世界の秋の新作品を中心に、期待の若手から充実のベテランまで、個性豊かな作品が結集して賞を競うのがこのTIFFコンペティション部門では「世界の今」を感じることができる。本作は、挫折した映画監督の男が借金と離婚問題に悩むなか、認知症の父親が脱皮し若返っていくという奇想天外な物語。香港の大スターを配した話題作。
客席で本作の上映を観ていた監督は「皆さんありがとうございました。本当に素晴らしい経験です。この場で何を言ってよいのかわからなくなりました。感動しました」と挨拶した。原作者の佃典彦は中国映画のため唯一の日本人登壇者だったで「僕だけ日本人です(笑)元々、お芝居の台本だったのをシナリオに直しました。香港の大スターに演じてもらい、ロイにもいい映画にしてもらった。皆様もこの映画を愛してください」と会場を沸かせた。そして今回緊急登壇となったのは、フランシス・ンと彼の息子。本作では親子で共演していてQ&Aの最中に優しく息子を抱きかかえていた。「観ているうちに撮影当時のどれだけ大変だったのか思い出した。私は歌が下手なのですが、映画の中で自分の息子と歌うことができて嬉しい」と語った。そして、今回フランシスと親子の役だったルイス・クーは「実は撮影しているときにフランシスが家にやってきて自分の父親と一緒にご飯を食べて、色んな心の悩みを語りあって、それを見ていてフランシスが自分の父親と似てきたなと思った」と裏話を披露した。
本作は豪華な面々が揃った夢のキャスティングとなっているがそのことについてロイ監督は「フランシスがいてくれたから。彼は今まで仕事をしてきた中でとにかく素晴らしい俳優で、協力的で要求以上のことをしてくれる。今回この役は彼しかいないと思った。フランシスのキャスティングが決まったおかげでルイスに結びついた。彼はとてもプロフェッショナルな役者で我々に色んなものを与えてくれた。こうして段々とドリームキャストが決まっていった」と語った。フランシスもルイスもとても人気な俳優のため彼らが登壇してから会場からは黄色い声援が多く聞こえた。
また、父親役のフランシスが脱皮してどんどん若返る役なのだが、演じる上でどの点が難しかったのかを司会者から聞かれると、フランシスもルイスも年が非常に近いためどう親子関係を演じるのかが難しかったと答えた。また、ルイスは「父親をぶつシーンで演じる前に本当の父親をぶつのかなと考えました。実は脚本の中には書いていないのですが、ぶつときに母親の遺影を目にしてつらいと感じ難しかった」と奮闘した様子を語った。
【取材・文/片岡由布子】
第29回東京国際映画祭は2016年10月25日(火)~11月3日(木)に六本木ヒルズ、EXシアター六本木ほかで開催!
©2016 TIFF