國村隼、ナ・ホンジン監督

韓国映画史に残るサスペンス・スリラー『哭声/コクソン』が3月5日(日)にゆうばり国際ファンタスティック映画祭2017でクロージング上映され、舞台挨拶にナ・ホンジン監督と國村隼が登壇した。

3月6日(月)まで開催中の「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2017」でクロージング作品として上映された本作の舞台挨拶に、今年1月に続き来日したナ・ホンジン監督と國村隼が登壇。ナ・ホンジン監督は、2009年の『チェイサー』上映、2011年の審査員として参加時以来の同映画祭への参加で、國村は初参加となる。上映後には観客とのティーチインも行われた。

上映前に一人で登場したナ・ホンジン監督は「こんにちは、ナ・ホンジンです」と日本語を交えて挨拶。國村が韓国の青龍映画賞で、外国人俳優史上初となる男優助演賞を受賞したことについて「本当にうれしかったです。その演技はもらって当然だと思ってはいましたが、授賞式のために韓国まで足を運んでくださって受賞されなかったらどうしようかと心配したので、胸をなでおろしました」と安堵の様子を見せた。

上映後の舞台挨拶に参加した國村は、出演を決めた理由について「撮影自体は今まで経験したことのないくらいタフなものになるだろと予想はしていましたが、それでもやりたいと思いました」と振り返り、國村に出演オファーをしたナ・ホンジン監督は「國村さんのこれまでの映画を見て、編集されていないひとつのカットの中ですでに編集されているような多様な姿を見せているのが印象的でした。映画をご覧頂いたように、お客さんが“よそ者”という人物をどう捉えるかが重要で、その点で國村さんとこの映画が目指す目標が一致したのでお願いすることにしました」と語った。

また、観客とのティーチインでは質問が途切れることなく飛び出した。映画のアイデアの根源について「これまで作られた他の作品を見てみても、加害者からの視点の方が多かったと思います。でも、自分は被害者の視点でこの物語を進めたかったんです。“なぜ、この人はこんな目に遭わなければならないのか”、“なぜこんなことになってしまったのか?”」と語るナ・ホンジン監督。“よそ者”を日本人にしたことについては「よそ者のモチーフは新約聖書から得ました。皆さんは主人公ジョングの立場から映画をご覧になったと思いますが、よそ者は聖書ではその反対側にある存在です。遠くエルサレムから噂になっているイエスという存在。イエスが近づいてきて実際に姿を現し、それを見守るユダヤ人の姿。それを日本人にした理由は、韓国人と似たような外見でありながら異質である国の人の存在が必要でした。韓国に中国人はたくさんいて脱北者も意外に多いので、それで日本人にしました」と明かした。

何か起きた時によそ者のせいだと排除していく物語が、現実の社会の流れとつながっていることについて國村は「僕もそう感じました。この役柄は、その存在すら疑ってもいいような存在です。韓国映画における日本人という捉え方ではとても掴めないキャラクターで、もっと人間の存在の根源の部分を問いかけます。人の世の中で一番恐ろしい“噂”だったり、確かなものでないものへの不安。そこから沸き起こる疑心暗鬼が生み出す悲劇だと考えれば、納得のいくストーリーだといえます」と説明する。登場する祈祷師イルグァンついてナ・ホンジン監督は「このキャラクターは韓国の民族信仰(シャーマニズム)の象徴です。でも、彼のやってる行為は悪を葬ろうとするのか振り払おうとするのかは曖昧です。“よそ者”が果たす役割によって、イルグァンの役割の解釈も変わってくると思います」と本作を見る上でのアドバイスを与えた。

本作は谷城(コクソン)という韓国にある実際の町が物語の舞台になっているが、劇中で激しい雨になったり晴れ間が見えたりといった印象的な気候の変化について聞かれたナ・ホンジン監督は「コクソンを舞台に選んだのは、高いビルも山並みも見える、スカイラインも見えるという場所だったからです。それによって天気や時間の変化、そういうものが常に人物の後ろに現れるように設定しました。理由としては、この映画は神という存在に関する話でもありますが、自然を通して神という存在を表現したかったんです」と説明した。当初は地元のリアクションは冷ややかだったというが、韓国で劇場公開されると“聖地巡礼”として観光客が8倍に増えて町長に感謝されたことを明かすと場内は大きな笑いに包まれるなど、熱気ある観客に触れ饒舌に様々なエピソードを披露した。

本年度カンヌ国際映画祭で上映されると観る人を震撼させ、韓国では観客動員数700万人に迫る大ヒットを記録した韓国映画史上に残る骨太なサスペンス・スリラーである本作。43歳にして初の主演作となるクァク・ドウォンが警官ジョングを演じ、村人を惑わすよそ者を、その強烈な存在感で韓国の映画ファンを虜にし、熱狂的な支持を得た日本の俳優・國村隼が演じる。さらにファン・ジョンミン、チョン・ウヒなど演技派俳優が顔を揃えた。平和な村で起こる不可解な事件。あなたが見ているものは本当に真実なのか―?

映画『哭声/コクソン』は2017年3月11日(土)よりシネマート新宿ほかにて公開!
監督:ナ・ホンジン
出演:クァク・ドウォン、ファン・ジョンミン、國村隼、チョン・ウヒ
配給:クロックワークス
2016年/韓国/156分
©2016 TWENTIETH CENTURY FOX FILM CORPORATION