是枝裕和監督最新作『海よりもまだ深く』の公開を記念して8日（日）の“母の日”にトークイベントが行われ、主演の阿部寛と母親役を演じた樹木希林、主題歌を歌うハナレグミの永積崇、是枝裕和監督が登壇した。

『そして父になる』『海街diary』に続いてカンヌ国際映画祭への出品が決まった本作で、是枝監督が​描いたものは“なりたかった大人”になれなかった大人たちの物語。​国民的名優となった阿部寛を主演に迎え、真木よう子、小林聡美、リリー・フランキー、池松壮亮、吉澤太陽、橋爪功、樹木希林と豪華キャストが名を連ねる。

今回5月8日（日）の“母の日”に行われた舞台挨拶に、本作でダメな息子とそんな息子をいつまでも愛する母親役を演じる阿部寛と樹木希林、そして本作の主題歌を歌うハナレグミの永積崇と是枝裕和監督が登壇し、“母の日”にちなんだ演出を含めながらトークイベントが行われた。　

快晴に恵まれたこの日、登壇した阿部は「本当に天気のいい日に是枝監督出身の団地で見守られながら家族の話を撮りました」と挨拶、樹木は「いま脇のところをタクシーで通ったら、何人も何人も階段のところで待ってるの。もと取れなかったらごめんなさいね」と挨拶し笑いを誘った。主題歌を担当した永積は「こういうところが初めてなので何を話したらいいのか分からない」と戸惑いながらも「自分のことを振り返りながら音楽をつけさせていただきました」と参加したときの思いを語った。是枝監督は「母親が亡くなって10年くらい経つんですけど、ほとんど母の日に何かを贈ったとか記憶がございません。代わりにこんな形で、自分の映画の中で母親役をやっていただいた希林さんとここに立ち、母が暮らしていた団地で撮った映画を上映するというのは、何かの罪滅ぼしにはなってるかなという気がして、特別な日になりそうです」と挨拶した。

役柄を聞かれたダメ男を演じる阿部は「いつまでも母親のすねをかじっているダメ男なんですけれども」と前置いた上で「やってるうちに、こういう人いたなとか自分の中でいろんなものが芽生えてきました。自分の中でいろんなダメなところがあって、そういうところを思い出しながら演じました」と振り返った。役作りについては「本当に台本がよかった。アドリブとか一切なしにやっていた」と語った。

撮影現場での様子を聞かれた樹木は「いつもいいんですよ、とがってないから誰も。私一人でとがってるという感じで（笑）」とコメントした。

本作では、是枝監督が幼少期から28歳までを過ごした団地で撮影されているが、是枝監督は「僕が歩いた団地の遊歩道を、希林さん演じる母親が、まだ大器晩成だと思っている息子（阿部）と歩いているというのは、自分の人生にタイムマシンで戻って立ち会っているような気持ちだった。出来上がった映画を観てもそんな気がする。自伝ではないんですけど、非常に特別な映画になったなと思っているので、観た方がどう共有してくれるか非常に気になりますし、外国の方が観たときに団地ってどう映るんだろうなということを含めて楽しみにしています」と語った。

本作に書き下ろしの「深呼吸」を提供したハナレグミの永積は「音楽をつけさせていただいたときにはほぼ映像が出来上がっていたので、何度も何度も観て、汲み取っていって音をつけられたので、いい音になったと思っている」とコメント。初めて楽曲を聞いた感想について是枝監督は「一度録音スタジオに立ち合わせてもらったとき、メロディーラインだけ録音したハミングだけで言ったスタッフがみんな感動しちゃって、この歌で終わるのがすごい嬉しかったです」とコメント。それに対して樹木は「感動は分からなかったです。こういうのが好きなんだなって思いました」とコメントすると、阿部は「僕は感動しましたよ！僕のやった役を救ってくれるような温かい曲だったので感動しました」とフォローし、場内からは笑いが起きた。

是枝監督の『歩いても歩いても』（2008）以来、2度目となる阿部と樹木が親子を演じる本作だが、団地での撮影ということもあり狭い空間でもあり、阿部は「至近距離でがっつりと長いシーンがあったりして、この距離で出気宇ｒのはすごくうれしかったですね」と振り返ったが、樹木は「私は圧迫感がありました」と応え、会場は笑いに包まれた。

本作では阿部がダメ息子を演じるが、3人の男性登壇者は自分がダメ息子だと感じる瞬間を聞かれ、阿部は「監督と同じようにカーネーションとかも渡したことがなかったですね。母親には映画と同じように、わがままだったり冷たかったりしてたと思います」と答え、永積は「お金を借りたまま返してないことが結構あります。帰るたびに『お金返しなさいよ』って言われます。今でも･･･」と苦々しく語った。是枝監督は「映画でも息子が母親にお小遣いをあげるシーンが出てきて、『歩いても歩いても』でも出てくるんです。なんで繰り返しそういうシーンを描いているかというと、ほとんどあげたことがないんですけど、40歳近くになって一度だけお小遣いをあげたら信じられないくらい喜んでくれた。こんなに喜ぶんだったらもっと早くあげればよかった」と語った。

続けて、男性登壇者3名から樹木に200本のカーネーションの花束が贈呈され、「こんな花買うお金があったらどうにかならないの」と言いながらも「でも、ありがとう！」と笑顔で受け取った。その後、「だけど渡し一人でこんなに持って、どうしたらいいの？」と話し、突然観客にカーネーションを配り始める場面もあった。

最後に、是枝監督は「出てくるシーン全てがみなさんの人生にあるような何気ない、あるいは平凡なシーンだと思いますが、それがこの役者さんたちが演じることで、すごくかけがえのないものだと思える映画になったのではないかと思います」と本作をアピールした。