ステージに登壇した黒沢監督は「この映画にお客さんが詰めかけているのを観て感慨深いと思っています」と感想を述べ「一見、ヒッチコックともトリュフォーとも関係ないと思われる現役のハリウッド映画の監督たちが次々にヒッチコックに関して熱い言葉を述べている。『ヒッチコック/トリュフォー』から始まって映画とはこういうものではないか、映画全体にまで思いを馳せさてくれるような素晴らしい作品になっていると感じました」と本作を絶賛した。
黒沢監督は“すべての映画はホラー映画である”と断言している点について「予想できなかった何かに遭遇する恐怖、人生に関わる怖さを映画は描いてしまう」と語っていて、MCを務めたアンスティチュ・フランセ日本の坂本安美が“黒沢監督も悪魔的なホラーを通して迫っているのか”と指摘すると「やろうとして簡単にできることではない。作ってるこっちはよくわからない。観てる人が発見するものかなという気もする。なかなか自由自在に操れない」と語った。
映画のつくり手側からみて、ヒッチコックの真似ができるのかと問われても「真似ができない」と話す黒沢監督は「これは文法で、こうやれば映画って捉えられるんだ。ここに映画の秘密があると思われる瞬間がある」とヒッチコックの作品について語るが「『汚名の鍵に寄っていくショット』は同じことを別の映画でやっても“何それ?”と言われるだけなんです」とヒッチコック作品の奥深さを語った。
1962年、フランソワ・トリュフォー監督が敬愛する偉大な監督アルフレッド・ヒッチコックにインタビューをさせてほしいと熱望し、2人は意気投合して長時間のインタビューが実現した。そして生まれた「Hitchcock/Truffaut」(「定本 映画術 ヒッチコック/トリュフォー」山田宏一・蓮實重彦訳)は、“映画の教科書”としてクリエイターのバイブルとなっている。本作は、当時の貴重なテープと、ヒッチコックを慕う10人のフィルムメーカーたち、マーティン・スコセッシ、デビッド・フィンチャー、黒沢清、ウェス・アンダーソン、オリヴィエ・アサイヤス、リチャード・リンクレイター、ピーター・ボグダノヴィッチらのインタビューを交え、時代を超えた映画術を、新鮮な視点で現代に蘇らせたドキュメンタリー。
【取材・写真・文/蔭山勝也】
映画『ヒッチコック/トリュフォー』は2016年12月10日(土)より新宿シネマカリテほか全国で公開!
監督:ケント・ジョーンズ
出演:マーティン・スコセッシ、デビッド・フィンチャー、アルノー・デプレシャン、黒沢清、ウェス・アンダーソン、ジェームズ・グレイ、オリヴィエ・アサイヤス、リチャード・リンクレイター、ピーター・ボグダノヴィッチ、ポール・シュレイダー
配給:ロングライド
2015年/アメリカ、フランス/80分
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