新宿ピカデリー9周年記念特別上映『息もできない』のトークイベントが8月7日（月）に新宿ピカデリーで行われ、本作で監督・主演を務めたヤン・イクチュンと東出昌大が登壇した。

今回の特別上映に合わせて来日したヤン・イクチュン。三夜開催されるクロストーク付き上映の記念すべき第一夜のゲストは、『聖の青春』での演技で数々の映画賞を受賞するなど活躍する東出昌大。かねてから本作『息もできない』のファンであった東出が念願のヤン・イクチュンと初対面を果たした。

「この映画を撮影したのは2007年だったので、10歳年を取りました」と笑いを誘いつつ挨拶したヤン・イクチュン。一方かねてからファンであったと公言する東出昌大は「ヤン監督とお会いする機会はなかなかないので、今日は一ファンとして話を掘り下げたい」と緊張した面持ちとともに目を輝かせた。さらに東出は韓国映画をよく見ているといい「（この映画は）一番好きな韓国映画」と断言した。対して、今回のイベントの前に東出が出演する『桐島、部活やめるってよ』を観たというヤン監督は「無表情にも重みを感じさせる演技が魅力的」と語りつつ「私もあと10㎝身長が高ければ東出さんのように表現できるんじゃないかと思う」と観客を沸かせた。

東出は俳優として興味津々の様子で次々と質問を投げかけた。「この脚本はどのように書いた？」という質問にヤン監督は「福岡のある人口の湖のところで書いた。釣りをしているおじさんがいたり平和な光景が見られた。なぜあのような暴力的なシーンを書いたのか自分でも想像がつかない（笑）」と明かした。また出演する「キム・コッピさんの演技が素晴らしい」という東出に、ヤン監督は「当初はほかの女優さんを当て書きした。撮影に入ろうとした時に、マネージメント会社とギャラ交渉になり、出演は難しいと言われた。いくらか聞くと500万ウォンと。こちらは300万ウォンしか用意できなかった！」と笑いながら明かし、東出も笑いつつも「素晴らしかった！」とキムの演技を称賛した。

その後もキム・コッピとヤン監督との出会いは、ヤン監督が映画祭で観た短編映画だったことや、ヤン監督がキャスティングする際は「出会ったことがある人や、一緒に作品をやった人」が多かったと明かすと、東出は真剣な眼差しで聞き入っていた。さらに「もし二人が共演したら？」というというに東出は「そんな話がもしあるならばありがたいです」と語り、ヤン監督は「もし実現するのであれば、『ロード・オブ・ザ・リング』のように東出さんをCGでホビットにして、私をガンダルフにして出演したい」と再び会場を沸かせた。そしてMCから「そろそろ時間が・・・」と告げられると「うそだー！まだ話したいことあったのに」と残念がる東出。

最後に東出は「ヤン監督は、日本と韓国の橋渡しをしてくれる方。国境をまたいでお互い手を取り合って芸術分野で頑張れるのは素晴らしいこと。僕も作り手側なので、尊敬される役者、クリエイターになれれば」とコメントし、ヤン監督は「（10月に日本で公開される出演作）『あゝ、荒野』は去年撮影した映画で今よりも10㎏痩せていました。菅田（将暉）さんと熾烈な撮影を乗り切った。この作品がどう伝わるかが気になっています」とコメントし、東出も「絶対観ます！みんな、観ましょう！」と語り、イベントを締めた。

2009年の作品発表時には世界の国際映画祭・映画賞で25以上もの賞に輝き、2010年の日本公開時にも大きな話題を呼んだ『息もできない』がデジタル化され、新宿ピカデリーの9周年を記念して特別上映。本作が映画監督デビューとなったヤン・イクチュン。本作では製作・監督・脚本・編集・主演を務めた。偶然の出会い、それは最低最悪の出会い。しかし、運命はそこから動き始めた―。「家族」という逃れられないしがらみの中で生きてきた二人。父への怒りと憎しみを抱いて社会の底辺で生きる取り立て屋の男サンフンと、傷ついた心を隠した勝気な女子高生ヨニ。歳が離れた二人は惹かれあったが、彼らの思いをよそに運命の歯車が軋みをたてて動き始める―。