本作は、北欧の少数民族サーミ人の少女を描いた感動作。11月3日に閉幕した第29回東京国際映画祭コンペティション部門でアジアン・プレミア上映され、審査員特別賞と最優秀女優賞をW受賞した。主役の少女を演じたレーネ=セシリア・スパルロク自身は純粋な南サーミ人で、普段はトナカイの世話をしながら暮らしているという。今回の来日も、トナカイの世話があるからと一度は断ったが、家族からの後押しによって実現した。
受賞を受け、スパルロクは「実の妹と一緒に映画に出演し彼女がいたから演じることができました」と語り、ケンネル監督は「東京で観客の方と話しました。この映画は鏡のようなもので文化も違う観客の方が自分の物語だと感想を語ってくれます」と語った。また、審査員長のジャン=ジャック・ベネックスは主演のスパルロクについて「彼女がスクリーンに現れた瞬間から釘付けになった。ナチュラルでいて、長い演説よりも強烈に人種差別の愚かしさを思わせる」と絶賛した。
1930年代、スウェーデン北部の山間部で暮らすサーミ人は、劣等民族とみなされ差別的な扱いを受けていた。中学生のエレ・マリャは成績も良く 街の高校に進学したかったが、先生にサーミ人には進学する資格がないと言われる。民族衣装を着ることを押し付けられ、見世物のようにテントで暮らすことを強いられる生活からなんとか脱したいと思っていたエレは、村の夏祭りのダンス大会で出会ったスウェーデン人の少年ニコラスと束の間の恋に落ちる。そのニコラスを頼ってエレは家出をするのだった。
ケンネル監督自身がサーミ人の父とスウェーデン人の母の間に生まれたダブルで、祖母のルーツをテーマとする初長編作となる本作を撮った。監督曰く「支配階級と劣等民族の構図はまだ存在します。映画はスウェーデン史の暗部を描いていますが、でも基本的には、同様なことが現在でも難民キャンプで暮らす誰かに起こりうるのです」。本作は、ラップランドの美しい自然の中で描かれる少女の成長物語であり、差別に抗い生き抜く普遍的なテーマを訴える感動作である。
『サーミ・ブラッド(原題)』
監督:アマンダ・ケンネル
出演:レーネ=セシリア・スパルロク、ミーア=エリーカ・スパルロク、マイ=ドリス・リンピ、ユリウス・フレイシャンデル、オッレ・サッリ、ハンナ・アーストロム、マーリン・クレーピン、アンドレアス・クンドレル、イルヴァ・グスタフソン
配給:アップリンク
2016年/スウェーデン、デンマーク、ノルウェー/112分