第69回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門に正式出品され、阿部寛、樹木希林、真木よう子、是枝裕和監督が出席した公式上映では、約7分間にわたるスタンディングオベーションを受けた。3作品連続でカンヌ国際映画祭への出品となった是枝監督が本作で描くのは、“なりたかった大人”になれなかった大人たちの物語。かなわぬ夢ばかり追い続ける情けない主人公・良多を阿部寛、そんな良多に愛想をつかして息子と出て行った元妻・響子を真木よう子、良多の人生を穏やかなまなざし手見つめる母・淑子を樹木希林が演じる。
今回は永積と是枝監督のみでのイベントということもあり、是枝監督は「ふたりで話すのはなかなかないよね。話したいこともあるけど、せっかくたくさんのお客さんに来ていただいているので質問があれば・・・」と言うと、話し終わるまもなく観客から手が上がった。
子ども時代のことを聞かれた是枝監督は「樹木希林さんにどんな子どもだったのか聞かれて、通信簿に『子どもらしい伸びやかさに欠ける』って書かれたことを話したら、その後3回くらい突っ込まれた(笑)学級委員をするのが当たり前で、子どもらしくない子どもだった」と振り返り、「やんちゃができるとよかった。スカートめくりとかあったでしょ。僕がやったら問題になるんじゃないかと(笑)」と語った。また、劇中で吉澤太陽演じる白石真悟について「イコールではないけど、大人よりも大人びた、子どもらしさに欠けている」ところが自身に似ていると語った。
親と似ている部分を聞かれると永積は「父親と似ているとよく言われる。居かたが汚いって(苦笑)」と話し、是枝監督は「おきたときの枕の臭いが、嗅いだことあるぞってなる・・・」と苦笑い。
曲作りに話しが及び、永積は「何度も何度も映画を観て、自分と重なる部分があった。良多のだめなところ、お母さんが言う言葉。一個一個が自分の時間と重なっていた」と振り返った。また、是枝監督は日常生活では「観察をしている」と話し、「飛行機で隣になった人がどこへ何しにいくんだろうとか、限られた情報の中で、切り取られた断片で探っていく」と語った。
本作のタイトル『海よりもまだ深く』をテレサ・テンの「別れの予感」から採用したことについて是枝監督は「内容からではなくて、先にタイトルをつけた」と話し、ストーリーに関しては「夜中に父親の仏壇を掃除するシーンを考え、そこを母親の実家にしよう、台風で帰らないようにしよう、曲がかかって母親と話すことにしよう」と決めていったことを明かした。また、「別れの予感」については、代表的な曲ではないけど好きな曲とコメントした。
本作での印象的なシーンで、“カレーうどん”が出てくるが、その選択について是枝監督は「母親が作ってくれたのが大きい」と答え、「夜中に作ってくれたんだけど、夜中にカレーうどんは重いじゃないですか。でもせっかく夜中に起きてるから申し訳ないなって思うんです。そうやって作ってもらったのは記憶に残ってる」と振り返り、また「シャツに飛ばしたかった」と話し、場内からは笑いが起きた。
最後に是枝監督は「あまりメッセージのないものを作りたいと思ってるんですけど、今回はいつかなくなってしまうものへの愛情があります」とメッセージを贈った。
映画『海よりもまだ深く』は2016年5月21日(土)より新宿ピカデリー、丸の内ピカデリーほか全国で公開!
原案・監督・脚本:是枝裕和
出演:阿部寛、真木よう子、小林聡美、リリー・フランキー、池松壮亮、吉澤太陽、橋爪功、樹木希林
配給:ギャガ
©2016フジテレビジョン バンダイビジュアル AOI Pro. ギャガ