「iPhone Filmmakerになろう」が12月23日（金・祝）にアップル銀座で行われ、来日中の『タンジェリン』のショーン・ベイカー監督と、園子温監督作品などで撮影監督を務める谷川創平が登壇した。

多くの人が利用するiPhoneで全編撮影を行った本作。冒頭で谷川監督は「とにかく映画が超おもしろい。登場人物一人ひとりに惚れちゃうくらい。映画がおもしろければ何で撮ったっていいという見本のような映画」と大絶賛。イベントでモデレーターを務めた東京国際映画祭プログラミング・ディレクターの矢田部吉彦は、初めて見たときは「何を使って撮っているかは知らずに見て、（同映画祭で）上映を決めてからiPhoneで撮ったのを知った」と明かすほど、iPhoneでの撮影を感じさせない映画であることが語られた。

ベイカー監督は、iPhoneで撮影することになった経緯について“予算の問題”であることを明かし、リサーチした上で動画投稿サイトで使われていた「質に感激した」とコメント。さらに、より広い映像を捉えることが出来るアナモレンズをつけるアダプタを使ったことで「劇場での公開にも耐えうる」映像になったことを明かした。また、iPhoneを使ったことで、カメラとしての威圧感がなく、演技経験の少ないキャストに対して良い効果があったことも付け足した。

谷川監督も「いつかiPhoneで撮りたいと思っています」と明かし「どこにでもカメラを入れられるのは魅力」と撮影監督ならではの視点で語った。さらに「iPhoneは自主映画を撮るのに最高のものだと思う」と観客に薦める場面もあった。

もともと以前映画の撮影のためのロサンゼルスに移住したというベイカー監督。しかし「映画産業がある場所なのに、この地域が出てこないことに違和感があった」という思いがあり、本作を作るきっかけになったという。この地域で出会ったトランスジェンダーの二人、キキとマイアから体験などを聞けたことで正しく捉えているかを確認できたといい、キキは「10分くらいの尺が出来るたびに見に来てくれた。彼女の声や意見が必要だった」とその出会いに感謝している様子だった。

ベイカー監督は次回作は35mmフィルムで撮影することが決定しているが、何で撮るかは「企画次第」だとし「古いものを捨てる必要はなく、選択肢が増えただけだと思います」と語った。最後に「この映画は、映画館の大きなスクリーンで見たいただきたいです。映画的な体験が出来る映画として撮影したものでもあります」とメッセージを贈った。

ロサンゼルスのウェストハリウッドを舞台に、トランスジェンダーの女性二人の日常や切ない友情と恋愛を、アナモレンズを装着した3台のiPhone5sで撮影し、リアルかつユーモラスに描いた本作。ショーン・ベイカー監督が、LAの裏通りを歩き回って出会ったキタナ・キキ・ロドリゲスとマイヤ・テイラーが体験したことや友人たちから見聞きしたことをベースに脚本を書き上げ、彼女たちが生きるLAのストリートの空気感を見事に捉えた。下ネタ満載の爆笑コメディながら、切なく美しい友情の形にホロッとさせられる感動作。