数々のヒット作を生み続ける名匠・堤幸彦監督が20年来温めてきたアイデアを映画化した本作。日本人の誰もが愛する“温泉”を舞台に、旅をしながら事件の謎を解決するミステリー。濃すぎるキャラに、とめどなく繰り出されるハイブローなギャグ、2時間サスペンス風味、ちょっぴりエロス、ラブ少々―。世間をザワつかせた衝撃の連続ドラマが仰天の映画化される。ヨレヨレの帽子にしわだらけの着物と袴をまとう朝永蘭丸(向井理)、ウザカワ女・甕棺墓光(木村文乃)、冷静沈着なツッコミおじさん宮沢寛治(佐藤二朗)ら強力なキャラクターが集結。さらに蘭丸の“口に合う”運命の女性役を木村多江、他に市原隼人、黒谷友香、財前直見らが新キャラクターを演じる。
ロケ地・静岡県裾野市某所に着くと、そこにいたのは道の端に怪しいいでたちをした白髪の老婆たち。彼女たちは横溝系ミステリーの雰囲気を盛り上げる重要な登場人物だ。この日は、旅の途中行き倒れた蘭丸が介抱してもらった鬼灯村で死体が発見され、現場検証が行われるシーン。今回はいつもの堤組とは違う新しいメンバーが参加するなど新しい試みもあるが、堤幸彦監督特有の笑いは健在の様子。「映画化することはある種の勝負と賭けになる」と、ドラマ映画化に関して語る堤監督。医者役の木村多江が、陥没穴から発見された死体を検死するシリアスな場面であるにもかかわらず、堤監督が次々ギャグを足して面白いシーンになっていく。「(死後)硬直がすごい」と言うとき、死体のズボンのジッパーを下げるという下ネタを提案する堤。佐藤が「やめろ」とぼそり、ツッコむ。木村多江は、こんなことをやらされているにもかかわらず「自分だけ笑いが少ないのではないか」と心配していたらしい。
あらゆる俳優たちに面白いことを付け足す堤監督は、木村文乃には死体を引っ張るときにパントマイムの動きをするようにリクエストし、岡本信人には野草を持たせ、刑事役の落合が話すとき、フランス語の発音のように語尾に「ウイ」をつけるように提案した。堤作品に3度目の出演となる落合は器用にすぐやってみせて、笑いをとる。結果的にその案は別の形に変わっていったが、その都度食らい付いていくのはさすがだ。とにかく、村の人たちはエキセントリックに描かれていて、青年団の人たちはそろってウエスタンふうの格好をしている。とりわけ市原隼人は頭の先からつま先までかっこよくウエスタンを着こなしていて、それが逆に面白い。
堤演出はまだまだ続く。人が死んだのは「鬼子の呪い」であると騒ぐ8人の老婆たちは輪になって「かごめかごめ」を歌い踊り出す。あまりの迫力に、練習の時は、小鳥のさえずりがぴたりと止まってしまったそうだ。見ていた佐藤も「この村を出ようと思うな・・・」と目をそらした。老婆たちの踊りには通常バージョンと倍速バージョンがあって、編集で倍速にするのではなく実際、老婆たちが2パターンやっていた。彼女たちは、故・蜷川幸雄が率いていた高齢者劇団の俳優たちで、海外公演にも進出し好評の実力派。そのため「かごめかごめ」も本気度が高い。途中でスタッフが止めても、勢いがついて止まらない一幕もあった。老婆たちの快進撃は止まらない。犯人は「りん(木村多江)だ」と騒ぐ台詞で監督は「リンダ」と言わせ、「リンダ」「リンダ」の大合唱。ひとりの老婆に「山本リンダ」と言わせた監督は、佐藤と木村文乃にそれを聞いて「コケて」と指示。佐藤と木村文乃が息を合わせて小さくコケる。もう何がなんだか。
この混沌の中、向井理はほぼ9頭身の身体で呆然と立ち尽くしているようにも見受けられたが、起っている出来事に的確なリアクションをして、自分のやるべき仕事を黙々とやる生真面目さを見せる。人が死んで過剰に悲しむとき、右手で右足を叩いて辛さを表現していた。そんな繊細さとは真逆な老婆たちのおどろおどろしい暗黒舞踏のようなアングラ芝居のようなアクションがこれでもかと続き、佐藤が向井を「(老婆は)こわくないこわくない大丈夫」と冗談めかしてあやしているという一幕も。何度か共演経験のあるふたりは仲が良さそうだ。
次々にアイデアが浮かび出す堤監督の演出について向井は「もちろんいい意味ですけど、わけのわからなさも合わせて映画はもっとスケールアップしていて、監督の世界感がすごく飛び抜けている。僕も被害者のうちのひとりです(笑)」と言い、木村は「ドラマが終わって映画がインするまで2週間ありましたが、(その間)癒えた傷がまたえぐられるなって気持ちです(笑)私だけでなく、スタッフのみなさんも、同じような挑戦状を渡されてがんばっているから、私も恥ずかしいとか個人的な問題を置いて、楽しくやっていかないといけない」とコメント。一方、佐藤は「僕はわりとまともな役なのでぼーっと観ています。連ドラの三倍くらい輪をかけて強烈な方たちがでてくるので見ているだけで楽しいです。木村多江ちゃんも市原隼人くんも財前直見さんも、みんなこんなことやってくれるのかなっていうような堤さんの特殊な演出を、嬉々としてやっています。ほかの作品では見られない非常に貴重な姿が見られると思います」と役柄同様、超マイペースなコメントを寄せている。
堤監督の無茶ぶりが炸裂した演出をキャスト全員が楽しみつつ対応できるのも、個々の高い俳優スキルとチームワークがあるからこそ成せることだろう。このように極めて現実離れしている村の様子だが、役場の車に「たばこは地元で買いましょう」「マイナンバーを作ろう」「故郷納税で4LDK」などと書いてあり、ぴりっとくすりと社会風刺になっているところも堤作品らしい。
とにもかくにも、抜群のチームワークで、堤幸彦らしい一風変わったミステリー映画が誕生しそうだ。
映画『RANMARU 神の舌を持つ男 酒蔵若旦那怪死事件の影に潜むテキサス男とボヘミアン女将、そして美人村医者を追い詰める謎のかごめかごめ老婆軍団と三賢者の村の呪いに2サスマニアwithミヤケンとゴッドタン、ベロンチョアドベンチャー!略して・・・蘭丸は二度死ぬ。鬼灯デスロード編』は2016年12月3日(土)より全国で公開!
監督:堤幸彦
出演:向井理、木村文乃、佐藤二朗、岡本信人、渡辺哲、矢島健一、春海四方、落合モトキ、永瀬匡、中野英雄、市原隼人、黒谷友香、財前直見、木村多江
配給:松竹
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