愛と呼ぶにはあまりに危険で切ない男と女のサスペンスである本作。心の隙間に入ってきた美容師への抑えきれない執着から、徐々にストーカー化していく主婦役を常盤貴子、その対象となる美容師役を池松壮亮が演じる。メガホンを取るのは、ベルリン国際映画祭銀熊賞をはじめ世界中で多くの映画賞を受賞している東陽一監督。スマートフォンが普及し、SNSで簡単に人と繋がれ、他人の動向が追えてしまうこの時代。どこにでもいる主婦に、本当は何があったのか―。それに気づいた時、観る者の心にある孤独が解き放たれていく。
今回行われた舞台挨拶には、常盤貴子、池松壮亮、東陽一監督の3名が登壇し、初日を迎えた心境や、本作への思いを語った。
ストーカーのようになる主婦・小夜子役を演じる常盤は「今日出会った人、接した人、すれ違った人の見え方が違ってくるだろう映画だと思います」と挨拶。また「もやもやを楽しんでいただきたい」とアピールした。
劇中で池松演じる美容師・海斗役への執着が強くなる小夜子だが、常盤は「現代社会に住んでいる孤独」を感じたと話す。また、海斗の小夜子に対する思いについて、池松は「抱えているものに何かをしてあげたいというのも違うし、拒否するのも違う。人はストーカーと呼ぶかもしれないけど、割とまっとうなことなのかも」と自身の解釈を語った。
ストーカーとは一言で言い表せない役どころの常盤だが演じるうえでは「異常に見せることはしたくないと思った」と振り返る。「異常に見せるやり方はいろいろあるし、分かりやすいストーカー像を演じることはできたけど、人間の想像力はとても豊かだと思うので、その想像力の中でみてくだされば」と考えを語った。またその演じ方について「東監督の映画だから出来る挑戦」と信頼を明かした。東監督も演技については「言う必要はなかった」と話し、「OKをもらった段階で決まっている」と互いの信頼関係が大切なことを改めて語った。
劇中では悩み、孤独を感じるシーンもある二人だが、個人として孤独への向き合い方を聞かれた常盤は「孤独が好き」と明かしたうえで「孤独な状況を楽しむタイプで、部屋の明かりを暗くしたり、孤独な状況を最大限にする。『わー』って大泣きしてみたりとか、でも誰にも届かない。おもしろいなって思う。楽しんじゃうってことは孤独が足りてないんですね」とコメント。池松も「一人が大好きだし平気ですけど、誰かに会いたくなったり、寂しくなったり、満たされてない気持ちになったりもする。にぎやかに孤独を持っていたい」と語った。
今回東監督作品に参加することが出来てうれしく思うと語っている二人だが、常盤は「こんな日が来ることを20代の私に教えてあげたい」と喜びを表現し「こんな出会いがこの後もあるならがんばっていきたい」と抱負を語った。今年9本の映画が公開される池松は「手ごたえを感じてないから9本をやれる(笑)」を冗談めかしてコメントし、「初日を迎えられて、ひとつ夢が叶っちゃったのでどうしようかなと思っています」と本作との出会いを喜んだ。
最後に常盤は「不倫について語り合うことがあると思うんですけど、不倫の境界線ってどこなんだろうと考えたりしている。人の頭に入り込むことはできないし、その中で何が起こっているかは誰にも分からない。そういうことを考えさせてくれる映画だと思います」と本作をアピールした。
映画『だれかの木琴』は2016年9月10日(土)より有楽町スバル座、シネマーと新宿ほか全国で公開!
監督・脚本・編集:東陽一
原作:井上荒野「だれかの木琴」(幻冬舎文庫)
出演:常盤貴子、池松壮亮、佐津川愛美、勝村政信
配給:キノフィルムズ
© 2016 『だれかの木琴』製作委員会