これまでに繊細なドラマを描き続けたアニメーション作家の新海誠が、満を持して送る夏にぴったりの長編アニメーション映画に仕上がっている。『秒速5センチメートル』(2007)や『言の葉の庭』(2013)で描かれたような美しい風景や細かい表情。その独特の空気はもれなく受け継がれており、本作でさらに世界が広がった。加えて、作画監督にはスタジオジブリ作品を手掛ける安藤雅司、さらに『心が叫びたがってるんだ。』(2015)が記憶に新しい田中将賀がキャラクターデザインを担当するなど豪華スタッフが勢ぞろいしている。本作ではロックバンドのRADWIMPSの楽曲が主題歌や挿入歌として使用されている。このおかげでアニメーションではなく実写映画を見ているような感覚になる。そのどれもが本作に合っており、作品の一部であることは間違いない。
都会に憧れる女子高生と、東京で暮らす男子高校生が、夢の中で入れ替わる。恋愛ドラマでもあり、ファンタジーでもあるのだが、この何気ない日常の一コマが大きな物語へと展開していく。それは非常に巧妙で、かつリアリティがあり、まるで実写のような背景がそれに拍車をかける。おそらく誰もが驚くであろう展開だが、あまりに現実離れしてしまうと見ている側の気持ちも離れてしまいがちだが、観客の気持ちを抑えた要素がふんだんに盛り込まれており、がっちりと“新海ワールド”に飲み込まれてしまう。絶妙な距離感を知っている新海監督に踊らされているかのようだ。その設定の細かさも、魅力の一つだろう。
恐らく初めて見たときの衝撃は計り知れないものになるだろう。失う運命にあるもの、そしてその中から救い出せるもの。誰もが思う、あの時こうしていれば未来は変わったのか?それとも変えることは出来ないのか。ファンタジーなアニメーションではあるが、多くの人の心に残る、そして忘れていた何かが思い出されるきっかけになる作品だろう。語り継がれるべき傑作映画。
(text:編集部)
映画『君の名は。』は2016年8月26日(金)より全国で公開! 監督:新海誠 声の出演:神木隆之介、上白石萌音、成田凌、悠木碧、島崎信長、石川界人、谷花音、長澤まさみ、市原悦子 配給:東宝 2016年/日本/130分 |
(C)2016「君の名は。」製作委員会