『ゆれる』(2006)『ディア・ドクター』(2009)『夢売るふたり』(2012)の西川美和監督が、『おくりびと』(2008)以来の映画主演となる本木雅弘を迎え、直木賞候補となった自らの小説を映画化した本作。人気作家の幸夫は、妻が親友とともに不慮の事故で亡くなった時、不倫相手と密会していた。ある日、妻の親友の夫・陽一とその子どもたちに出会った幸男は、幼い彼らの世話を買って出る。誰かのために生きる幸せを初めて知った幸男だが―。主人公の衣笠幸夫役に本木雅弘、さらにミュージシャンの竹原ピストルのほか、池松壮亮、黒木華、山田真歩、堀内敬子、深津絵里などの実力派俳優が名を連ねる。さらに現在開催されている第41回トロント国際映画祭のスペシャル・プレゼンテーション部門に出品され、10月に開催される第21回釜山国際映画祭「A Window of Asian Cinema」部門にも出品されることが決定している。
今回の舞台挨拶には、本木雅弘、竹原ピストル、藤田健心、白鳥玉季、山田真歩らキャスト5名と西川美和監督が登壇した。
15歳での役者デビューから35年が経ったという本木は「幸せな夫と書いて“幸夫”、とても愛着を持っています」と自身の役名を気に入っている様子で笑みを浮かべた。子役の白鳥は「私は西川組が大好きです。もっと一緒に撮影がしたいので、監督!また選んでください!」と大きな声でアピール。西川監督もたじたじになり「分かりました」と返事をした。その西川監督は、MCから映画の完成とともに先日25年ぶりの優勝を決めた広島カープについて触れられると「ありがとうございます!」と満面の笑みで答え、カープの“鉄人”と呼ばれた衣笠祥雄と、本作の主人公が漢字違いの同名であることについて「もう神ってます。ドームで優勝の胴上げを見せていただいて、この年に公開されるべくして公開されたなと強く思いました」と語った。
続けて本作のアイデアの源について聞かれた西川監督は「発案は2011年の震災の年の暮れくらい。いろんな方が、突然大切な人を亡くしたり、思いもしなかった別れを経験した」ことがきっかけだと振り返る。また「自分自身も普段触れ合っている仲間たちや家族に対して、どのような言葉をかけているかな、大事にしなくてはいけないときに、声をかけそびれているなというところから」本作が生まれたという。また、本作の元となった小説も西川監督自身の手によるものだが、その取材過程で、自身には子どもがいないため「実際に子どもがいる友達の家を何軒か尋ねて泊めていただいた。子どもがいない人間が、お子さんがいる生活に入った時にどんなことを感じるのか」などを身をもって体験したと語った。
劇中では、妻を亡くしても涙すら流せない主人公を演じた本木だが、自身と重なる部分について「見てそのまま自意識の塊であるとことですね」とコメント。「正直なようで屈折している、人を信じたいけど信じきれない、そういう歪みを持っている。不完全さが自分とそっくりでした」と語った。また、西川監督の演出は「鞭を打たれるような演出だった」と振り返り、「『本木さん、そこはまだ我慢して、そんなに簡単に台詞を吐き出さない』といった感じで、非常に静かに、でもサディスティックに責められた。いま思い出すとあのエクスタシーを忘れられなくて、もう一度幸夫になっちゃおうかと思いますね」と明かし、笑いを誘った。
その本木が演じる幸夫を見ていた西川監督は「映画やCM、ドラマの本木さんしか存じ上げなかったので、まさかここまで主人公に似ているとは思っていなかった」と驚いていた様子で「気恥ずかしさを背負うし、難しさもあったと思う」と本木の気持ちを代弁するような場面も。また「(本木の)奥様が置いてある台本を読んで『これ、あなたにそっくりよ』と言ってくださったらしいんです。じゃあ大丈夫だと」と安心につながったことを明かした。また、本木の作品に対して真剣に取り組む姿勢が「長い時間一人で作品を書いてきた私にとって、一緒に舟をこいでくれる間柄になったと思う」と感謝の気持ちを述べた。
子役の藤田は「(自身が演じる)真平の雰囲気を理解するのをがんばった」と語ったが、本木は「健心くんは声変わりしました」と撮影時とこの舞台挨拶での声の違いを明かした。また同じく子役の白鳥はがんばったシーンとして「自転車のシーン」を挙げ、「スピードが速すぎて、幸夫くんの頭になんかもぶつけてしまいました。でもそれがちょっと楽しかったです」と笑顔で話し、幸夫役の本木は「とってもよかったよ」とメロメロの様子。また白鳥は、クリスマスに本木がうさぎのぬいぐるみをくれたことを明かした。
次に、本作のタイトルにちなみ、今だから言える“言い訳”を聞かれ、本木は「珍しく濡れ場があり、黒木華さんを相手に一生懸命腰を振らせていただいた。テストを含めて250回くらい。その中で勢い余って、黒木さんの耳たぶを舐めてしまったということがありました」と明かすと場内からは大きな笑いが起きた。さらにその理由を「最近の映画界の濡れ場キングの池松壮亮さんに負けたくないなという思いがあった」と話し、さらに笑いが起きた。また、共演した竹原については非常に称賛しており、眠れない夜に竹原の歌を聞いていた時に「隣にいた妻が『本当に恋してるの?』と軽く嫉妬していた」と明かし、笑いを誘った。
最後に本木は「監督の母性や優しさを感じました。立場によって受け止め方が異なる、とても興味深い映画だと思います」とアピールした。
映画『永い言い訳』は2016年10月14日(金)より全国で公開!
原作・脚本・監督:西川美和
出演:本木雅弘、竹原ピストル、藤田健心、白鳥玉季、堀内敬子、池松壮亮、黒木華、山田真歩、深津絵里
配給:アスミック・エース
(C)2016「永い言い訳」製作委員会