君からは威厳を感じるんだろう、王様のようだよ。」と、渡辺が出演していたミュージカル「王様と私」にかけたコメントをしたり、「しかも非常に面白い。あんなにユーモアがあって愉快な人とは知らなかった。撮影の合間の笑い話で気持ちが和んだよ。」と渡辺の意外な一面を披露した。それに対して渡辺は「似ているタイプの俳優だと思うんですよ。準備したものを出すんじゃなくて、生まれてくるものに関して的確に拾って返していく。その場で生まれるものを信じている。やりやすかったし、お互いプロの仕事をしているなと」とマシューの印象を語った。さらに撮影時には「撮影でずぶ濡れになり、濡れっぱなしで懐中電灯を渡されて、とぼとぼ歩いていたら、靴の中に水が入ってくちゃくちゃって音がするんですよ。おれたり何やってるんだろうなって笑い始めた」と振り返った。
続けて、東京の渋谷での撮影についてマシューは「ものすごい数の人がいてにぎやかだった」と印象を語ったが、マシューがいることには気づかれずに「僕に気づいて振り返ったのは300人中1人程度だ。もし君が渋谷の交差点を歩いていたら、300人中 299人が気づいただろう。“ケン!”と歓声が上がったりしてね。役名は“タクミ”だし現場が混乱したはずだ」と笑いを交えたコメント。
本作では、劇中で渡辺が歌声を披露しているが、そのことについてマシューは「いまいましいほど歌が上手なんだよ。みんなは聴いたことある?聴きたい?」と煽るが、渡辺は苦笑しながら歌うのを拒否。続けてマシューは「今度 君と共演する時はアクション映画をやるより一緒に歌って踊りたいね、ミュージカルをやろう。デュエットするんだよ。きっと楽しい共同作業になる。」と提案した。
最後のメッセージでは、渡辺に孫が生まれたことに触れ「おめでとう。ケンが家族を大切にしてるのは知ってる。君の血を受け継ぐ人間が増えるのは喜ばしいことだ。」と祝い、さらに「今度は子ども交えて会おう」と話すマシューに笑いながら、メッセージが終わると「僕のことをユーモアがあると言っていましたけど、そっくりそのままマシューに返すよ」とコメントした。
最後に「今回の熊本での震災や難民問題やテロなどが様々な問題が多発する中で、安住の地はどこにあるのんだろう、どうやったらそこへ辿りつけるんだろうと、みんな悩み続けていると思います。その中で、どうやって死というものを受け止めるのか。どうやって大切な人を自分の中に生かし続けさせるのか、ガスが優しく描いています。この映画はふと立ち止まって観てもらいたい映画です。こうしなければいけないとかこうあるべきだと、今世の中でがんじがらめになっていることが多いと思うんです。だけど、一旦立ち止まって、今自分の周りには誰がいるのか、誰が支えてくれるのかを確認し、ゆっくりと歩みを進めていただける作品となっていると思います」とメッセージを贈った。
映画『追憶の森』は2016年4月29日(金)より全国で公開!
監督:ガス・ヴァン・サント
出演:マシュー・マコノヒー、渡辺謙、ナオミ・ワッツ
提供:パルコ、ハピネット
配給:東宝東和
2015年/アメリカ/110分
©2015 Grand Experiment, LLC.