カメラの前や制作現場、映画業界の至る所で活躍する女性たちに光をあてるプログラム「Women in Motion」。2015年のカンヌ国際映画祭に生まれた本プログラムの3年目となる今年、イザベル・ユペールがポスターのポートレートに選ばれた。本イベントでは、フランス映画祭2017で上映される主演作『エル ELLE』でゴールデン・グローブ賞主演女優賞を受賞し、アカデミー賞主演女優賞にもノミネートされ、長年女優として第一線で活躍しているイザベル・ユペールが、自らが演じてきた女性像について語った。さらに聞き手として、カンヌ国際映画祭をはじめ、国際的に評価の高い是枝裕和監督が登壇した。
「フランスの人は、みんな是枝さんの作品が大好きです」と笑顔で挨拶したイザベル・ユペール。それに対して是枝裕和監督は「緊張してきたね・・・」と緊張した面持ちで挨拶し、自身の作品でフランス・パリを訪れた際にユペールと会った時のエピソードで「ホテルで少し話をしてから、『じゃあね!』ってふっと街中に消えていったんです。みんなで『かっこいいな』って。ふらっと来て、ふらっと去っていくんですけど、それがかっこいいんです」と去り際の格好良さををべた褒め。笑みを浮かべながら聞いていたユペールは「表から見ても格好いいんですけど」と冗談で返した。
また、是枝は劇中での歩いているシーンについても気になるようで、ユペールの主演作『未来よ、こんにちは』(2016)について「あの映画の中で、歩き方というのは演技をするうえでどれくらい重要ですか?」と問いかけると、ユペールは「常に前進するということを描きたかった。それを人物が歩く様子によって描いています」と、是枝が気になっていた“歩く”ということがとても重要なポイントであることを明かした。ユペールは自身の役作りに付いて「外面から入る」と明かし「内面を演じる前に作るのは難しい。服などを決めるとそれが見る人のヒントになる。ほかは後からついてくる」と語った。
イベントでは、是枝が選んだユペールの出演作品の映像を流しながら、ユペール自身が一つ一つ丁寧に解説をしていった。様々な質問を投げかける中で、是枝は“ユペールの涙を流す演技”について「涙のコントロールは自在にできるタイプですか?」と問いかけると、ユペールは「泣くのは心地がいいこと。必要な時に泣くのは簡単です」と答え場内からは驚きの声が上がった。しかしユペールは続けて「“演じている人物のことを忘れるのは昔いですか?”とよく言われますが、同化することは全くないです。苦しむこともないです」と演技は演技と切り離していることを強調し、そのため「感情に押されて涙を流すわけではない」と語った。
また、ピアノを弾くシーンでは「ピアノを習っていました。母が上手で、毎日1時間弾いていて、6歳の時には上手に弾けました。今は上手ではないです・・・」ともともとの素養があったことが明かされると是枝は納得した表情を浮かべた。ここで是枝はどうしても気になっていた質問として「初めて買ったレコードはなんですか?」と問いかけたが、ユペールは「覚えていないです・・・。たぶんビートルズかもしれないです」という曖昧な返答に残念がる場面もあった。
イベントの終盤では観客から質問が寄せられ、ユペールを起用したらどのような役にしたいかと聞かれた是枝は「颯爽と歩く姿をかっこよく撮りたい」とこの日何度も語っている“歩く姿の格好良さ”を再びアピール。逆に是枝監督作品に出演するとしたら?という質問にユペールは「是枝さんと日本を縦断したい。いつか実現したらいいなと思います。一緒に仕事をしようと言ってくれることは嬉しいことで、またサプライズを用意してくれたら嬉しい。だから、是枝監督が私が演じる人物をどんな風に描いたかを全く知らない状態で仕事をしたいです」と語った。
日本でいち早くフランス映画の新作を観ることが出来る機会となるフランス映画祭。第25回目の今年は、フランスの国民的女優カトリーヌ・ドヌーヴが「フランス映画祭2017 団長」に就任し、主演作『ルージュの手紙』を引っ提げて来日。さらに昨年本映画祭の団長を務めたイザベル・ユペールがアカデミー賞主演女優賞にノミネートされた主演作『エル ELLE』で来日するほか、バラエティ豊かなフランス映画が連日上映される。
「フランス映画祭2017」は2017年6月22日(木)~25日(日)に有楽町朝日ホール、TOHOシネマズ日劇にて開催!