本作の感想を問われると「2、3回見直して、面白いというか何というか不思議な映画ですね。ヒッチコックという作家が現代と接続されたなと。改めてフィルムグラフィーを考え直してみると1920~70年代に映画を作り続けて、すべての時代に代表作があって、なんてバケモノみたいな監督なんだろう」と驚きを見せた深田監督。
ヒッチコック映画術に影響を受けた10人の現代の映画監督が参加していることによって、この本とどこが変わった印象があるか問われると「見方がすごく多角的になった。トリュフォーという一人の視点ではなくてみんないろいろ。より多角的に立体的にヒッチコックが語られるようになったと思う」と話した。
「深田がもし12人目だとしたら何を話すか」と松崎が温めておいた質問を投げかけると「そんなのは恐れ多い。好きでヒッチコックを見て来ているが、当然そんなに語れるほど専門ではない・・・」と話す。このトークショーの前の移動時間にヒッチコックのことを考えすぎたようで「10秒くらい寝た瞬間に変な夢を見て、黒沢清監督がヒッチコックの仲介で若い女優を紹介されて結婚しているという謎の夢をみてしまった」と自身がノイローゼ気味だったことを明かし、会場は笑いに包まれた。
松崎が深田の作品では窓が重要だと語ると、深田は「これはシネフィル的な自意識というか趣味で、やっぱり窓って良いなと思う。これはフレーム内フレームで、スクリーンのフレームの中で絵を限定して見せることができる」これは海外でも窓は重要な要素をもっていると語った。ヒッチコックの作品である『裏窓』について「窓フェチにとってたまらない。2時間でも3時間でも観ていられる」と自身が“窓フェチ”であることを明かした。
深田の監督作品で『淵に立つ』について「ある重要な人物が途中から出て来なくなるが、その人が不在のまま常に画面の中を支配しているような雰囲気をつくらなきゃいけなかった」と語り、これはヒッチコックの『レベッカ』を意識したと明かしたが「これ(『ヒッチコック/トリュフォー』)を観ていたら、黒沢清監督が“ヒッチコックのマネをしてはいけない“とかなんとか言っていて、やばい・・・やばい・・・と思いましたけど、インスパイアされただけですよ」と話し、会場を笑わせた。
1962年、フランソワ・トリュフォー監督が敬愛する偉大な監督アルフレッド・ヒッチコックにインタビューをさせてほしいと熱望し、2人は意気投合して長時間のインタビューが実現した。そして生まれた「Hitchcock/Truffaut」(「定本 映画術 ヒッチコック/トリュフォー」山田宏一・蓮實重彦訳)は、“映画の教科書”としてクリエイターのバイブルとなっている。本作は、当時の貴重なテープと、ヒッチコックを慕う10人のフィルムメーカーたち、マーティン・スコセッシ、デビッド・フィンチャー、黒沢清、ウェス・アンダーソン、オリヴィエ・アサイヤス、リチャード・リンクレイター、ピーター・ボグダノヴィッチらのインタビューを交え、時代を超えた映画術を、新鮮な視点で現代に蘇らせたドキュメンタリー。
【取材・写真・文/蔭山勝也】
映画『ヒッチコック/トリュフォー』は2016年12月10日(土)より新宿シネマカリテほか全国で公開!
監督:ケント・ジョーンズ
出演:マーティン・スコセッシ、デビッド・フィンチャー、アルノー・デプレシャン、黒沢清、ウェス・アンダーソン、ジェームズ・グレイ、オリヴィエ・アサイヤス、リチャード・リンクレイター、ピーター・ボグダノヴィッチ、ポール・シュレイダー
配給:ロングライド
2015年/アメリカ、フランス/80分
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